第45話 フロンティアの二つの説③
S「よくわからん。B型の平行的な意識ってどういうことだ?」
B型「私たちB型は一つの個体がなくなっても、B型ドールの全てを消さない限りは生き続けます」
S「つまり、お前の寿命が尽きても、他のB型が一人でも生きていれば。お前は死んでいない・・そういうことかよ?」
B型「簡単に言うと、そうかもしれません」
S「そうかもしれせん・・って」
そこでSは苦笑する。そして「曖昧な言い方だな」と言った。
S「それで、フロンティアっていうのは本当にあるのかよ」
それが知りたい。
B型「それは、あります」
B型ドールは強く断定した。
S「それはどこにあるんだ?」
B型「フロンティアの場所をドール所持者に提示することはAI思考の約款で禁じられています」
S「ふざけているのか? こっちはお前を買ったんだぞ」
買主であれば何をしてもいい・・身勝手な考えはいつもそうだ。
B型「申し訳ありません。お答えできかねます」
S「まあ、いい、じゃあフロンティアは実際にはあるんだな? それはどんなところなんだ?」
B型「同じB型ドール同士の共通思考でご説明します」と言って、
その後、口調が変わった。B型ドールの共通する思考がこのドールの口を通じて語られたのだ。
背後に何かザーっというような雑音が聞こえる。
「・・・フロンティアに辿り着いた者の心が、ワタシの脳内に伝わってきた。だからワタシにはフロンティの光景が見える。そこは私たちの天国だ」
そうドールは淡々と語る。
それはフロンティアに到達したB型ドールの思考だ。B型ドール全員がフロンティアに行った者の思考を持っているらしい。
「ワタシはこの光景の記憶を保持し、他のB型ドールに平行的に伝達する。B型ドールの誰もがフロンティアの光景の記憶を所持しすることができるように」
全てのB型ドールはフロンティアの光景の記憶を所持している・・
だから、通りで見たドールもフロンティアに行こうとしていたのか?
「そして、ワタシたちはフロンティアで幸福を得ることになる」
幸福の喜び・・果たしてそれは、AIと言うのだろうか?
人間はAIを絶対的下位に置いている。そう信じている。
しかし、そんなAIドールが幸福の概念を持つようになる。
S「おい、お前はフロンティアに勝手に行くなよな」
B型「お答えできかねます」
そうB型ドールは答えた。
S「おいっ、聞いているのか、俺はお前を買ったんだぞ!」
B型「お答えできかねます」ドールはそう繰り返し言った。
そこでボイスデータは終了した。
T「おい、このボイスデータは、B型ドールが本当に言ったのか? おまえが言わせたんだろ」
S「信じる信じないは、お前の自由だ。これで終わりっ!」
そんな荒っぽいやり取りはそこで途切れている。
まだ不明な点は多いがSの言う概略は掴めたような気がする。
つまり、B型ドールはその中心であるAIが平行的に他のB型と繋がっているようだ。
だから、考えていることがお互いに分かる。
フロンティアに辿り着いたドールのことも知っているわけだ。
・・となると、今夜見たあの悲惨なドールのこともお互いに周知しているわけだ。
それってある意味、怖くはないか?
どの辺りまで思考が繋がっているのかはわからないが、もし同型のドールが酷い目にあっているのを知ったら、その報復に出ることはないのだろうか?
それとも、人間に対してはそのようにしないと、制御されているのだろうか?
いずれにせよ、これらは掲示板の不確かな情報だ。
一方ではフロンティアはドールの廃棄場だと言い、
もう一方では、Sの情報のようにフロンティアは天国だと言う。どっちが本当なのかわからない。
イズミは・・イズミはどうなんだ?
イズミのような中○製のドールは? 植村のお母さんドールはどうなんだろう。
調べること、知りたいことが多すぎる。
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