第15話 黒崎みどりと白山あかねの仲違い

◆黒崎みどりと白山あかねの仲違い


 次の日、体育の大崎先生は学校に来なくなった。

 いや、もう来れなくなった、と言った方が正しい。

 それは先日の物置倉庫で顔が無茶苦茶になったせいでは決してなかった。

 午前中、大崎は、あろうことか体育の授業中に性懲りもなく女子生徒に手を出したのだ。

 保健室で、吉田先生が笑いながら言ったことが現実となった。


 大崎先生は無理矢理に一人の大人しい女子生徒を体育倉庫に引っ張り込み、性的いたずらをしようとした。そこを男子生徒に取り押さえられた。

 その場の生徒全員が目撃していたので、理事長もかばい切れなかったようだ。


 しかし大崎は他の職員にこう言っていたらしい。

 しきりに、「そんなつもりはなかったんだ」と弁解し、

「体が勝手に動いたんだ」と叫ぶように言っていたということだ。

 そんな言葉に耳を貸す人は誰もいない。

 被害者の女生徒の証言によると、大崎は、

「俺の顔がそんなにおかしいか」と近づいてきた。怖くて逆らえなかったらしい。


 クラスの話題もそんな体育の大崎のことで持ちきりになった。

 松村にデッドボールを当てた近藤も「松村が見た幻覚も本当だったんだな」と僕に言いに来た。

 そんなクラスの喧噪の中、全く別の話題で騒いでいる人間がいた。

 それは黒崎みどりと白山あかねの二人だ。

 伊澄瑠璃子の金魚の糞みたいな二人は今度の放課後、僕たちとお化け屋敷に行くという伊澄瑠璃子に、これまた引っ付いてくるらしい。

 双子のような二人。そんな二人が何やら口論をしている。

気になって僕は隣の席の女の子に、「あいつら、普段は仲がいいのに、一体どうしたんだ?」と尋ねた。

 その子が説明するには、

 黒崎と白山は、お互いに彼氏、あるいは男友達を作らないと契約をし合っていたらしい。ところが白山あかねの方が隣のクラスの男子に告られ、一応デートのようなものをしたそうだ。そのことを黒崎みどりが知ってご剣幕なんだそうだ。


 そんな約束だか、契約だかは知らないが、おかしな契りを結ぶようなことをする二人にいいイメージは抱かない。

 異常な仲に、意味不明の喧嘩。

 二人のいる席の方に耳をそばだてると、黒崎みどりが、

「あかねが汚れちゃったわッ」と大仰に、かつヒステリックに言っている。

 言われた白山あかねは「汚れたなんて、大袈裟よ! 木田君とはそんなんじゃないんだって」と懸命に否定している。「ただの友達なの」

 まるで、小学生の女の子同士の会話みたいだ。

 いつもなら、どうでもいい会話・・耳をそばだてる必要もない会話なのだが、なぜか、その時は気になった。

 それは黒崎みどりが言った言葉・・「汚れちゃった」だ。

「汚れ」は「よごれ」「けがれ」・・つまりは「穢れ」だ。

 その言葉は、保健室で聞いた声。

 吉田先生と伊澄瑠璃子の声が重なって言った時の言葉と同じだ。

「けがれている者は、どんどん穢れていく」

「もう止められない」

 だが、そんな言葉を聞いたからといって、白山あかねがどんどん穢れていくとは思えないし、仲も悪くなるとも思えない。

やはり気になる。

 その理由は、今週の金曜、伊澄瑠璃子とあのお化け屋敷に行く際、二人が付いてくるからだ。

 面倒なことにならなければいいが・・

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