第25話 フロンティア①

◆フロンティア


 いずれにせよ、夜の分の弁当を買ってきて正解だったな・・と思いながら、僕はノートパソコンを開けた。

 またイズミがスリスリと寄ってきて、

「ミノルさん。また調べものですか?」と訊いた。

 僕は「ああ、そうだ」とぶっきら棒に答えた。

 僕は機嫌が悪いんだ、という雰囲気を懸命に出しながら、キーボードを叩いた。

 イズミはむくれたように、それっきり黙って僕の指先だけを見ている。


 検索サイトが開くと、

 さっそく植村から聞いた「ドール・姥捨て」とタイプした。

 すると、出るわ出るわ・・

「不要になったドールの事ならおまかせ!・・『ドール姥捨企画』」

「ドールの寿命が来たら、私たち『ドール本舗』に!」

「B型ドール回収します! 高価買取・絶対安心!」

 等々、延々と会社の派手な広告文字が並ぶ。


「姥捨て」や、「回収」の文字はもちろん気になったが、

その中で最も気になったのは「寿命」という文字だった。


 企業の広告以外に、

「ドール姥捨て・34回目」・・などというスレッドもある。

 さっそく開いてみると、色んなやり取りが見受けられた。


A「このサイトでおススメだった姥捨て本舗でドールを処分してもらったよ。けど泣いちゃったよお!」

B「処分って・・宅配便で送るのか?」

A「僕の場合は業者が引き取りに来てくれた。先方に送ることもできるらしいよ。梱包が大変だけどね」

C「そもそも、何で処分したん?」

A「家に2体もドールはいらないからだよ」

C「作り直したん?」

A「思念の送り直しをしたよ・・タイプが違ったからね。頭に全然違う女性の姿を描いた。二体目は最高の出来だよ。金をかけた甲斐があった」

C「いくらかかったん?」

A「手数料込みの10万・・でも販売会社によって違うから、調べてみて」


 何だか、痛々しいな・・引取りとか・・


D「高い高い材料を買い直して、僕のオリジナルメイドを更にパワーアップさせました」

C「何をパワーアップしたん?」

D「おい、あんた、さっきから質問ばっかだな・・まあいい。炊事洗濯の品質を向上したんだよ」

C「意味がわからないんだけど。洗濯の品質って・・何なん?」

 その後、DはCを無視している。


 そんなどうでもいい内容の中に、少し気になるのが見つかった。


X「フィギュアプリンターの販売元はよくチェックしろよ。

 俺は、何度もここの掲示板に書いているが、アメリカ規格だからな!」

 

それに応じるように、別の男が、

Z「そうそう。AGP社のにしろよ。アメリカ規格の中○製のフィギュアプリンターを扱っている会社だ。一番いい。AGP社が見つからなかったら、TEK社でもOKだ。中○規格の中○製は寿命が一年もないぞ! 確かだからな! どっちも買ったことのある経験者の俺がいうのだから間違いない」


 ドールの寿命・・そう言えば、前回サイトを覗いた際、国産B型は寿命が短いと誰かが書いていた。中○規格の中○製だと、寿命が短いのか・・


 僕は慌てて、通販会社からの送付状をチェックした。確かにAGP社と記されている。ホッとした。イズミはAGP社のものだ。

 変な安心かもしれないが、このXとZの言葉が信用できる気がした。

 

 だが、僕のフィギュアプリンターがアメリカ規格のものであっても、植村のお母さんドールはどうなんだ? それも気になる。今度訊いてみよう。


 それより、今回は「姥捨てサイト」についてもう少し知りたい。

 ページをスクロールさせていくと、目を引いた文章があった。

F「俺の場合は国産B型だから、やっぱり逃げたよ」

G「だから、言ったろ。B型はダメだって」

 え、逃げた?

 あの時、町の通りで男たちに車の中に担ぎ込まれていたのは、やはり、B型の国産ドールだったのか?


H「B型は、すぐに逃げるからなあ・・」

C「なんで逃げるん?」


I「それが国産の欠点なんだよ。すぐに自分の命について考える。それはもちろんA型も同じだが、A型は、アップグレードで寿命を延ばせるが、B型は構造的に無理なんだ」

 

 同じようなのを前に読んだな。

 しかし、それで、逃げだすとは・・

 B型のドールは何から逃げていたのだろう?


C「だから、何で逃げるの?」

I「逃げるというよりも、どこかに向かう・・だな」

C「どこへ行くの?」

I「『フロンティア』だよ」

 ・・・フロンティア? どういうことだ?

 フロンティアは、「最前線」と言う意味の他に「新天地」という意味がある。

 B型ドールは「新天地」に向かうために逃げ出す・・


C「何なん、それ?」

I「おまえ、バカか、ちょっとは自分で調べろよ」

 話はそこで終わった。

 おそらくCは知りたいのだろう。彼は僕と同じで、何も知らない。

 だが、Cがドールの所持者か、購入予定者なのかはわからない。ネットではそんな奴は面倒臭い奴に整理されてしまう。

 訊ねるだけではダメだ。

 僕はこれまで知り得た情報を頭の中で整理した。


「国産A型ドール」・・作成方法は、インプット方式。アップグレードができ寿命を延ばせる・・山田課長の所持するドールだ。

「国産B型ドール」・・寿命が短いらしい。山田課長の会社で業務に使用されている。そして、逃亡するドールが捕えられているところを僕は見た。


「中○規格の中○製ドール」・・おそらく思念の伝達で作成。出来が悪いらしい。そして、寿命が一年もない。中○製そのものだな。

「アメリカ規格の中○製ドール」・・思念の伝達で作成。これがイズミだ。出来がいいのかどうか不明・・販売会社はAGP社。他にTEK社などがある。

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