第375話 「鈴木くんは関わるのね」⑤
「速水さんのことだけじゃない。水沢さんの家が大変だって聞いた時、すごく驚いたし、心配もしたんだ」
水沢さんの父親は弁護士だ。青山先輩のグループ会社の一つを担当している。
その父親の心を水沢さんが読んだことで、家庭が崩壊した。
父親は、あろうことか不倫相手とホテルに行ったことを家族団欒の食事中に夢想していたのだ。
水沢さんの頭の中に父親のイヤらしい心が流れ込んできた。
水沢さんは、父親の汚らわしさが耐え切れなくなり、両親の前で暴露した。
「お父さん。今日、楽しかった? 女の人とホテルに行って楽しかった?」と言った。
水沢さんの言葉で、家族の事情は急変した。
母親が「あなた、純子の言ったことは本当なの?」と問い質し、
「純子、どうしてそんな出まかせを言ったりするんだ?」と父親が怒鳴った。
水沢さんは、「心が入ってきた」とは言わなかった。それは自己防衛だった。
その代わりに、「ホテルの近くで、お父さんが女の人と仲良くしている所を見た」と言った。更に水沢さんはその女性の特徴を並べ立てた。
母親のショックは言うまでもない。
父親は、それがショックで、大事な仕事をミスしてしまった。その後、信用を回復するどころか取引は打ち切られた。
お陰で、両親は仲たがいをするようになり、父親の娘を見る目が変わった。
水沢さんには父親の声が聞こえた。
「純子は、子供の時から、心を見透かしたようなところがあったが、益々薄気味悪くなった。だいたい、ホテルの場所なんて、女子高生が通る場所じゃないんだ。そんな所で娘は何をしていたんだ」
それは、自分の過ちは認めず、娘を非難する父親の声だった。
悪いのは父親だったが、家庭と仕事が崩壊した原因は、水沢さんの能力に起因するものだ。それ故に水沢さんは大きく責任を感じている。
だが、水沢さんのことも僕にはどうすることもできない。
水沢さんの家のことも速水さんのことも僕は何もできないのだ。
速水さん曰く・・人の家のことに干渉するものじゃない。
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