第344話 視線③
加藤と向き合っている間にも、透明の僕に生徒たちがぶつかっていく。僕はその度によろけた。
「どうして、みんな、鈴木にぶつかっていくの?」と加藤が言った。「まるで鈴木の姿が見えないみたい」
僕が見えている加藤には僕と周囲の人との接触が不自然に見えるのだろう。
「加藤・・」僕は言い淀んだ。
この状況を加藤が理解できるはずがない。
透明化のことを加藤に言えるはずもないし、キリヤマとの因縁を説明するわけにもいかない。
「さっき、あの人を殴ったんだよね?」と言った。「私、見たの」という表情だ。
「あいつ、小清水さんと和田くんに、喧嘩をふっかけていたから」取りあえずそう言った。
「どうしてそんなことに」加藤は小さく言った。「あんな強そうな男を殴るなんて」
加藤には僕のとった行動が信じられないようだ。僕だって透明化していなければこんな大胆なことはしなかったかもしれない。和田くんのように脇目も振らず突進できなかったかもしれない。
加藤に言葉を返そうとした時、何故かドキッとした。誰かの強い視線を感じたのだ。
僕は視線の方へ静かに目をやった。そこには透明化している僕の姿を見られてはいけない人物がいた。
それは、速水沙織の義姉だ。
もちろん、彼女には僕の姿は見えてはいないだろう。彼女は、加藤の表情を見て、そして加藤の視線の先にいるはずの僕の存在を見ているのだ。
実際に見えているのは加藤の姿だけのはずなのに、加藤と向き合っている僕を見ている。そうとしか思えない。
加藤は僕に話しかけているが、第三者から見れば誰もいない空間に向かって話しかけている状態だ。
だが義姉は加藤には目もくれず僕が立っている位置を見ている。透明の空間に僕の存在を認めているのだ。
義姉は美人顔だが、氷のような冷たい顔だ。その顔が凄みを利かせているから更に存在感を際立たせている。
彼女は実父が何をしようがされようが何の関心も示さなかった。おそらく学園祭にも興味なんてないのだろう。
そんな何の関心も示さなかった彼女の視線が僕に向けられている。この場を動けなくなるほどの強さだ。
彼女の不気味な顔を見る限り、「これで退屈を紛らわせることができる。その対象を見つけた」そんな目つきだった。
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