第332話 石山純子論②-1
◆石山純子論②
「部長、それはちょっと違うんじゃない? 私はそこまで似ていないと思うけどなぁ」と疑問を投げたのは茶髪の榊原さんだ。
続けて小川さんがこう言った。
「綺麗なのと、男子に人気があるのとは違うと思います」
名言のような言葉だ。さすがは文芸部!
小川さんは続けて、
「石山さんは、男子には人気がありますけれど、それほど綺麗だとは思いません」と言った。すごく的確な言葉だ。外見だけで言えば、水沢さんの方が上だ。
小川さんの言葉を補足するように銀行員に見える森山が、
「そうだな、美しいという点では、水沢さんが上だな」と前置きし、
「だが、石山には、容姿だけではない、男の心を奪う何かがある」と強く言った。
「ちょっとぉ、森山。そんな言い方をしたら、水沢さんが男心をそそらないみたいじゃないのさ」榊原さんが戒めた。真山さんは「いや、そういう意味で言ったのでは」と、すぐに訂正した。
すると阿部が欠伸をせずに、
「石山の顔ってさ、少しぼやけたように見えるんだよ。少し目が細いせいかもしれないけどな」と言った。
「何だそりゃ?」と榊原さんが言った。
阿部は続けて、「ほら、目が細いとさ、ちょっと幻想的に見えたりするんだよ。 そういうのって、分かる?」と分析するように言った。
「そっかなぁ?」榊原さんが納得できないように言って、
「大きな眼よりはそう思うかもなあ」と続けた。
阿部の言葉を受けて、今度は森山が、
「男は、幻想的な少女に恋をするものなんだ!」と恥ずかしげもなく言った。
すごく分かるが、皆の前で堂々と言えない言葉だ。
その論争の中、真山さんがこう言った。
「石山の場合は、顔も魅力的だが、その仕草も関係していると思うよ」
「仕草?」
分かっていながら僕は訊いた。
「ほら、見たまえ。あの動きを」真山さんは石山純子を指して言った。
水沢さんはそれほど動いてはいない。それに比して石山純子は、その一挙一動で女の子であることを精一杯表現している。
それを見た男子たちは、その魅惑的な動作が頭に叩き込まれ、イメージが広がっていく。
それは彼女自身が意識してのことなのか、元々備わっている天性のものなのか。
「なんか、可愛く見えないか?」と真山さんが同意を求めるように言った。
「見える見える」と阿部が同調した。
時々見せる肩をすくめる微妙な動き、将棋が良い方向に進んだ時に僅かに見せる笑顔。
どれも基本的にあどけない表情と小さな動きだ。
媚びた風に見えないのは、よく見ていないと分からない位の小さな仕草と表情だからだろうか。
彼女の一挙一動を、僕はよく憶えている。
中学三年、窓際の席の石山純子をずっと見ていたからだ。
僕は中学三年の時の彼女しか知らないけれど、
石山純子が大声で笑ったりするのを見たことがない。声は小さく、誰かと談笑している所を見かけても、聞こえてくるのは他の女の子の声ばかりだった。
それに、彼女は大袈裟に動いたりはしない。その背中を見ていても小さな息遣いのように肩を上下させたりするくらいで全ての動きが小さかった。
周りの女の子が何かで騒ぎ立てている時も、彼女は静かに微笑んでいるだけだった。
大仰な声や動きは、一部の男にとって魅力的ではないのだろうか。
その点だけで言うと、石山純子と水沢さんは似ているかもしれない。
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