刹那的青春に鉄パイプを。

天霧朱雀

本編

第1話 焔のアルバム

――津波黒つばくろ梓沙あずさの青春。


思い出に火を付けたら、それはとってもよく燃えた。


 夕方。春が嫌いだったから卒業アルバムに火をつけた。セーラー服も最後の日。案外写真はメラメラと燃えるから、あたしはつまらなかった。ガソリンを掛けるとうっすらと蒼い炎がチラつく。こんな土手で焚き火なんてきっと通報されたらとっても怒られるだろう。それでも面白くなかったから火をつけてしまったんだ。

「火遊びなんてガラじゃねーだろ」

 近所のジジィよりはぜんぜん若い声。振り返ると川沿いであるために、春色をした街路樹をバックに立つ烏丸からすま麻貴まきが軽く腕を組んで仁王立ち。

「なんで烏丸がここにいんの?」

 卒業式にも来なかったクセに。この男は学ランを着ていた。

「川挟んで向こうのアパートが俺ん家。視力がいいから見えた」

「視力いいアピールウザいんだけど」

「ほっとけ」

 高校生最後だっていう日なのにもかかわらず。烏丸は卒業式に来なかった。どうせロックじゃないとか、馬鹿らしいとか、そういう幼稚な理由で来なかったに決まっている。烏丸は窓側の一番後ろの席で、いつもつまらなげにしているタイプ。まるでライトノベルで言うところの異世界へ転生していきたくなるような感じだったんだ。――それでも人間には裏表がある、そんな烏丸の事を知っているのはあたし以外にいるのだろうか。

「なんでアズサはここにいるわけ?」

「さぁね、あたしにだってわからない」

 知らないフリで誤魔化そうとしたのにもかかわらず、「どうせロックじゃないとか、馬鹿らしいとかっていう理由なんだろう」とストレートに暴言を吐いた。

 あたしは下唇を噛んだ。この男にそれを言われるとは思ってもなかった。

「うるさいわ、死ね」

「生憎死ぬ予定は八十年後先なんだよなぁ」

「共犯者のよしみであたしの話を聞いてよ」

「いいよ、無益な行為は嫌いじゃない」

 そんな事を言う烏丸だってもう鳥をやめてしまう。羽ばたく事を忘れた鳥なんて家畜と同義。チキン野郎と罵ってやりたい。メラメラと燃えるアルバムを背景に、あたしはこれから春を殺しに参るのだ。どうせあたしもただの家畜、値札を付けられる前に。


(続く)

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