第61話 三角関係?①

◆三角関係?


「ねえ、屑木くん。私が休んでいる間、何かあったでしょう?」

 休み時間、委員長の神城が僕を問い詰める。

 本来隠したいところだが、隠すこともできない。

 なにせ僕の傍らには、あのクラスの元高嶺の花の君島律子がぺったり寄り添うようにしているのだから。


 あれから、松村と佐々木も、大学生カップルから逃げおおせ屋敷から出てきたが、二人の顔は仲良くお揃いのように穴が開いていた。

 あの痩せた男女が瞬間移動で追いかけてきやしないかと不安だったが、そんなエネルギーはもうなかったのか、男女は来なかった。

 そして、僕の血を吸って満足げな顔の君島さんを家まで送った。


 神城はそんな君島律子を横目で睨みながら、

「ちゃんと説明してちょうだいよ」と言った。「それに、奈々もおかしいじゃない。松村くんみたいに顔に穴が開いているし」

 もう顔に穴が開いているくらいでは、神城もそんなに驚かないらしい。そんな人間が増えていっているからだ。

 佐々木の件は僕に責任がある。だが、佐々木は学校に来ても僕を責めることなく、他の生徒と普通に接している。しかし、その体の中には、「あれ」の小型が入っていて、体中に異常をきたしているらしい。

 松村曰く、「あれ」が体内に入ると、血への欲求は抑えられるということだ。それに加えて、運動神経がよくなる。反対に成績は下がる。

 それは佐々木も同じなのだろうか?


 僕が松村に訊いた。

「あの大学生のカップルは俺たちの血を吸おうとしていたじゃないか」

「あいつらの中には、もう血はないんだ・・『あれ』が寄生している容器に過ぎない」

「『あれ』が寄生している容器?・・」

「そうだ。もうあいつらの意思はなく、体内に宿っているものの意思で動いている」

 そう説明した松村に、

「おい、松村・・お前や佐々木には申し訳ない言い方だが・・あいつらとお前らはどう違うんだよ?」

「俺と佐々木は・・まだ人間だ。体に血が流れている」と松村は答えた。

 松村がそう言っているのだから、そういうことにしておこう。そうでないと、佐々木が可哀想だ。


 そんな複雑で入り組んだ話を、教室で神城に事細かく話せるわけがない。

「詳しいことはあとで話す」と僕は言った。そして、「放課後、前に行ったファミレスで待ってるよ」と続けた。

「待ってる?」神城は疑問を呈した。「ファミレスなら一緒に行った方がいいじゃない。学校の帰り道だし」

「いや・・実は・・」

 僕は神城に目で合図した。「君島さんが・・」

「うふっ、神城さん・・屑木くんは、私のものなのよ」と品を作るように言った。「・・というか、私は屑木くんのものなのよ。ねえ、屑木くん」と僕に同意を求める。

 無下に否定も出来ない。僕と君島律子はある意味同士だ。


「ええっ、どういうこと?」神城は目を丸くした。

 神城の焼き餅なのか、君島さんに向けられる目がきつい。対する君島さんの神城を見る目も強い。

 まさか、僕と君島律子とはお互いに血を吸った仲だとは言えない。

 君島さんと男女の仲ではないが、僕と神城も男女の関係はない。

 そのはずなのに、なぜか三角関係のようなものが出来上がってしまっている。


「神城、悪いけど、僕と君島さんはファミレスに一緒に行くよ。神城は、別に来てくれないか」

 神城は「意味わかんない」と呆れ顔で言った。「お二人、つき合っているの?」

「そういうんじゃないんだ・・後で説明するよ」

 僕がそう言うと、神城は佐々木の席に向かった。そして、すぐに戻ってきた。

「奈々は、屑木くんにまかせる、って」

 僕は「・・だろうな」と言った。 

 こんな話にはいつも佐々木がいた。僕は佐々木抜きで、神城が到底納得できない話を言わなければならない。

 

 そして、放課後のファミレス店内。

 神城は和風正統派美人。君島律子はゴージャス系美人。大袈裟だが、そんな形容がぴたりと当てはまる。

 女性に関しては、僕はごく普通の感覚だ。神城といると落ち着くが、君島律子のようにキラキラと輝く女性は、こっちがそわそわして落ち着かない。

 それが、どうだ。今はそれが逆だ。健康的な神城の姿が眩しく、君島さんとは同士のせいか、傍らにいると落ち着く。

 そんな神城が僕の向かいに不機嫌な様子で座っている。そして、僕の横には近すぎる位置で君島律子が座っている。おまけに飲み物まで僕に合わせている。


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