第253話 大暴露読書会②-1
◆大暴露読書会②
その言葉に驚いたような青山先輩が、
「君が好きなのは、あの水沢純子なのか?」と言った。
「あら、言ってなかったかしら?」白々しく言う速水さん。
「ええっ、そうなんですか?」小清水さんが再び言うと、
「沙希さんは前から知っていたでしょう?」と速水さんが言う。
「なんとなくですけど・・」小清水さんがしょんぼり答えた。
青山先輩が息を整え、「水沢さんも鈴木くんのことが好きだと言っているのなら」と言って、
「それでは、相思相愛ではないか!」と強く断言するように言った。
小清水さんは耳を塞ぐような格好をとった。
まさか、小清水さんの多重人格のヒカルがこの場で出現したりしないだろうな。もしそんなことになったら、速水さんのせいだぞ! 僕は速水沙織を睨みつけた。
だが、そんなことにひるむ速水沙織ではない。
「ええ、そうよ。ずっと好きだった憧れの水沢さんに、『鈴木くんが好きかも』って、そう言われたのだから、間違いなく相思相愛ね」
速水さんは嫌味絶好調で、「相思相愛の男女なんて、私、初めて見たわ」と続けた。
「沙織、それは言い過ぎだよ。好き同士なんて、その辺にいくらでもいる」青山先輩がそう言った。
すると、和田くんが、
「鈴木くん、相手が水沢さんだなんて、身の程知らずも甚だしいよ」と大きく言った。
失礼な! 誰が誰を好きになろうと人の勝手だ。
僕が和田くんに抗議しようとすると、気を取り直したような小清水さんが、「和田くん。恋するのは人の自由だと思うの」と擁護してくれた。
「そ、そうだね。小清水さんの言う通りだ」和田くんはしゅんとなってしまった。
和田くんは小清水さんに合わせようと必死だ。
青山先輩は少し沈思した後、
「鈴木くん」と僕に呼びかけ、
「君は、恋多き男だと、前から思っていたが、あの水沢純子を・・」
青山先輩が長い髪を払い退けながら言った。
恋多き、って・・
「青山先輩。僕が恋多き男って、どういうことですか?」
「そうですよ、青山先輩。鈴木くんは、そんな人じゃないですよ」小清水さんが僕を擁護した。攻撃の矛先が、今度は青山先輩に向いた。
「それに、『あの水沢純子』って言い方、どういうことですか?」僕が訊いた。
「その水沢さんは、今、家が大変なことになっているよ」
「大変なことって?」
すると、青山先輩は今までと口調を変えて、
「彼女の父親は、企業関係の弁護士をしていてね。水沢純子の父親は、青山家のグループ会社の顧問弁護をしているうちの一人だ」と説明した。
そう言えば、青山先輩が僕たちの教室を初めて訪れた際、水沢さんが、「あの人、青山灯里さんよ」と名前を知っていた。二人は、以前からの知り合いだったのか。
青山先輩は続けて「水沢さんの父親は、もっぱら青山家のグループ会社の港湾関係の子会社を担当をしていてね、それが、この夏、大きなミスをやらかしたんだ。激昂した子会社の社長は水沢弁護士との契約を切った」
和田くんが、「それって大変なことなんですか?」と素朴な疑問を呈した。
「大変だよ。水沢弁護士にすれば、その子会社の取引は大きいんだ。収入が大幅に減ることになるし、グループ会社の取引を失うと、今後、他の青山グループの会社との取引は望めなくなる」
水沢さんとは、あの花火大会以降は話していない。彼女の友人の加藤ともそれきりだ。そんなことがあったなんて全く知らなかった。
いや、話す機会があっても水沢さんはその事を僕に話すだろうか? 僕と水沢さんはそんな関係ではない。
小清水さんは、自分のことではないのに、心配そうにしているが、速水さんは知らぬ存ぜぬの顔で耳を傾けていない。和田くんは「やっぱり、鈴木くんが、あの水沢さんとなんて、おかしい。おかしすぎる」と一人ぼやいている。
失礼な!
青山先輩は一通り話し終えると、僕に向き直り、
「相思相愛の鈴木くんなら、水沢さんの家の状況を知っているんじゃないのか?」と言った。まるでどこかの会社の上司とかに叱られているみたいだ。
「いや、僕は別に水沢さんとつき合っているわけじゃ・・」僕はたどたどしく応えた。
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