第339話 その時、僕たちは・・②
「おまえっ!」
そう叫んだのは、やはり小清水さんではなく、不良少女に変貌したヒカルだ。
キリヤマを思い出したのだ。その目はキリヤマを見据えている。
驚いたのはキリヤマたちだけではない。それ以上に和田くんが驚いている。
「僕の好きな小清水さんだ!」和田くんの目はそう言っている。
その顔は歓喜に満ちている。それもそのはずだ。和田くんが心を寄せているのは、平素の小清水さんではなく、不良少女としての小清水さんだからだ。もちろん、今の小清水さんのことも好きかもしれないが、好きになったきっかけはゲームセンターでのヒカルとの出会いだ。
キリヤマは、ヒカルに気づいたようだが、「なんだ、お前は?」と訝しげな表情だ。まさかこんな場所で喧嘩を売られるとは思ってもみないのだろう。
ヒカルは何をするか分からないし、キリヤマもまさか何もしない人間に挑まないと思うが、安心できない。
状況が悪い。
柄の悪いキリヤマとキリヤマを睨んでいるヒカルの雰囲気に圧倒されたのか、周囲の人達が二人の舞台を設けるように退いていった。
遠巻きにして生徒たちは小清水さんの普段と違う様子に見入っている。
「あれって二組の小清水だろ?」
「なんか、いつもと雰囲気がおかしくない?」
みんな、教室で大人しい雰囲気で通っている小清水さんと今のギャップに目を見張ってている。
中には、「あれ、和田と小清水って、つき合っていたっけ?」と言っている奴もいる。
そして、キリヤマを見た生徒は、
「あれって、かなり危ない奴だぜ」と小声で言っている。
「あの女、男の連れ合いだろ。どう見ても品のない女だ」
まずい、これはまずいぞ。
和田くんと小清水さんの交際とかの問題は、別にかまわないが、多重人格の問題は別だ。
小清水さんの多重人格を知っている人は限られている。こんな噂が広がっては小清水さんがあまりに可哀相だ。
どうすればいいんだ?
この状況では、和田くんは頼りにならない。須磨海水浴場の時、キリヤマの登場で和田くんは怖がって逃げ出した。だが、彼を責めるつもりはない。あんな凶悪な風貌の男を見れば誰だって避けて通る。
僕がヒカルの注意を引くしかない。僕には透明化能力がある。
腕時計を見る。透明化してから10分経過している。時間が足りない。
再透明化だ!
再透明化能力は、速水沙織伝授の能力だ。
この能力を使えば、透明化している時間を少なくとも20分は延長できるはずだ。
眠いけど、自己を保つ・・睡魔と闘う時の思念を体に取り込む。そうすれば、透明化を延長できる。何度も試みたわけではないが、これまでの成功率は高い。
だが、この能力の最大の欠点・・再透明化が成功したかどうか分からない。
何とも全てにおいて、不格好な能力なことだ。
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