テストテストテスト111
「中学校教師の両親のもとに次男坊として生まれた俺は、家から近いって理由と、当時対抗意識を持ってた兄の面影に引っ張られてこの学校に入ったわけだ」
「お兄様……ですか? そう言えばこれまで詳しくはお聞きしておりませんでしたが……」
「ハハ。こんなこと言われたらナルナイは違和感を感じるだろうな? そうだ。ナルナイが「兄さま」と呼ぶ俺には、更に「お兄様」がいるんだ」
位相空間での《鶴聞高校》敷地内に入った一同。
校舎内を巡りながら、「色々変わって、時代の流れを感じるな」と感慨深げな一徹 に色々と質問をするにはナルナイ。
質問するに意識を向け、異次元を行く気持ち悪さから逃れたいらしい。
「全教科この高校1位。全国柔道大会決勝進出。主席じゃなかったが桐京大学に入学して国家公務員一種試験をパスして警察庁に入ったバケモノでな。一つとして敵わなかった」
「に、兄さまが……敵わない程のお方」
「俺の入学と入れ替わりに卒業した兄を、当時の俺は何としても超えたかった。だから学年一位を取ろうとしたし、柔道最強を目指した。全然駄目でな」
ナルナイにとって「兄さまの兄さま」という、いわば「大兄様」というべき存在の逸話を耳に、ナルナイだけではない、エメロードも目を丸くした。
「一応周りも俺の事を認めてはくれたけど、上手く行きゃ「流石はあの山本の弟」で、駄目なら「あの山本の弟の癖に」って。焦りもあったし、少しずつ兄の事を嫌いになっていったのをよく覚えてる」
ポリポリ指で頬をかく一徹は、突然廊下で立ち止まった。
「『お兄さんがどれだけ凄いかは知らないけど、アンタ、イタイよ?』って、この場所で言われたよ。それが……」
「トモカ殿……」
「出逢い……ですね?」
「出逢い方最悪。一言目がムカつきすぎて、結構可愛かったのに、その瞬間俺の中で嫌な奴認定したくらいだ」
ルーリィとシャリエールは息を飲む。
これから彼女たちが聞くのは、一徹の過去の女性との話……
――どれほどファーストコンタクトの悪印象から当時の一徹はトモカの事をけなしまくっていたかを聞いたルーリィ達。
「……体育館か」
「真夏さ。で、俺達がガキの頃は練習中に給水なんてあり得なかった。窓やドアも締め切った蒸し風呂のような環境で練習するのが常でな」
トモカとの出会い。
「トモカが熱中症に脱水症状でぶっ倒れたところか縁は生まれたらしい。あれは俺も焦った。抱えて保健室に搬送したくらいだ」
「そっからだな。なんか妙によく話したりするようになったの。『アンタみたいな脳筋顔が私より成績いいの、理解できないんだけど』って大きなお世話だわ」
互いが互いを毛嫌いするだけで物語は終わらなかったのだ。
「ファミレスとかハンバーガー屋で勉強会して……いやぁ、論破? 撃破? 楽しかったねぇ。分からないところがあったら
「一緒にいる時間が増えていった?」
「ま、基本的にアイツから俺にマウントを取りに来たものだったが。柔道の試合、頼んでもないのに見に来てくれて、応援に来たかと思えば、勝った試合に『まだやれたことはあったはず』ってなもんだ」
時間を共有しはじめ、その時間も少しずつ長くなっていった。
「ゲーセン行ったり、買い物に付き合わされたり、秋祭りとか?」
「それはもう、デートだよ」
「ルーリィご明察。今思えば結果的にそうだよな。ただ当時はまだ付き合ってないし、男友達みたいなじゃれあいとも思ってたかな。当時の俺には、好きな人もいた」
「「「「「「えっ?」」」」」」
「お、いい反応するじゃない。特にルーリィが反応してくれたのは素直に嬉しいわ。まだ、俺の事残してくれてる証明だな?」
「う……」
一徹は自嘲気味に笑って再び歩み始める。「まったく、鈍感野郎め」とか宣って。
突っ込まれたルーリィは、複雑そうな顔を浮かべ、その背についていくしかできない。
――立ち入り禁止の下げ札を跨いで一徹が向かった先。
「……屋上?」
「トモカを意識し始めたのは、アイツと会って1年経ってから。2年生の夏。俺はこの場所で、好きだった人に告白した」
「ちょっと妬けますね旦那様。トモカさんについては知っていましたから……いい。でも、その前に旦那様に好きな人がいたって聞くと、正直、嫌です」
「大丈夫だよ。言ったろ? 俺はお前たちの物なんだと」
平行世界では吹きすさぶ風もない。
気持の悪い温かさが占める中、屋上に出て伸びをする一徹は実に気持ちよさそうだった。
「一つ上の先輩の事が好きだった。優しくて頭が良くて、大臣もお国で務めた爺様を持つ孫娘さん。名家には違いないのに驕るところが無い。綺麗で……当時生徒会長を務めてた人でな」
「せいとかいちょっ……!? コホッ! ゴホン!?」
「どーしたルーリィ。大丈夫か?」
「い、いや。何でもない」
「だそうですよトリスクト様。生徒会長だそうです。好みのタイプがライバルでは、いよいよ危機ですね」
「だ、黙ってくれシャリエール!」
一言がルーリィとシャリエールを更に反応させる。
「……おかしいんですけど。私だって生徒会長だったはずなのに」
「な、ナルナイの場合は……出会いが特殊過ぎたからだって。変なしがらみが無けりゃ完璧師匠どストライクだ」
「そうなのかなぁ」
ナルナイとアルシオーネも別で盛り上がっていて……
「いちいちタイプから遠かったのね。私……」
「エメロード様。大丈夫です! 共通点、いっぱいありますよ!?」
リィンは、眉間にシワ寄せて頭に手を添えるエメロードをフォローした。
「一徹様、宜しければその生徒会長様のお名前を伺っても?」
「……殺そうとして無いか? もはや過去の話だぞ?」
「では、名字だけでも」
「……
ルーリィとシャリエールは目を閉じて名を受け止める。
「俺が告白したときには、先輩にはカレシがいた。何を隠そうその相手は俺の兄だった。納得した。でも、好きな人を取られた気がして、スゲー悔しかった」
その他は、ギョッと目を剥いて、絶句した。
「一瞬そのことでグレて……ガキだったから。トモカ、心配してくれたのにつらく当たっちまってさ」
そりゃそうだ。
ここまで聞いてきたトモカとの話の中で急な
「で、俺の兄はでっかい人だったから、俺の告白も、トモカの事も全部ひっくるめて俺の事を叱ってくれたよ。もう俺ボッコボコ」
「し、師匠がボコボコって」
「でもアレでよかった。俺も初めて兄と心むき出しでぶつかって、互いの想いを理解出来た。したら……急にトモカに酷いことした後悔に苛まれて、同じくこの場所で謝った」
「兄さん、その時お兄さんはなんて言ってたの?」
「兄は俺がただ兄の背中を追っているだけだって気付いてた。『俺の後追いをしてるだけじゃ越えられない』ってな。なんてことはない。『あの山本の弟』でいたくない俺は、だけどずっと兄を意識してばっかりだったんだ」
「流石は、山本一徹の兄と言ったところね。有栖刻……ね? ただ者ではないと思っていたけど、山本一徹に負けず劣らずの大人物だったのね」
「アルファリカ嬢にとって私がどれほどのものかは存じませぬが、私が兄を意識するその呪縛から解き放たれたのは確かですね」
「……やっぱり私は、
「そ、それで謝ったその後、トモカさんはどう許したの?」
「兄からのアドバイスを聞かせた。『応援する』って言ってくれて笑ってた」
彼女たちの知らない、でも興味ある一徹の過去。
質問は矢継ぎ早だ。
「俺の自我が、やっと俺らしく生きようと思ったきっかけ。その時ふと気づいた。『お兄さんが凄いか知らないけど、イタイ』って、呪縛から解放される前から、アイツはちゃんと俺の事を見てたってことなんじゃないかって。好意の有無は別として」
「それで……付き合ったんだ」
「いや、意識するようになったんだが……そこまでだ」
「「「「「「は?」」」」」」
「恋愛とか、当時初めてだったし、どうしていいか分からなくて、とりあえずその時は、そこまでだった」
「「「「「「え?」」」」」」
とうとうトモカとの交際に至ったのか。
ルーリィとシャリエールだけじゃない。全員がつばを飲み込み、首まで伸ばしたというのに、この回答。
「知らないわけじゃないだろ? 俺、基本……ヘタレなんだって」
「うん、兄さん。私たちの知っている兄さんって……全然ヘタレじゃないよ?」
「いや、当時はまだ青かったんだよ。『恋より部活だ青春だ』って。女に弱いとか、当時恥ずかしいと思ってたし、柔道じゃ硬道って絶対に負けたくない奴が別の学校にいた」
驚く女性陣の中で、リィンだけが責めるような目を見せる。
修羅にも成れる一徹も、過去の平凡だった頃の時代を思いだす時だけは少し毒気が抜けるのか、顔を引きつらせ、しらじらしく明後日の方を向いた。
――屋上から映った先、校舎棟、下駄箱エリア。
「で、お待たせしました。女子大好物恋バナ。トモカとの関係が決定的になった場所がここだ」
「ね、兄さん。今更こんなこと言うのもあれなんだけど、よくルーリィ姉さまとフランベルジュさんに聞かせようと思うよね? いくらトモカさんだって、元カノジョの話を聞いて……」
「面白くないと思ってくれたら幸いだ。ヤキモチの度合いは、俺と真剣に考えてる証明。ま、でもこの異世界での俺の終わりに繋がる重要人物には違いないからな」
不意に切り出した一徹に、リィンは困り顔。
「トモカには、幼馴染の野郎がいた。これがっ、現代風に言うとイケメンって奴。今は分からないけど、うちの高校は当時スポーツが強くてな。神奈川県大会常連校のエースストライカーだった」
「えっ? 待って。兄さんまさか略奪とか……」
「するかよ。付き合い立ての頃に聞いてみたこともある。『良い奴だけど、男として見たくない』ってさ」
「『見たくない』……それってどういう……」
「俺とは違って女の子にモテモテだった。気のいい、爽やかな野郎だったよ。友達とも言い切れないけど、トモカと付き合う前まで結構話したりもしたんだぜ? よくあるだろ? 話す時だけは結構仲良く。でもつるんだりしない的な」
確かにルーリィもシャリエールも表情は冴えなかった。
「先輩後輩関わらず、いろんな女の子に囲まれて。羨ましいと思ったこともある。ま、でも……ある時からトモカに良く絡み始めて、したら俺だってその限りじゃない」
「それってあれじゃないかしら。例の兄との喧嘩をきっかけにトモカは『応援する』って山本一徹を意識していたんじゃない? それが、幼馴染の男には面白くなかった」
「面白くなかったというより、焦ったんじゃないでしょうかエメロード様?」
「今となっては分からない。俺にとってトモカは少しずつ存在が大きくなった。だからソイツが囲んでくれる他の女子に向けるのと同じように気取らず笑うって、見れたもんじゃなかった」
下駄箱のある部分を踏んで「丁度この辺りだったか」と言うから、その時の展開はここで起きたらしい。
「何だったかなぁ。『トモカ、遊び行かね?』って。水族館だったか……遊園地だったか、動物園だったか……」
「その人がデートに誘っているのを……聞いちゃった?」
「聞こえた……だ。思わず飛び出ちまったよ。飛び出て、気づいたらトモカの手首握ってた」
「私たちの知る兄さんからは考えられないくらい向こう見ずだね? というか、考えなし」
「ナンパ野郎が、他の女の子と遊ぶようにトモカと遊ばれちゃたまらない。ましてや彼女に成ったりなんかしたら、それこそ取られた心持だ」
「それで? 兄さんがそんなことして、その人絶対に何か言ったよね」
「あー……それなんだが……」
一徹の過去の恋愛話。
ルーリィ達が面白いと思うはずもないが、やはりに気になってしまうところ。
また、一徹は複雑そうに笑い、どもってしまう。
「に・い・さ・ん?」
「『何してんの
「そ・れ・で?」
ここまで話しておきながら、ほじくり返さないと絶対に一徹は喋らないと踏んだリィン。
ねめつけるような視線を一徹から離さない。
「……うるせぇよ……俺と違ってカッコイイお前なら、心配してくれる娘も付き合ってくれる奴も。トモカの他に山ほどいるだろうが……って……」
「「「「「「うわぁ……」」」」」」
が、いざ聞いてみると、皆が露骨に嫌そうな顔を作った。
「下駄箱でそんな話をするって、登下校の時間帯だよね? 他の学生、いたよね?」
「ソイツぁ……」
「……みんな聞いてたんだ?」
「……聞いてた」
「それは……兄さんやっちゃったね」
「いや、言い放ったときはそんなこと気にもしなかった。野郎、フリーズしてくれたし、トモカなんて有無も言わさず引っ張って行った」
話を聞く側、皆互いに顔を見合わせていた。
「狙ったか否かは別として、いや、もし狙っていたとしたらかなりエグイわね山本一徹。鼻にかけたかどうかは分からないけれど、多分その男、自分がモテることは自覚してたわよ?」
「だからと言って、それをこのタイミングで指摘する奴なんて普通いねぇよなぁ」
「えっと、言ってしまった兄さまの気持ちも分かるような。確かに指摘する人は普通いないというか、恥ずかしさが勝って指摘できない。でも、もし指摘しなかったらトモカさんはその人とお付き合いしていたかもしれません」
「ある意味、心理テクニックだよ兄さん。自他共に認めるモテる指摘は、聞いてしまった女子陣には『自分も軽くみられるかもしれない』って警戒対象になる。言われた本人も『もしかしたら軽く見ている節があるかもしれない』ってたじろがせる」
「心理的ストップをトモカ様の幼馴染に掛けた……と。旦那様、続きを」
「あぁ。其れでもって俺は……」
何とかシャリエールが先に進めたのが一徹にとって救い……
「無理やり手を引いたトモカに、怒られた。マジ切れされた」
否、別に救いでもなかったらしい。
「引くだけ腕引っ張って、どこで止まっていいか分からなくなって。隣町の
「ゴメン兄さん。それ、一部もフォローできない」
「『何か訳あるなら言ってみ? 聞いてあげる。聞くだけ。
「あ、あー……何だろ。今の話を聞いていると……」
「『私が他の奴と話すことの何がいけないわけ? 何様なわけ? アンタにそんな権利有るわけ? そんな立場なんだ。別にカレシでも何でもないのに』と来たもんだ」
「凄く、イメージ湧く。なんかホント……トモカさんっぽい話運び。兄さんソレ……」
「誘導されてる。分かってたさ。分かっててもな、怒られてる状態でこっちも恐縮しちまって、バンバン怒鳴られて、誘導されないように、何とかその言葉だけは回避しようとしても頭が回らなかった」
そこまで話が来て、リィンはチラリとナルナイを見やった。
「『何、まさか私と付き合いたいわけ?』って言われて、『そんなことねぇよ』って俺の返事はどんどん小さくなっていって。『じゃあ別にいいじゃん。干渉しないでよ』って言われて、『んなわけにはいかないんだよ』って返して。遂に……」
握っていた親友のアルシオーネの手に、ギュッと力が入ったのを見逃さない。
「『あーもうっ!? 私と付き合いたいの付き合いたくないの!? 好きなの好きじゃないの!?
「言われた日には?」
「反射的に『好きぃぃぃ!』って口にしちまって。口にした瞬間ヤバいと思って、蚊の鳴くような声で『ぃぃぃ……です』って。もう、ギャグだな」
「トモカさんとの交際が……スタートした瞬間」
「アイツ、ただただ爆笑していやがった。『感謝するがいいわ。仕方ないから付き合ってしんぜよう』だそうだ。もっと泣くとか。『これからお願いします』とかあるだろ? 正直その日はよくわからず、ただただ恥ずかしかったのを覚えてる」
それがわかるから、場には沈黙が満ち満ちた。
「とまぁ、この高校で話せるところは話したかな。昼飯を駅周辺で食ってからまた場所を移そう。と、その前にちょっと寄りたいところがある。付き合ってくれ」
懐かしみを籠めた柔らかな笑み。
《記憶を失う前の一徹》の瞳は、絶望に堕ち切った泥のように濁った光宿さないはずなのに。
今だけは、純粋な光を取り戻している様にルーリィ達には見えた。
☆
(高校時代の一徹とトモカ殿か。このカップル、幸せそうだな)
平行世界は通常世界と基本的に合わせ鏡。
設備だって同じものが存在する。一徹が連れてきた場所は柔道部時代に汗を流した武道館。
そこでルーリィは、平行世界資料室から拝借した、一徹卒業年度のアルバムを開いていた。
文化祭、一徹は柔道着を見に纏い、若かりし18歳のトモカはこの桐桜花皇国でいう大正時代の
体育祭、肩まで腕まくりした体操着で赤いハチマキ姿の一徹が、腕を組み、少し顔をあげて目線だけ下のガンつける。トモカは「今日の主役」とばかりに、カメラ目線だが両人差し指を一徹に向ける。
修学旅行の写真。貴桜都に行ったようだ。
座禅を組んでいた一徹は僧侶に肩を叩かれている場面。隣に座するトモカは目を閉じ手を合わせている者の、ニヤケを隠せていない様子。
(何か変な感覚だな。坊主頭か否かしか違いが無い。私が今年付き合ってきた《記憶を無くした一徹》もこの写真の中の一徹も18歳)
いつも二人は隣同士。眩しい笑顔を浮かべていた。
(《
もしこのアルバムを三縞校の3年3組が見たなら、同じことを思うかもしれない。
このアルバムの中で一徹は、今の刀坂ヤマトの様にクラスの中心にいた。なんと柔道部では副将を務めていたらしい。
「ん? これは……ッツ!?」
ページをめくって、最後のページ、裏表紙。
メッセージがしたためられていた。
ー最愛の弟。
「忠勝様ですか。トリスクト様にとっての
「……シャリエール。い、一徹は?」
「リィン様たちへの思い出話に耽っています。私も先ほどからお話を伺っていますけど。先ほど、武道館に優勝トロフィーを見つけまして」
「優勝トロフィー?」
「優勝者の名前がリボンに記され巻き付かれる。ここの学校は柔道が強いみたいですね。優勝校に次の大会まで所有が認められるトロフィーが、私たちがいきなり来てもあるくらいですから」
「それで?」
「3本のリボンを見つけました。『
「3連覇か」
メッセージを一目見て言葉を失うルーリィにシャリエールが声を掛けた。
「あぁ、そのメッセージの日付は……」
「知っているのかい?」
「ここに連れられる前に通った廊下に、大きな写真が貼られていました。著名な卒業生を招待した際に掲載された者らしいですが」
「それが
「見てください。日付が新しいでしょう? 去年の事らしいです。《対転脅》長官の卒業校への表敬訪問と公演。確かお題目は『学問だけなら予備校で十分な昨今、学校の存在意義と、
「
「そのあたりの話は?」
「一応、一徹本人から聞いたことはある。でも、実際こうして現場に連れられて改めて聞くと圧倒されるより他にない」
「まだあなたは予備知識があるみたいですね。私はゼロからなので、正直いつ意識を失うかと冷や冷やもんですよ」
「確かに、それはあるかもしれ……」
「
「……スマナイ」
シャリエールがルーリィに声を掛けたのは別に、ルーリィを心配したからではないらしい。
『じゃ、いよいよ高校出るか。時間は13時過ぎ。ラーメン屋付き合ってくれ。
遠くから一徹の呼びかけが聞こえるが、今、ルーリィの意識はシャリエールに向いていた。
向けさせられていた。
「勘違いしないでください。謝罪など求めていない。私が求めているのはトリスクト様の覚悟です」
一瞬でも一徹を託した。その決断が間違いだったと後悔したくないのだ。
☆
場所は変わる。
『兄貴や! 見つかったで!?』
『
『ど、どこだばぁって?』
『君たちは。卒業後全国勤務が正規魔装士官にはあり得るのです。もっと地理に精通しなさい。鶴聞とは……』
「アンタたち馬鹿ね。神那河県よ。横破魔市鶴聞区」
『そ、そういうのは、出身の俺から言いたかったじゃん紗千香?』
三縞校は学院内カフェテリアに声は張り上がった。
「ホントだ。確かに
「フン、トリスクトとフランベルジュ以外、他の者も眉目秀麗。話題にはなるだろうが」
「ま、待ちたまえ。投稿に対するリプライで、一部宜しくないものがあるぞ?」
「ん、ルーリィとシャル教官の目撃情報プラス、男子生徒への言及が出たなら、山本以外ありえないね?」
「ですが、このリプライの内容は……」
「実に良くないものとの縁しか感じないな」
「な……ななな……なんなのよこの……『ルーリィ・セラス・トリスクトとシャリエール・オー・フランベルジュは乱れに乱れまくった
「灯里落ち着け。悪意のリプライかもしれない」
「下卑た顔した男子が抱き寄せて自慢したって……あの娘たちのともにあれる男子なんて山本以外……」
「写真も動画もない。証拠にはならないはずだ」
「数が多すぎるのよ。しかも皆電車内で見たって共通している。しかも、
まず《山本組》古参幹部衆が気付き、声を上げた。
反応して《英雄3組》も学院支給端末画面に指でフリップした。
『ねぇ、やっぱり駄目なんじゃない魅卯……魅卯?』
彼らが湧き立つことで、カフェテリア内は騒ぎに包まれる。
とても収拾がつきそうになくて、《ショートカット委員長》は親友の魅卯に働きかけるが、
「大丈夫。大丈夫……山本君は大丈夫……大丈夫……大丈夫」
魅卯は目を思い切り瞑り、体の前で手を合わせ、願いを繰り返した。
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