第93話 レミとサヤカ③

 渡辺さんは、「そういうことか。サヤカの中にいるのは、レミの分身みたいなものか」と言って、

「なら、俺とサヤカで、こいつらの血を吸いまくるだけだ」と叫んだ。

 狂っている・・そう思った。

 渡辺さんはこれまでにも妹のサヤカのために、誰かの血を吸わせてやっていたのかもしれない。その対象は、ここの住民かもしれないし、他の高校生が犠牲になったのかもしれない。

 いずれにせよ、この二人は、始末に負えない兄と妹だ。つまり、僕たちの敵だ。

「まずは、おまえからだ。さっきから態度が気に食わないんだ!」

 渡辺さんは勢いに任せ、僕にしがみついている君島さんの肩に手をかけた。

「きゃっ」と君島さんは嫌悪の声を上げ、

「やめてよっ」と抵抗の声を上げながら、渡辺さんの顔面に肘鉄を食らわした。

「ぐわっ」

 渡辺さんは防ぎ切れずに君島さんの肘をまともに食らった。

「ふぁにをする!」渡辺さんは顔を手で押さえたまま抗議の声を上げたが、言葉になっていない。

 さっきは平手打ちだったが、今度のは強烈だったらしく、渡辺さんの顎が歪み、大きくずれているようだ。顔が歪んで見える。

「あごが、くらけた」顎が砕けた、と言っているのか。

 渡辺という男は、君島さんにはめっぽう弱い。まるで天敵のようだ。

 

 伊澄さんは、そんな渡辺さんを憐れむように観察しながら、

「骨が弱いと、大変ねえ」とあざ笑った。

 渡辺さんは「ふぁかにしやがって」と顎を押さえながら言った。

「バカにしやがって」と返したつもりなのだろうが、言葉になっていない。

 その様子を見ると、渡辺さんもサヤカ同様に、レミの一部に体を奪われているらしく、骨がグニャグニャになっているのかもしれない。


 見ると、僕が壁際に突き飛ばしたサヤカの体が小さくなっている。その原因はすぐにわかった。脚が歪み、そして、縮んでいるのだ。

 両腕だけではなく、足の骨も、その体重を支えきれないのだろうか。骨が折れているのか、曲がっているのかも分からない。

 あのまま足も、触手のようになれば、いずれは自立歩行できなくなるだろう。

 そうなれば、移動手段もなくなり、血を吸えなくなる。自滅の道を辿ることになってしまうのか?

 

 これが、伊澄さん姉妹の復讐だ。

 だが、肝心の伊澄さんの姉を、殺めた男、

 伊澄レミに性暴力を行った卑劣な男は、どこにいるのだ?

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