悪役令嬢? いいえ、極悪令嬢ですわ
浅名ゆうな/角川ビーンズ文庫
世界が始まるプロローグ
ローザリアはとある事情から、外の世界をほとんど知らずに育った。
セルトフェル
けれどそこから一歩も出られないのであれば、それはローザリアにとって箱庭と大差ない。それでも、ただ運命を受け入れて生きてきた。
生を受けて十六年。昔から
十四歳から成人までの四年間を過ごす、貴族の
父母は早くに
邸宅の規模からすると少なすぎるが、有能な使用人達。そして時折顔を出してくれる、幼少より定められた
──その日、お気に入りの温室に向かっている
レスティリア王国の守護神とも呼ばれる騎士の中で、
存在は知っていたけれど、実際目にするのは初めてだった。近衛だけに許される緑の制服に身を包んだ騎士は
まるで戦神のような風格だというのに、どこか所在なさそうな
落ち着きなくさ迷う足取りがあまりに
「もし、そこの方」
「あぁ、ようやくまともに人と行き合えた……!」
青年は、子どものようにキラキラした
正規の客人である可能性も考え振る
「失礼ですが、どなたでいらっしゃいますか?」
「あの、俺はカディオ・グラントと言います。その、えぇと……」
「わたくしは、ローザリア・セルトフェルと申します。ところで、我が家に何かご用事が?」
「我が家……って、えぇ!? ここが、家!? すいません、公園だと思ってました!」
青年が目に見えて
「このような場所に迷い込まれる方、初めてお会いしましたわ」
「大変申し訳ありません。あの、ちょっと
「追われていらっしゃいますの?」
「まぁ、相手は知り合いなんですけど」
「夜遊びできないくらいしごいてやるとか言われても、全然身に覚えなんてないですし。本当に、何でこんなことになってるのか……」
何やら落ち込んでいるが、カディオ・グラントは確かに
すらりと均整のとれた
女性の敵。という感情よりも先に、
豊かな暮らしができているのだから、それで満足しなければと。けれど自由のない生活を
「──よろしければ、わたくしに出口までの案内をさせてくださいませ。いくらお強い騎士様であっても、我が家の使用人達をこの先も
にこやかに接しながらも、心は
背後で
「そうですね。何人かと行き合いかけましたが、とてもただの使用人とは思えない動きだったのでつい避けてしまいました。騎士団からの追手に
セルトフェル
「彼らは少数
「あれは精鋭、という言葉で片付けていいものなのか……。いや、とにかくご
戦闘に
本当に
そのように敷地内での安全が約束されているからこそ、ローザリアも自由に出歩くことが許されているのだ。
ただの迷子とはいえ、使用人に
彼は
「何かお礼がしたいのですが、俺はレスティリア学園内での任に
「まぁ……」
彼には警戒心というものは存在しないのか。先ほどから動くたび発言するたび、ポロポロと個人情報を漏らしていた。
まず、王城勤務の騎士が学園内にいるということは、王族の護衛をしているのだろうと簡単に想像できる。確か王弟
そして王弟殿下の護衛を任されるのは、騎士団の中でも屈指の
使用人に
これだけ利用価値をサラリと
「ありがとうございます。ですが、お気持ちだけで結構ですわ。お
さりげなく自身の事情も付け加えてみると、彼は思った通り首を
「えぇと。やはり貴族のご
「そうですわね、貴族の令嬢がそういった教えを受けるのは当然と言えます。ですが、
言える
「事情……自由に行動できない事情、ですか?」
「フフ。わたくしは、『
さらなる
『薔薇姫』。現在、ローザリアのみに使われる
けれどそれが
彼は果たして、どんな反応をするだろう。
はっきり
カディオの反応は、思い
「薔薇姫……。なるほど。確かにあなたは、薔薇のように
思いがけない切り返しに
裏表のない表情を見れば心からの言葉だと、考えなくても分かる。王城仕えの騎士ならば、知識として聞いているだろうと思ったのだが。
カディオはさらに、子どものように無邪気に首を傾げた。
「ん? だとすると、何で
「────」
何のてらいもなく投げかけられた問い。
彼はおそらく、何の事情も知らないから無責任なことが言えるのだろう。
けれど、ローザリアの自由を認めてくれたのも、今まで彼しかいなかったのは事実で。
いつの間にか立ち止まっていた。
心臓が初めて、音を立てて動き出した気がした。うるさいくらい
胸がひどく熱い。
……それは、人形のように心を殺して生きてきた少女の、劇的な変化だった。
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