第39話 逸材
「大変だよ、クロード。この間のも、倒すのにすごく時間がかかったんだよね。あんなのがたくさんいたら町が大変な事になっちゃうよ」
イリアの懸念に頷く。
これはクロードでなくとも不安になる。
つい先ほど見た平和な街が、彼等の手に掛かり無残な光景へとなり果ててしまうのを、思わず脳裏で想像してしまうが……。
「大丈夫、平気よ。こんなの日常茶飯事だもの」
「日常茶飯事!?」
アリィは、その身に自信を纏わせて、室内に集う者達へ指示すべく声を張り上げた。
「さ、皆! 大丈夫、いつも通りにやれば今回だって撃退できるわ。でも、油断は大敵。気を引き締めて行きましょう」
その様子は堂々としていて、まるで何度も何度も同じ事を言って場をまとめて来てでもしたかの様に見える。アリィのそれは、とても堂に入ったものだった。
今までは、彼女達の身分の事などは、さほど気にも留めていなかったが……。
ひょっとしたら、アリィ達はかなり立場がある人間なのではなかろうか。
「アリィさん達ってひょっとして、まさかとは思うけど、この町の防衛部隊的な存在の隊長格だったりするのか……」
クロードが呟いたその独り言は、当人にしっかり聞かれていた様だ。
「そうだけど? 言ってなかったかしら」
初耳すぎる情報だった。
断言できる。
アリィ達は言ってないし、クロード達も聞いてない。
「あ、何か映ったよ!」
イリアの声に導かれるように視線を動かす。
見つめるのは、部屋の奥で目立つ巨大なモニター。
大空を背景にしたその光景の中には、一つの動く影があった。
それは人だ。
空を飛ぶ人。
瞬間に、ユーフォリアに初めて会った時の事を思い出す。
まさか、あそこに映っている人達がそうなのだろうか?
アリィ達が言っていた、竜の血に適応した人間……。
人の影達は、統制の取れた動きで大空をかけ始める。
彼等の身には、誰の体にも腰部に筒状の機械の様な物が取り付けられたいた。
「あの腰にあるやつは何ですか」
「フロートユニットよ。竜の羽を素材に使った物で、生身で空を飛ぶための機械。ユーフォリアは自力で飛べるみたいだけど、私達は無理だから」
この地上には、そんな物まであるらしい。
人が空を飛ぶなんて事は、つい最近の例外を除けば海中世界でありえない事だった。
「対竜飛行部隊での支給品なの」
モニターの中にいる彼らは、それぞれ数人のグループとなって竜を引き付け始める。
そして、思う様に竜を翻弄する。
それぞれのグループが別々に、まるで一つの意思で統制されているように鮮やかに動いて、それぞれの本領を発揮していく。
そこで行われたのは、圧倒的強者の戦闘。
彼等は、手にした思い思いの武器であっという間に竜を倒してしまったのだ。
「こんなにあっさりと、信じられない」
これならば、竜を倒そうなんて発想がでてくるのも頷けるものだった。
というか、これならクロード達の力など要らないのではと思うが……。
「あの人達の使ってる武器、竜の素材」
自分達の存在意義について思い悩んでいると、ユーフォリアがふいに呟いた。
「竜の?」
「うん、何となくだけど、竜の力を上から……地上の方から感じる。たくさん、もしかしてって思ってるけど、竜と人の数だけ、感じたから」
そんな事まで分かるらしい。
彼らが竜と渡らう為に振るっていた様々な武器達を脳裏へ思い起こした。
支給品が同一の物だったのに対して、武器はそれぞれ違うもの。
一人一人の個性や特性にあったように、近接系や遠距離系……モーニングスターやらメイスやら、昆やら長刀、剣や銃などに分かれていた。
「それも、例の死んだ竜からもらったやつなんですか?」
クロードがその疑問について尋ねてみれば、それに対してもアリィは肯定。
「ええ、簡単に倒している様に見えるでしょうけど、その為には地道な努力と準備が必要だったの。それでやっとここまで。恩寵持ちとはいえ、生身の体で竜と対抗できるのは貴方達くらいよ」
つまり時間とか、物資とか、訓練とかがもの凄く必要だったと。
だから、逸材としてクロード達は目をつけられたのだろう。
なるほどと思った。
自慢じゃないが戦闘センスに関しては、イリアの右に出る者は早々いないし、そんな彼女に行きを合わせ、自在に動けるのはクロードくらいのものだから。
だが、理屈で理解できたからといって、先ほど行われた戦闘の様に、彼等と同じように動けと言われてできる気は中々してこないのが、本音のところなのだが。
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