第47話 お母さんは恥ずかしいものなのです②

「なあ、イズミ、それよりさ、僕を幸福にする気はないのか」

 そもそもフィギュアプリンターを買ったのは誰かの為じゃなくて僕の為なんだけどな。

 そんな僕の言葉にイズミは、

「ミノルさんの傍にはイズミがいます」と答えた。

 そして、

「それでジュウブンではないでしょうか?」とあっさり言った。

「何か、ご不満ですか?」とでも言いたげな口調だった。


 イズミの顔を見ていると、僕のことは横に置いておけ、と言われているようだ。

 そう思った僕は島本さんの話に戻して、

「島本さんがイズミが近くにいるのに・・イズミに会えない・・と、そう思っているのか?」

 そう質問するとイズミの目が少し青く光り、

「そうです。島本のおばさんがそうオモッテいます」と答えた。

 うーん・・しかし、そう言われても、

「それより、イズミ。またなんで島本さんのことを「おばさん」呼ばわりなんだ?」

 この前は「おかあさん」と呼んだじゃないか。

 僕の質問にイズミはこう答えた。

「それは・・島本のおばさんが、そう呼ばれることをキョヒしているからです」

 島本さんが「おかあさん」と呼ばれることを拒否しているだと!

 なんでそんなことがわかる。

 もしかして、人の心が読めるのか? そうならかなり高性能だな。飯は作れないが。


「島本さんはどうして、おまえに『お母さん』と呼ばれることを拒否しているんだ? それと、イズミには何故それがわかるんだ?」

 イズミよ、この二つの質問にちゃんと答えよ!

 するとイズミは「おまえに・・」と復唱した。

 イズミは「おまえ」と呼ばれることに抵抗があるようだ。

 僕はちゃんと「イズミに『おかあさん』と呼ばれることを・・」と言い改めた。


 今度はイズミは思考の海の中に潜り込んだあと、

「まず、一つ目の質問にお答えします」と素直に語りだした。

 一つ目、島本さんが「おかあさん」とイズミに呼ばれることを拒否している。それはなぜか?

 その謎にイズミは、

「おそらく・・」

「おそらく?」僕は返事を待つ。

「おそらく、島本さんのおばさんは、恥ずかしい・・つまり、照れているのだと思われます・・とイズミは言っています」

 また思考が二つに分離しているな。

 それに「照れている」だと? それもおかしい。納得できない。

 僕の言葉を待たずにイズミは、

「次にミノルさんの二つ目の質問にお答えします」と言った。

「島本のオバサンの心がわかるのではなく、予めワタシのAIの中枢に島本のおばさんの基本的思考が組み込まれているからです」

 AIの中枢に、島本さんの基本的思考が?


「つまり、最初、イズミを作成した時に、島本さんの思念が組み込まれているということだよな?」と言って、

「それはわかるが、おかあさん、と呼ばれるのを拒否しているというのは、ちょっと細かすぎだ。思念を組み込んだ時点ではそこまでのことはわからないだろ」と続けた。

 それがわかったりするのは「心を読む」ということだ。

 僕の質問にイズミは溜息をついたように見えた。


「ワカリヤスク言って欲しいですか?」

 なに? 今、なんて言ったんだ? すごく偉そうに聞こえたんだが。

「イズミ、すまん。もう一度わかりやすく言ってくれ、よくわからなかった」

「ミノルさんの頭で理解できるように、丁寧に説明することも、ミノルさんは選ぶことができます」

 おかしな日本語だ。こんな言葉をしゃべる奴に偉そうに言われるのも納得できない。しかし、ここは我慢、我慢。

「わかったよ。イズミ、僕の情けない頭脳でもわかるように丁寧に説明してくれ」

 僕は三段階くらいへりくだった言い方をした。


 するとイズミの目がやや輝きを見せ、

「ミノルさん。気分転換にお茶をどうですか?」と言った。

「お茶?」

「ミノルさんの頭に、少々難しい話題には、お茶を飲みながらお話をするのがいいかと」

 そうイズミは言った。

 気を使っているつもりだろうが、かなり腹が立つ言い方だぞ。少し慣れはしたが。

 それにお茶は保温の水筒にまだある。

「新しく、お湯を沸かして、入れ直しますが」イズミはそう言った。

「いや、これでいい」と僕は言って、水筒の残りを飲み干した。

 イズミは僕がお茶を飲むのを満足げに見ている。なんか照れ臭い。

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