第278話 義姉①
◆義姉
「話は元に戻るけど、それが、どうして、お義姉さんを利用することと関係があるんだ?」
僕が訊くと、速水さんは再び、僕に向き直り、
「キリヤマは、義姉が家にいる時は、私に手出しをしない・・それが分かったのよ」
「お義姉さんが、家にいれば、キリヤマは暴力を振るわないっていうのか?」
「ええ、だから、私は、できるだけ姉の傍にいるようにしているし、夜も勉強を口実に、姉の部屋に居させてもらっているのよ」
「つまり、お義姉さんと一緒にいれば、キリヤマは昼でも夜であっても、速水さんに手出しをしない、そういうことなのか?」
速水さんは「ええ、そういうことよ」と言った。
「それは、どうしてなんだ?」
「どうしてとは?」と速水さんが訊いた。
「義姉は、キリヤマの娘に過ぎないんだろう?」
僕の質問に速水さんは、
「義姉は、私の家の中で、一番、力が強いのよ」と答えた。
「力?」
「ええ、力よ」と速水さんは言って、説明を続けた。
「最初、キリヤマ父娘が、母と私の家に棲みつき始めた時は、義姉は、まだ高校生。今ではもう大人よ」
「それで、力と言うのは?」
「力というのは、少し例えが悪かったのかもしれないけれど」と速水さんは言って、速水家の現況を説明した。
現在、まず速水さんの母親は、先ほど言ったようにキリヤマにされるがままで、自分の意思を持たない女に成り下がっている、と言うことだ。当のキリヤマも世間に顔向けのできない仕事をしているせいか、本来であるならば、そのはけ口を速水さんへの暴力に転換するところをその義姉に制止されているということだった。
なぜ、父親の暴力を制御できるのか?
「全く、似た所のない父娘なのよ」
速水さんは、何かに感心するように言って、
「義姉は、誰に似たのか、頭がいいの」
速水さんはそう言って、
「おそらく、義姉は、自分の父を制御して、私の母、もしくは私も取り込もうとしているのかもしれないわね」と憶測を言った。
「それで、何かいいことがあるのか?」
僕が訊くと速水さんは自嘲的に笑って、「落ちぶれた速水家と言えども、まだ隠し財産はあるのよ。少なくともキリヤマたちには魅力的なはずよ。だから、キリヤマは寄生虫のようにして家に居座っているのよ」
「もしかして、キリヤマは、速水さんの存在が邪魔で、」
「ええ、おそらくそういうことよ。でも、義姉の場合は違った」
「どう違うんだ?」
「私を追い詰めることは得策ではない、そう判断しているのだと思うわ」
「つまり、父親と娘の速水家の乗っ取り方が異なるということか?」
「ええ、そうよ。鈴木くん、今日は一段と呑み込みが早いわね」速水さんは微笑んだ。
「それ、嫌味だよな!」
一つ、気になることがある。
「一つ訊くけど・・」と僕は切り出した。
「何?」
「速水さんの秘密・・透明になれることをキリヤマは知っていたよな?」
速水さんと初めて出会った中学時代。僕が公衆電話で石山純子に告白し見事に振られ、意気消沈して歩いていた時、出会ったのが、速水沙織だ。
速水さんは、透明化しても、その動きを封じるためにキリヤマに手錠をされていた。
僕と速水さんの透明化については、二人だけの秘密・・としながらも、僕たち以外にキリヤマ、そして、速水さんの母親も知っているのだ。
二人だけの秘密としながらも、それを頑なに守っているのは僕だけなのかもしれない。
「ええ、キリヤマも、当然、母も知っているわよ。鈴木くんはそのことは知っているでしょう?」
速水さんは実母の前で透明化もしている。その際、母親に「化け物!」と呼ばれたのだ。
「ああ、知っている・・けれど、僕が訊きたいのは、キリヤマの娘、つまり速水さんの義姉が速水さんの透明化を知っているのか? という質問だ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます