テストテストテスト。久しぶりに27
「ごっそさん」
「「「「ごちそうさまでした!!!!」」」」
「ハイ、お粗末様……マジで」
謹慎四日目。時刻は早くも20時だ。
炊事、洗濯、掃除と。それなりに忙しく主夫して、それなりに頑張って、やっと落ち付けたのがこの時間ってだけの話し。
「兄さん、この後お出かけだっけ? どこに集合?」
「いんや、
「うん、わかった。釣果期待してるね?」
今日の献立は豚汁と揚げ出し豆腐。
カレーの失敗を生かして豚汁は上手い事出来た気もするが、揚げ出し豆腐の方はダシに入れる片栗粉が足りず、グシャグシャになってしまった。
ルーリィとシャリエール以外、小隊の4人の空いた食器をシンクまで持っていく。
年下ながらしっかり者のリィンに話さえ通しておけば、俺がいなくとも他の娘たちともうまくやってくれる。
「釣りの経験はないけど、坊主でも
「本当は、ルーリィ姉さまやシャリエールさんにも食べてもらいたいけど」
「ま、謹慎中は俺は学院外の人間だからな。護衛にあたるルーリィたちとの過度な接近は禁止されているってのは仕方ない」
「その割には、他の三組先輩達とはよく会えてるみたいじゃない。昨日だって禍津先輩のお見舞いに行ったんでしょ?」
「参っちゃうよねぇ。事、あの二人の事となると、どうにも俺と彼女たちの間には、魔が悪い場面が多すぎるっちゅうか」
(いい子過ぎんだろリィン。謹慎してからというもの、料理や洗濯の仕方を教えてくれるのは良いけど、本当は一人でやった方が早いだろうに)
「ね、兄さん」
「ん?」
「でも、だからって「縁がないかもしれない」なんて不安にならないで」
「はぁ?」
「姉さまやシャリエールさんとの関係で不安が生まれたとして、それがどれほど小さい物であっても、膨れ上がるのは一瞬なんだから」
(それでなお、こうして心配してくれちゃうか)
「だからこう思って。『何があっても二人との縁が揺らぐことはない』って。大丈夫。兄さんが二人の事を強く想いさえすれば、二人が兄さんを何の気兼ねもなく愛することができるんだから」
「あ、愛するって。また大げさな」
「大げさでも何でもないよ。そうやって冗談だと受け取らないでもっと真剣に受け止めてあげて。もう気付いているんでしょ?」
「ふ、ふぐぅ」
(こちとら、好きの字すら口にするの憚れんだ。それを越えてくるかよ。どういう顔して、心の備えをしとけってんだ?)
本当に、俺には出来過ぎるくらいの妹分である。
(にしても好き……ね? 多分、好き……なんだよな。俺ももう)
愚問が頭に浮かんだ。自問するまでもない。
(編入当日は、まさかこんなことルーリィに思うことになるとは思わなかったんだがな。なぁんか、押し切られた気分だ)
「と、そのうえで私をそれ以上に愛さなければなりませんよ兄さま?」
「
「ちょ、ちょっと驚いただけなんですから。本当に、本当はあの展開は私にとって願ったりだったのですし」
「次にあった時こそ俺も庇わな……イテッ!」
「何を思い出せようとしてるのグレンバルド」
「んだよアルファリカ! せっかく師匠が謹慎初日ナルナイを襲おうとしてくれて……」
「黙りなさい。押し倒され、めいめい泣いていた貴女たち不覚悟者は……」
「ぷげっ! グーパンはねぇだろ。グーパンは!」
リィンと話しながら食器を洗っていく俺の胴体に抱き着くのはお決まりのナルナイとアルシオーネ。
ルーリィとシャリエールがいないことをいいことに、最近アプローチの回数も誘惑の仕方も度を越しているような。
「俺が……押し倒した?」
「何でもない。とうとう妄想と現実の区別がつかなくなっただけよ」
「そ、そっか」
「なに?」
「いや、
(……エメロード様様だ。節操がないねぇ……っとに俺も。ルーリィとシャリエールの事考えてたはずなのに。ナルナイとアルシオーネに抱き着かれて揺れ揺れだ)
エメロードがもしいなかったらとか考えたくもない。
ストッパーがおらず、これ以上二人からの誘惑がエスカレートしていったら、俺は自分を抑えられる気がしない。
あってはならない。
俺は、この娘たちの隊長であり、兄貴分であり、下僕(エメロードに限る)はずなのに。
もし、色々と我慢が瓦解したとするなら、今のこの隊内の絶秒なバランスを自らの手で壊すことになる。
崩れる際にガラガラという音が聞こえてしまう気がする。
それは……俺の第二の人生を構成する中で大きく占める大切なものが無くなってしまうということ。
俺にとって一番恐ろしい結末の一つ。
「しゃんとしなさい」
「……あ……」
最悪な一つの結末が浮かんでしまって、一旦考えてしまうとなかなか払しょくできない。
それを、呼びかけたエメロードが俺の頬に右手を当て、無理やり彼女の方に顔を向けさせることで我に返らせた。
「エメロード?」
無理やり顔を向けさせられたことで、エメロードと見つめ合う形に。
カノジョは何も言わずジッと見つめ上げていて。その意志の強そうな光は俺の目を通して、俺の頭の中に浮かんだ不安を蹴散らしていくような。
「……相変わらず、不思議な縁を醸し出しているな。お前は」
「……はっ?」
見つめ合うエメロードにどんな言葉を返せばいいか分からず、固まってしまったところ、耳に入ったのは、この下宿ではありえないはずの男の声だった。
「
「先に言っておくが、玄関先で何度もチャイムは鳴らした。携帯端末にも電話を掛けた。それでお前はとらない。4,5分は軒先で待たされたぞ」
「別に住居不法侵入なんざ思ってないよ」
相当なマッチョだが、俺よりも背が高いところからアスリート系モデル体型にしか見えない精悍な顔立ちの美丈夫が、複雑そうに笑ってみているではないか。
「まさかとは思うが、今日の
「忘れいでか」
呼びかけて反応が無いから、玄関を恐る恐る開けて様子を見ようとして、玄関から奥の方で、俺たちのワチャワチャした声が聞こえたんだろう。
「悪いな。準備はできてんだ。60秒外で待ってくれない?」
「いいだろう」
変なところを見られてしまった俺の罰の悪さが面白かったか。
複雑そうな
その場から離れる
「ありがとな助かったエメロード」
「礼を言うのは構わないのだけど……この手は何?」
「あ……」
変に勘が込んでしまったのをエメロードが救ってくれたのは事実だったから、お礼を口にしたのは自然の流れ。ただ……
「子ども扱いしないで」
「スマン」
同時に、頭をなでてしまったのは悪手だったらしい。
無意識の内とはいえ、それはエメロードには不快だったようで、頭にのせた俺の手は跳ねのけられちまった。
「んじゃ、言ってくる。リィン。戸締り宜しくぅ!」
「うん、行ってらっしゃい兄さん」
「おうっ」
話は一応締まったはず。
そうして俺は足早に台所から外に向かった。
「エメロードも、も少し素直になってくれりゃ可愛いんだが」
玄関にて靴を履くさなか、思わず悪口というか、本音が漏れてしまう。
聞かれてないことを願うばかりですね。ハイ。
◇
「そういえば昨日、富緒の見舞いに行ったようだな?」
「お、知ってるのかよ」
「今日、俺たちも見まいに行ったからな。『嬉しかった』と言っていた」
「そか、んじゃ良かった。この分なら、もう一回お見舞いに行ってもよさそうだねどうも」
「それがいいだろう。とはいえ富緒の入院は精密検査の為だからな。明後日には退院する」
時刻は夜11時を回っていた。
20時15分には、迎えに来た
夜釣りに行こうと誘われた俺だが、スタイルは船釣り形式。
隣町の沼都漁港に到着したのが21頃。
乗り合いの釣り客が集って出港したのが10時過ぎ。
そこからポイントに到着し、釣りを始めたのがこの時間だ。
「そっかそっか。退院か。そこまでいけりゃ皆も一安心だろ」
風がなく、波も穏やか。
雲は殆ど浮かんでおらず、澄んだ寒空の下。
他の釣り客は大自然を前に集中してたり、仕掛けに魚が食いつくまで民間用スマートフォンににらめっこしたり。
水面に月影を移す、ほとんど波音しかない静かな夜なら、図体デカいが落ち付いた声の
「お礼をしたいと言っていたな。俺が山本と夜釣りをすると言ったところ、『見舞いに来てくれて嬉しかった。ヨロシク伝えてくれ』と言っていた」
「ったく。真面目なこって。で、それをちゃんと伝えてくれるあたり、お前も真面目だよな」
「真面目と言うか。それを伝えるだけなら苦労もないだろう」
「ハハッ。お前、巨漢の癖にいい奴すぎ」
「そしてこの場合、俺の体系といい奴かどうかは、縁はないはずだ」
漁船の側面通路をポジション取り、二人並びながら、先ほど投げ込んだ釣りの仕掛けの浮き具合を眺めて口にする。
「それにしても、少し安心したぞ。学園祭が終って謹慎を食らったことで、山本が腐っていないか心配だった」
「おかげさまで楽しくよろしくやらせてもらっているよ。最近料理なんて始めちまって。難しいんだがコレがなかなか面白くてな」
「フッ、山本は悩みとの縁はないようだ。杞憂だったか」
「寧ろかまってちゃんとしては、こうして気にかけてくれるのが嬉しかったり?」
これだけ静かなのでね、話すに、野郎の目ぇ見る必要もないのだよ。
「今日の夜釣りなんてゴイスーじゃない。まさか誘われた夜釣りが、乗合船で沖合まで連れていかれる奴って。詳しくは知らねぇけど、ほんとは高いんだろ?」
「入学してから今日まで、世話になっている漁師一家がいてな。ご厚意に預からせてもらってる。俺たちは無料だ」
「あれまぁ、義理堅くて半ば武士ぃ? みたいなお前が、そういう申し出に乗っかっちゃうとは思わなんだ」
「俺にだって人並みに損得勘定は存在する」
「だったらちょっと安心だ。心が強くて高潔感があるお前だから、時々気後れしそうになるんだよ」
「なら、以降はもう少し仲良くなれそうだな」
「ま、ね? うふぅっサムッ!?」
ちょっと驚きだ。
二カッとイタズラ心を見せる笑みを、
「どうだ? 気付けに一口。体も温まる」
「おま……それスキットルじゃねぇの」
奴が宇和木内ポケットから取り出したのはスキットル。
いわば水筒というか、飲み物を持ち運ぶための代物だ。
だがスキットルというとイメージ的にコーヒーや茶を入れるものではない。映画やゲームなんかで登場人物が持っているとなると、大体その中身は……
「……中身は?」
「さて? 俺たち妖魔は、『二十歳になってから』と定められてるわけではないからな」
(酒か……)
「大丈夫かよ。そのうち、盗みも殺しも対象外とか言わないだろうな?」
「流石にいいことと悪いことの区別はつく。そしてこれを飲むのは、俺たち妖魔にとっては悪いことではない。ある程度耐性もある。脳細胞を壊すリスクも人間より低い」
淡々と口にする
(そーいや。誘われたまんまに夜釣りなんかに来ちまったけど、本来寮生なら男子寮の外出時間制限だってあって……)
「お前……さぁ、実は普段大人びてるその裏で、結構ヤンチャか? 今日の夜釣り、誰かに許可もらって出て来たのか?」
もう一口スキットルを煽った時に、俺の問いを横目で受け止めた野郎。
口に含んだものをゴクリと飲み下し、グッと歯を見せて噛み締めたかと思うと、スイっと楽しそうに嗤った。
「お前、実は不良だろ?」
昨日のお見舞いの時も思ったが、普段クラスで一緒にいるのと、二人でいるのとは大違いかもしれない。
「よくよく考えたら、この夜釣りだってそうだ。随分無茶な綱渡るじゃねぇの。4時帰港。学院の早朝訓練が5時半。寝なくていいのか?」
「大丈夫だ。あまり舐めてくれるな?」
「ハハッ! バケモノレベルの体力だねどうも。って、誤解すんな? 悪い意味でバケモンと言ったわけじゃねぇ」
「気にしてない。山本が俺を恐れていないことはちゃんとわかってる」
クラスにいるときは、皆と関係がスムーズになるよう、潤滑油的な役割を果たす野郎が、実は結構、こういうところで我が強かったりする。
自分をしっかり持っている。
いい意味での一匹オオカミなのかもしれない。
「ま、俺の方でもちゃんと備えはして来たよ」
「また、大量に持って来たな。魔法瓶2リットル水筒を……三本か」
「冬の海上はクソ寒いって、約束を取り付けたときに
「甘酒にホットレモン。生姜湯」
「飲むか?」
「せっかく作ってもらったんだ。いただくとしよう」
とは言え、排他的じゃない。親しさを持っているのがごいつの
「フム? お前の方こそ不良なんじゃないか? それも俺よりも更に質が悪い」
別で持って来た紙コップにトロトロ注いだアッツイ甘酒を注ぐ。
手渡された
「へぇ? なんでぇ」
息を吹きかけ、口に入れても舌を火傷しないレベルまで覚ましてからゆっくりと甘酒をすすった
「この甘酒、
「その心は?」
「
「くくっ」
「あたかも酒であることを隠しながら、酒として飲もうとした。ひた隠しも甚だしい。俺なんかよりずっとずっと陰湿さと縁が近いな、山本」
「俺らしい……だろ?」
「あぁ、嫌いじゃない」
勢いは完全に越後屋と悪代官である。
「お主も悪よのう」ばりに、俺も野郎も悪い笑みを浮かべて……
「それはそうと山本」
「あん?」
「帰りは、大丈夫なのか?」
「は?」
「……飲酒運転になると思うが……」
「…………あぁっ!?」
言われて、言葉を失ってしまう。
ちなみにですが、先に断っておきます。
今回は特殊な事例ですのでこのような事態が発覚しておりますが、普段はカモフラージュしながら酒飲んで運転など考えておりません。
恩人にも違いないトモカさんと旦那さん経営のホテルにとって大事な大事なお客様に、そんな命の危険を及ばせるわけには行かないのだよ。
下宿からここまで運転したときも、酒は入っておりません。
「そこまで考えていなかったのか……」
残念ながら帰りは始発電車かタクシーで帰ろうと思いまふ。
◇
「おま、それは嘘だろ」
「嘘でもない。三組は火が消えたような静けさが満ちている」
別に勝負をしていたわけでもないが、やっぱり経験者と未経験者は違うみたいだ。
停泊したポイントで釣りを始めてから数時間。
俺の借りたクーラーボックスにはアジ三匹横たわっているが、
「
「なぁんか恥ずかしくない? そゆこと言ってて」
「さて、恥ずかしいも何もそれが本音だ」
(流石、恥ずかしいこともサラリと言えちゃう《《
「今日なんて面白かったぞ。トリスクトと
「そりゃまた……だせぇな」
「笑えるだろ?」
釣果の歴然の差を見せつけられてなお、悔しさはない。
帰港まで緩慢と時間を浪費してたら退屈になっていたかもしれないが、こうして話し相手がいるのはありがたい。
「山本」
「あ?」
「早く帰って来い」
「早くったって、
「それはわかってる。ただ、お前の存在は、やはり三組を変えた」
「そーなの?」
あとは、BGMが船内に追加されたこともある。
いや、音楽ではない。
乗り合いの船で一緒になった大人たちが、釣った魚を
揺れる船上で体揺らして踊り始めるとか。しかも酔っぱらいながら。
「お前がいない。それは、お前が編入する前の三組と変わらない」
「ルーリィがいるだろ?」
「トリスクトは、フランベルジュ教官も、お前がいないと気迫も無く、存在感を潜めている」
「マジぃ?」
「確かにお前がいない三組は、二年生までの俺たちのクラスに戻ったに過ぎない。が、お前の登場は俺たちのクラスに賑やかしを与えてくれた」
よく吐き気を催さないなとか思いつつ。明るい声は、シリアスになりつつある俺たちの会話の空気を緩和させてくれた。
「誰もが、認めている。山本もいて、初めて俺たちのクラスは成立するのだと」
「コミュ障三人衆は認めてないって話だったろう?」
「お前で言うところの……ツンデレって奴だろ?」
「おまぁっ!?」
「なんだ?」
「イヤ、お前の口からそんな単語が出るとは思わなかった」
「これもまた、山本に影響されたのだろう。悪い影響とは思っていない。そういう二次元的な趣味も含め、お前は俺たちにそういう
(こ、コイツは……)
「話を戻すが、あの三人だって言葉に出さないがお前が帰ってくることを今か今かと待っている」
(だめだぁ。『阿呆が! そんなわけなかろうがこの阿呆が!(大事なことなので二度言ってみました)』って言われるイメージしか浮かばねぇ)
カリカリとリールを巻き切って釣り針を海上より引き上げてしまった
「最近は、悪い意味で三組には緊張が張り詰めているからな」
「緊張?」
「月城生徒会長の襲撃の一件が有るからな」
「な、なぁ。俺もしかして訓練生あるまじきじゃない? その噂は知らないわけじゃないのに、こうして謹慎いいことに気が抜けまくって……」
「だから、お前に早く帰ってきてほしい」
「……は?」
再び釣竿を思いっきり振るう|
重りの遠心力もあって、針を船から2,300メートルは離れたところに着水させるとか。
「正義感と義務感が強いところは、ヤマトのいいところだ。尊敬しているし、だから俺もヤマトの事が好きだ。だが、ソレでは息が詰まってしまう」
「ん~?」
着水させてから、再びゆっくり
「襲撃はゲリラ的な物で、いつ襲われるか分からない。だからヤマトは四六時中気を張り詰めている。アイツがそんな状況で、他の者が緩む訳にはいかないだろう」
「えっと……
「……緩む訳にはいかないだろう」
「オイ」
(なんて白々しい。釣りにまで来やがって。しかも言いながら笑いやがるし)
「最近はな、警戒心を高めてるヤマトにクラスの皆も畏縮するときがある。ヤマトは正しい。そんなことわかってる。だから緩むことは許されない」
いつの間にか俺もリールを巻き切ってしまって、針を手元まで引き寄せてしまう。
残念ながら俺の餌には食いつきが見られなかったから、針についていた餌そのまま、再び海に投げ込んだ。
「ゆえに皆、言葉に出さねど思ってしまう。もし今、教室に山本がいたらと」
「なぁんでそこに俺ぇ? まさか、『刀坂、皆に休息を与えてやれよ」って言えって」
(一応、護衛するにしてもシフトを組んで休みと実働と分けてるだろうに)
「お前がいるだけで、きっとクラスの空気は少しは和やかになると思う。お前には、何か不思議な雰囲気との縁が有るからな」
「わけわかめ」
二人でカリカリ。カリカリカリ。
投げ込んだ仕掛けを眺めながらゆっくりと再び巻き始めてから、違和感も嫌な感じもしない沈黙が下りた。
「もし、俺の今日の夜釣りをヤマトが知ったら、きっと明日には怒られるだろうな。クラスの皆には今晩の事を伝えたが、それはヤマトのいない時だったから」
「アイツ、そこまで追い込まれてんのか?」
(確かに
静かに口を再び開いたのは
(厄介なのは、アイツは自分より周囲を大切にするってことだ。編入した俺と違って、ずっと学院で同じだった、しかも今年から生徒会長に成った月城さんの事も全力で大切にするところなんて、実に《主人公》らしい)
思ってしまう。
大切なものを守るために全力になれるのは《主人公》らしくて、それこそ俺が憧れた男なのだ。
という一方、
犠牲は出したくないと思っているだろうが、月城さんを守れるなら、クラスメイトの体力的負担は強いても構わないとは思っているかもしれない。
(ククッ。たった4日だぜ? 謹慎喰らってんな短い期間で、もう心配になるくらい大切な存在になっちまったかよ。俺のクラスってなぁ)
「まさか、山本がこれほどの存在になるとはな」
「はぁ?」
「恐らく、三組に置いて、今のヤマトに影響を及ぼせるのはきっとお前くらいだろう」
「どしてぇ?」
リールにフックを掛け、巻くのを一旦辞めた
「……中心人物だからな」
「……んが?」
一瞬チラッと俺に目配せし、深呼吸する。そうしてもう一度釣り糸が垂れたポイントを見定めながら、もう一度口にする。
「お前は、三組の……中心人物だ」
「またぁ、ご冗談を」
「そう思いたいならそう思うと言い。大事なのはお前がどう思うかではなく、俺たちがどう思うかだからな」
「ッツ!?」
あり得ないことなのに、一言は思いっきり俺の胸のウチを捕らえてしまうかのようで……
「引いている」
「いや、いまなんて言って……」
「……引いているぞ?」
「だから、そっちじゃねぇって。俺が中心人物っていったい何の冗談……」
「だから、引いている!」
「だぁかぁら……ってぇっ! 引いてんじゃん!」
「だからさっきからそういった!」
こういう時も魔が悪いこった。
きっと大事なことを言われた場面なはずなのに、追及させないとばかりに、俺が垂らした釣り糸に取り付けられた
「デカいぞ! 山本!」
「わかってる! おう
「了解した!」
でもね、そんな悪い間も、見方を変えればいい物らしい。
確かに突然の竿の引きは、重要と思しき
「良いサイズだ。出来過ぎだ。乗り合いの釣り人併せても、お前の成績が一番大きいんじゃないか?」
「オッホォッ!? 見ろや
「ハッ! やっぱりお前は、不思議な縁の加護があるようだ」
アジや小魚の数では
が、ビギナーズラックも度が過ぎる。
シマアジ。
サイズは一メートルを超える釣り上げた高級魚が、俺と
さて、どちらが大事なのか。
大物を釣り上げられた実績の方なのか。それとも、聞き逃した話の方がデカかったのか。
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