第4話 思わずの神頼み



 マルグリッド大施設会場

 辿り着いた場所。

 コンサート会場のその前は、人で溢れていた。


 怪我人と、野次馬。

 人の流れは、確実に会場から外に向けて移動していっている。


 間違いなく、中で何か起きたのだ。


「イリア!」


 叫び、周囲を探していくが見慣れた知人の姿はまるで見当たらない。

 そうだ、混乱のあまり忘れていた。


(あのイリアがこの状況で、大人しく逃げてくるわけないじゃないか)


 周囲にいるのは、手当を求めて痛みを訴える人や、怪我をかばいながらも会場から少しでも離れようとする者達ばかり。あるいは、自らの良心に従って野次馬の中から出てきたお人よし達。


 そんな彼らをかきわけて進むのは気が引けたが、仕方がない。


「通してください。悪いけど、そこ通して」


 声を張り上げながら、人の流れに逆らい移動。


 数千人ほどの人間を収容できる、大型施設へと足を踏み入れていった。

 中に入ると、よく見えない。薄暗かった。

 かろうじて非常灯のおかげで通路は見えるくらい。


 煙で視界が遮られてしまう事を危惧していたが、そこまでではない。

 建物のどこかに穴でも開いたのか、風通しが良くなって流れていったようだ。


「イリア!」


 返事はない。

 奥へ奥へと向かって、先へ進んでいく。

 広場をよく探しもしなかったが、それで良いと判断。

 あの場で大人しくしているなんて事は微塵も考えなかった。


「いたら、返事をしろ! イリア……! くそ、やっぱりもっと奥か」


 エントランスを抜けて、通路を歩くがそれでもそれらしい影は見つからない。

 やはりまだ、彼女は会場に残っているのだ。

 向かう速度を上げて、会場へと繋がる大きな扉を開ける。


 ほんの少し前までは賑やかしくコンサートが開かれていたはずの、会場へ。

 だが、その場所は無残な光景へとなり果てていた。

 収容人数分並んでいる座席は、破片で無残になっており、会場の中心は焼け焦げてしまって、原型すら残らない。


 あそこで、何か爆発物でも爆発したのかもしれない。

 この広い会場全体を、無残にしてしまう様な威力の爆弾で……。


「っ……!」


 鳥肌が立つ。

 彼女がもし、それに巻き込まれてしまっていたら。

 姿を見なかったのは、逃げてこなかったのは、単純に生きていなかったからだとしたら。


「イリ……ア……っ!」


 意図的に視線を向けようとしていなかったそれら、床に倒れている少し前まで人だった者達を恐る恐る見つめていく。


(もし、もしその中にイリアの姿があったら……! そんなの、嫌だ。イリア、頼むから、返事をしてくれ!)


 恐ろしい最悪の結末に、その場に立ち止まってしまってからどれだけ時間が経っただろうか。

 死体を数えるのが二桁目に突入しようという頃……。


「クロード!」


 彼女の声がした。

 その時クロードが思った事など、大した事ではない。

 というか、大した事を考える余裕すらなかった。


(神様……)


 普段、そんなものに祈りもしない癖に、とっさにそんな事を考えてたのだから後で思い起こせば笑えてしまう。


「イリア、どこだ!?」

「クロード、こっち……」


 声のする方向を探していくと、

 彼女の声が大分低い位置からするのが分かった。


 視線を下げて見ていくと……。

 視線の先に、座席の陰で隠れる様にしゃがんでいたイリアの姿があった。

 その傍には怪我をした小さな女の子が倒れている。


 様子を見るに、かすかに身動きしているのが分かった。

 怪我はしていないようだから、気を失っているだけなのだろう。


 やはりイリアは、他の人間の面倒を見ていた様だ。

 大穴で事件の犯人を追いかけているか、とっちめようとしているかという可能性もあったが、被害者がいるなら放っておける彼女ではない。


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