第374話 「鈴木くんは関わるのね」④

「えっ・・」僕が小さく声を上げると、

「鈴木くんは、あのヤヨイという人、そして、速水さんの家と関わっていくのね」そう水沢さんは言った。

 僕は何も言っていない。ヤヨイに関わるとか、速水さんの家のことなど一言も言っていない。

「水沢さん、僕はあんな女の人とは・・」

 改めて否定しようとすると、水沢さんは、

「あの人、速水さんの義理のお姉さんなんでしょ」

「そうだけど」

「速水さんは、あんな人と同じ家に住んでいるんでしょ。私だったらそんな環境には耐えれないわ。けれど、速水さんはその中、懸命に生きているのね」

 水沢さんが何を言いたのか、僕に何を伝えたいのか分からなかった。


「だからって僕が速水さんに関わるとは言っていない・・」と言いかけ言葉に詰まった。

 僕は速水さんの事は放っておけないと思っている。

 いつだってそう思っている。

 その理由は、僕が速水さんの過酷な境遇を知っているからだ。山手にある速水邸で聞いた速水さんの生い立ち、そして、現在の家の事を聞いたからだ。

 おそらく速水さんの家の事情を知っているのは、僕と文芸部員たちだけだろう。心配しているのは僕だけではない。青山先輩も同じだ。小清水さんだって、和田くんも速水さんのことを心配している。


「鈴木くんは、速水さんのことを放っておけないんしょう?」

「僕だけじゃないよ。文芸サークルのメンバーだって僕と同じ気持ちだ」

 僕が強く返すと、水沢さんは「そうかな?」と呟くように言って、

「私には鈴木くんの気持ちが一番強い気がするけれど・・」と言った。

 水沢さんはそう言うけれど、水沢さんは文芸サークルのみんなの心まで知らないはずだ。

「そんなことないよ」と僕は返し、

「僕は、速水さんの家のことを少し知っているんだ。だから他の人よりも心配しているのかもしれない」そう僕は言った。

 だからと言って、僕は只の高校生に過ぎない。

 社会的にも只の子供だ。何が出来るわけでもない。

 むしろ、さっきのヤヨイを見て、関わるのが怖くなったくらいだ。身の危険まで感じている。この場を逃げ出したかったくらいだ。

「だからと言って、速水さんの家族と関わろうとは・・」そこまで言って、その先を続けることが出来なかった。

 あの家と関わろうとは思わない・・そう断言できなかった。


「それでも鈴木くんは・・」

 それでも鈴木くんは速水さんの家と関わるのね、と水沢さんの顔がそう言っていた。

 このままじゃだめだ。僕が速水さんの事ばかりを気にしているみたいだ。

 今、僕は水沢さんといるんだ。この時間が大切なんだ。

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