第8話 返品は可能か?
◆返品は可能か?
「年齢の設定は今から変更できないのか?」
ドールを25歳位にしてしまえば、恋人でも兄妹でも何とか釣り合いはとれる。
しかし、ドールはこう言った。
「ムリです・・ミノルさんは既に思念の伝達を行なってしまいました。今から変更は不可能です・・」
そうだよな・・もう出来上がっているもんな・・一応訊いてみただけだ。
「だた・・一つだけ、方法がアリマス」
「あるのか?・・そんなことができるのか!」
何とかなりそうだ。よかった。
ドールは年齢の変更方法について説明を始めた。
「まず、ワタシを販売元にヘンピンして、新しいドールを再度コウニュウしてください」
「それ・・代金が戻ってくるのか?」
僕の問いにドールは勢いよく首を左右に振った。
そして、無表情かつ澄ました顔で、
「ミノルさんは、私をもう使用したことになっています」
「まだ初期設定の段階だろ!」
少し間を置いて、ドールは、
「いえ・・私は・・すでに『オフル』になってしまいました」と言った。
おふる・・って、もう「お古」かよ。
「まだ何にもしてないじゃないか」
そう言うと、ドールは、
「すでに、ミノルさんは、先ほど、ワタシの体に触れました」
「触れるって・・ちょっと支えた程度だぞ」
また間を置き、ドールは「ユーザーは新品を好みます」と言った。
新品・・中古品・・
もうこのドールは中古扱いということか、返品しても値が下がって・・
いや、それなら、差額分だけでも・・と思っていたら、
「こんな顔・・ミノルさん好みに造られた顔・・そして、こんな幼児体型の体を、誰が好き好んで買うでしょうか?」
さっきと違って、ずいぶんと流暢にしゃべるな・・
それに幼児体型って・・僕はそこまで思念を送り込んでいないぞ!
こういうクレーム発言に対応するのは得意なのか?
それともメーカーから事前に言葉が組み込まれているのか。
それにしても・・仮に僕がこのドールを返品すれば、このドールはどうなるのだろう。思考するAIは中古品としての用を成さなければ・・
商品として「破棄」される運命を辿るのだろうか?
仕方ない・・中古としての返品は諦めるとする。
「わかったよ・・関係性は・・そうだな・・ともだち・・友達でいいか?」
僕がそう言うと、
「トモダチ・・ですね」と答えた。納得したようだな。
ちょっと、待て・・ずいぶん年齢の違う友達だな。
そう考えていると、ドールは「友達・・とキオクしました」と淡々と言った。
どうやら、変更は効かないようだ。
「次に・・私の年齢を決めてください」
おかしなことを言うな。頭の中で、17歳と願ったはずだぞ。
僕はいちいちコメントをせず「17歳」と返答した。
「はい。17歳ですね」とドールは自分の年齢を確認する。
「私は、本日生まれの17歳です」
それ、何となく、おかしいな・・すごくおかしい・・
次にドールは、「ミノルさんのお誕生日もオシエテください」と訊ねた。
「誕生日って・・どうして、またそんなことを」
「私は、ミノルさんのお誕生日祝いをしなければなりません」
「いいよ。別にそんなこと、しなくても」
自慢じゃないが、そんなことされるのは小学校の時以来だ。それ以来ゼロだ。
「これは、ドールとしての私の義務です」
僕は文句も言わず、自分の誕生日をドールに言った。
ドールは僕の誕生日を一回暗唱すると、その言葉を呑み込むように頭の中に仕舞い込んだようだ。「了解です」
初期設定はまだあるのか? と思っていると、
「次に私の身長とスリーサーズをケッテイします」
サーズじゃなくて、サイズだ、と僕は修正させた。
「身長なんて、もう出来てるじゃないか?」
それに、体つきなどは思念で伝えたはずだ。
「ビシュウセイなら、まだ効きます」
微修正? 微調節ということか? よくわからない。
ゴムみたいに伸びたりするのか?
「よし、わかった・・身長は155㎝、体重は・・太すぎもなく、痩せすぎでもなく・・そんな設定でいいか?」
「カマイマセン」とドールは答えた。
少々、お待ちください・・そう言ってドールは、
その場にしゃがみ込み、片足首を掴み「うーん」と両腕で引っ張り始めた。
「おい、何をやっているんだ!」
「あと、一センチ足りません」
手で伸ばしているのかよ!
僕は調節と言うから、スライド式か何かで伸びたり縮んだりするのかと思ったじゃないか。
「もういい・・身長は・・154㎝のままでいい」
僕がそう言うと、ドールは少し安心したような顔に見えた。
初めて見るドールの表情の変化・・
ドールは笑ったりするのだろうか?
それはどんな時なのだろう?
「それと、体重の件ですが・・オモスギもなく、カルスギでもない。それはどのような状態を指すのか分かりかねます」
難しいな、
「んじゃ、43キロ、ということで」と僕は答えた。
ドールは無表情のままコクリと頷き、
「体重は、ゴハンの量で調整します。近日中に43キロになります」と言った。
ドールの声は機械的な音質から温かみを帯びた声に変わっていくのが感じられた。
それにしても、
ご飯・・食べるんだな・・オイルや、サプリじゃなかったんだな・・
ということは、排泄もあるんだろう。トイレ、掃除しなくちゃな。
もしかして・・風呂も?
ありえない・・
それではまるで、人間の少女じゃないか。
この部屋の住民と何ら変わりがないではないか。
念のため、ドールに、
「ご飯・・って、パンとか食べるのか?」と訊ねると、
ドールはゆっくりと首を左右に振って、
「チガイマス・・ゴハンと言うのは、錠剤・・タブレットのことです」と答えた。
ご飯は、錠剤のこと? ずいぶんと紛らわしいな。
「そんなのどこにあるんだよ?」
「錠剤は、箱の中に用意されています」
僕は箱の中を覗き込んだ。なるほど、チョコレート箱のようなサイズの白いケースが何個がある。
「ちょっと、待て・・・これって・・何日分あるんだ?」
どう見ても、長期のものとは思えない。
「一週間分です」
一週間分!
「なくなったらどうするんだ?」
「フィギュアプリンターのサイトでハンバイされています」
本当か?
確かめるため僕はパソコンを起動させ、サイトを見た。
ドール専用タブレット・・
一か月分・・一万円。
定期購入割引あり。
一万円だと! 定期購入だと、9000円。一割引き!
嬉しいっ
じゃないっ!
どれだけ維持費用がかかるんだよ!
サイトだけでは信用できないので、説明書も見た。
ページを繰る・・どこに書いてあるんだ?
って、一番最後のページじゃないかよ!
*フィギュアプリンターでAIドールを作成できた場合には、栄養をとらせてやってください。
またおかしな日本語だ。ちゃんと日本語に訳してくれよ。
つまり、動かないフィギュアをプリントアウトした場合には、栄養などは必要なかったっていうことか。
変な日本語の取説を読みながら、
僕はこの時、初めて、フィギュアドールを買ったことを後悔し始めた。遅すぎる後悔だったが・・
僕の後悔をよそにドールは、
「それと、スイブン補給も必要です。皮膚ソシキの維持に必要です」と淡々と言った。「毎日一リットル飲みます」
ドールの体を維持するのに必要ってことか。
「水道水でかまわないのか?」
「ミネラルウォーターに限ります」
ドールはそう答えた。
贅沢だ!
そう思い、取説の続きを読むと、
*皮膚が崩壊しないためのミネラルウォーターを飲んでください。できれば硬水の方が望ましいです。
僕が飲むんじゃないからな!
けれど、わかったよ。これからは硬水のミネラルウォーターを買うようにするよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます