第259話 小西と岡部①
◆小西と岡部
帰宅の途中。懐かしい奴らに出会った。
小西と岡部だ。
二人は、僕の中学一年の時の連れ合いだ。けれど、友人というほどでもない。
厳密に言えば、僕に友人はいない。
この二人は、水着の女の子を眺める目的だけで、一緒にプールに行く仲間だ。僕は単に駆り出されていたにすぎない。
中学の時、プールに行った際には、僕の初恋の女の子である石山純子を目撃したし、この夏、小西と岡部と再びプールに行った時には、加藤ゆかりと出会った。そこで透明化した僕はうっかり、加藤の体に触れてしまうところだった。危ない、危ない。
急に加藤の小麦色の肌を思い出した。
「鈴木、久しぶりだな」と小西。
「・・っていうか、この夏、一緒にプールに行ったばかりだよな」と岡部。
「懐かしいと言うほどでもないぞ」と僕。
友人と呼ぶには、互いのことを知らない関係だ。けれど気の置けない仲だ。
何かを言うでもなく、その足は自然と近くの喫茶店に向かった。
この喫茶店は、加藤ゆかりと来たことのあるコーヒー専門店だ。
更に言えば、僕が年頃の女の子と初めて入った記念すべき喫茶店だ。
あの時は、加藤に佐藤との仲を取り持ってくれ、とお願いをされた。今、考えるとおかしな話だ。佐藤は僕や加藤が考えている男では決してなかったということが分かったし、加藤の意外な側面を見ることにもなった。
春の出来事だが、懐かしく感じる。
そして、加藤は、僕が初めてデートをした女の子だ。
「高そうな店だな」
岡部はそう言いながら、小西と並んで座り、僕と向かい合った。
ここは客層もサラリーマンやOLがほとんどで、家族連れはいない。静かな雰囲気が漂い。また店の雰囲気に合うクラシック音楽が流れている。
奥の席では、同じ高校の制服を着た女子高生たちが静かに談笑し合っている。
そんな静かな場所であるにも関わらず、小西が「また来年、プールに行こうぜ」と言い出した。
決して健康的な目的ではない。つまり、女の子の水着鑑賞だ。その証拠に小西が、「来年、流行りそうな水着はけっこう際どいらしいぜ」と言った。
「おい、際どい水着が流行るって、そんなこと、どうやって調べているんだ?」と岡部が言った。
ウェイトレスがチラリと見た。斜め向かいの中年男もギロリと見た。
「声が大きい」僕が制すると、岡部が「すまん。つい興奮した。俺ら、男子校だからな」と弁解するように言った。
声は大きかったが、こんな馬鹿話ができるのもこの二人とだけだ。
「もう来年のプールの話かよ。別にいいけどさ」僕は笑った。
「来年は、受験生だぞ」岡部が言った。
その言葉に、「女の子の水着を見るためにプールに行ってる場合かよ、っていう感じだな」と小西が声を落として言った。
「でも、行くだろ?」岡部が強く言った。
「そうこなくっちゃ」と小西が笑った。
その言葉に受験生という言葉がどこかに飛んでしまい、皆で笑った。
プールの話題を終えると、それぞれの高校生活の話に移った。彼らは僕とは別の男子高校だ。
「鈴木んとこの高校は、可愛い子はいるか?」と、岡部が訊いてきた。
僕が答える前に、小西が思い出したように、
「プールで会った子、可愛かったよな。あの髪のショートの子だよ」と言った。
加藤ゆかりのことだ。
プールで透明化した僕は危うく加藤の素肌に触れるところだった。
「鈴木・・お前、あの子とつき合っているんじゃないのか?」
僕は否定した。加藤とデートをするにはしたが、その出発点も結果も彼女を傷つけただけに終わった。僕が「誰ともつき合っていない」と答えると、
「他にお目当ての子でもいるのか?」
二人の追及に僕は笑ってごまかし、「おまえらこそ、どうなんだ?」と言った。
小西が、「男子校だから、出会いはほとんどないよ。他の高校に可愛い子がいても、みんな彼氏がいたりするんだ」と残念そうに言うと、
岡部が、「世の中、そういうものだ」と悟ったように言った。
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