第359話 対面③

「私、石山ちゃんに言ってきてあげようか?」榊原さんが茶化すように言うと、真山さんが榊原さんの袖をくいと引き、「こら、榊原、よさないか」と制した。

 そして、真山さんは、僕に向き直って、

「石山の将棋も見れたことだし、私たちはこの後、将棋部に挨拶をしてから、他の部を見に行くよ」と言った。

「ここでお別れですね」と僕は言った。

「鈴木くん、また読書会を一緒にやろう」と別れを告げるように言った。

「そうですね。僕もしたいです」

「学祭以外でも、合同読書会はできるからね。速水部長にも言っておくよ」

「今度は中身のある読書会をしたいですね」と僕は笑顔で言った。

 今回はお世辞にも充実した読書会とは言えなかった。どっちかというと、翻訳の意味と、読書会の意味を改めて問い質すような会だった。

「そうだな、私たちももっと勉強しないといけないな」と真山さんが言った。

 そして、「でも、あれはあれで結構楽しかったよ」と微笑んだ。


「鈴木くん、じゃあねえっ~」と榊原さんは手を振った。

 小川さんはペコリと腰を折り、「またお会いしましょう」と言った。

「また今度な!」と阿部が珍しい笑みを浮かべ、森山が、「今度、うちの高校にも遊びに来てくれ」と言った。

 色々あったけれど、みんな、いい人だ。


 榊原さんが、僕の後ろにいる水沢さんを指して、

「ほら、彼女が待ってるよ」と言った。

 僕が水沢さんの方を向くと、「鈴木くんみたいなタイプ、私、結構好きよ」榊原さんが耳元で囁くように言った。

「えっ?」

 榊原さんは、僕の驚きの顔を見て、「わっ、顔が赤くなってる!」と言った。

 なんだ、からかわれたのか・・

 榊原さんは、また真山さんに「こら、榊原!」と戒められた。


 僕たちの様子を見ていた水沢さんが微笑み、「鈴木くん、行きましょうか」と促した。

 水沢さんの表情は明るい。対局中に何かあったのだろうか。

「鈴木くんに話したいことがあるの」水沢さんはそう言った。

 僕も、「水沢さんに訊きたいことがあるんだ」と言った。訊きたいというか、知りたいことだ。

 水沢さんの頭に石山純子の心が流れ込んで来たのかどうかだ。

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