第371話 「鈴木くんは関わるのね」①

◆「鈴木くんは関わるのね」


 池永先生を何とか誤魔化すと、改めて僕は、「先生がヤヨイさんの事を知るようになったのは、速水さんの家の家庭訪問がきっかけですか?」と訊ねた。

 我が高校には家庭訪問の制度はない。教師が生徒の家に行くのは特別な事情がある場合においてのみだ。

「ええ、そうよ」

 先生はヤヨイを知るようになった経緯を説明し始めた。

「鈴木くんには前にも言ったと思うけど、私、速水さんが一年の時、担任だったのよ。それで家庭の事情も知るようになったわ。もちろん、その時、あのキリヤマにも会ったし、その娘のヤヨイにも会ったわ。それに速水さんのお母さんにもね」

 先生は、その時のことを思い出したくないようにブルッと体を震わせた。

 その時、おそらく池永先生はキリヤマに性的な嫌がらせを受けたのだろう。

「それだけで、あんなにヤヨイさんと親しくなるものなんですか?」と僕が言った。

「ええっ、親しくなんかないわよぉ」

 先生は思いっ切り否定して、

「あの家の相手をするのは、大変だったんだからぁ」と言った。

 余程イヤな思いをしたのだろう。顔中にそれが出ている。

 僕が興味本位に「どう大変だったんですか?」と訊くと、

 先生はもじもじと体をくねらせるようにして、

「私、後にも先にも、誰かにお尻を触られたなんてこと、初めてだったのよぉ」と言った。

「それって、父親のキリヤマにですか?」僕が訊ねた。

 仮にそうなら、我が校の男子たちが聞いたら憤るに違いない。さっきもキリヤマにその見事な胸を鷲掴みされていたし。


「それが違うのよぉ」先生は嘆くように言った。

「違う?」

「さっきのヤヨイさんによぉ」

 先生がそう言うと、水沢さんが「あの人、そんな趣味があるんですか?」と訊ねた。

「違うでしょ、からかっているんだと思うわ」

「池永先生はからかわれやすいですからね」と僕が言った。すると水沢さんまで「そうみたいですね」と同意した。

 先生はムッとすることなく、「私、そうなのかなぁ」と考え込んでいる。

 それも先生の魅力の一つだと思うけど、それを言うと先生がまた調子に乗りそうだ。

「あの人、年齢はいくつなんですか? ずいぶんと大人の女性に見えるけど」と僕が訊ねた。

「そこまでは知らないけど、見たところ、二十歳前後ね」先生は言った。

「父親のキリヤマと顔が似ていないですよね」と僕が言うと、先生は苦虫を潰したよう顔で、「そもそも本当の父娘かどうかも疑問だわね」と小さく言った。

 つまり先生も知らないということだ。謎の多い家族だ。その可能性もある。

 

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