第104話 過ぎたる称号。《日本最有名訓練生》……は、弊害ばかりっ!

『それじゃあ放課後は蓮静院の学生寮に集合。皆もそれでいいな?』


 ハテナマークを付けたけれど、ほぼほぼ決定に近しい物言い。

 しかもそれが《主人公》が明るい笑顔交じりに言うのだから、ウチのクラスでその表情を浮かべる彼に敵う者は奴はだれもいない。


『まさか三年にも上がってから、彼の学生寮での勉強会が、お約束になるとは思わなかったが』

『フン、気に食わなければ来なくても構わん。誰も、貴様まで招待した覚えはないからな』

『べ、別に行きたくないと言ったわけじゃない! 邪推はやめ給え!』


 どこか期待に満ちた笑みを三組全員が見せている。

 

『ん、前に蓮静院が言った『元通り以上じゃなくて元通り』……は、本当かもね。壬生狼も蓮静院も、あの文化祭でもう少し仲良くなると思ったけど。変わらない』

『仲良くするなどあり得ん/あり得ないっ!』


 いや、いつものコミュ障トリオは除いておく。

 ツンデレ《王子》様の正直になれないセリフに噛みついた《政治家》。コレに《猫》が冷めた目でチャチャを入れるから。


『蓮静院の寮で三組全員勉強会。お約束……か。今年から編入した山本の繋いだ縁だな』

『アハハ。お屋敷を丸々一頭借りている形に対して、学生寮と呼んでよいのでしょうか』

『前回の勉強会の時も楽しかったなぁ。僕、寮に住む蓮静院のお世話係としてついてきた女中(使用人)さんの、作ったお茶菓子が大好きっ!』


(お約束って言ってもなぁ、別に、前回が初めてで、《主人公》が声を挙げた今回は2回目でしかないんだが。それに……)


 来月は12月。定期テストが近い。

 そういうわけで《主人公》が提案したのが勉強会。


 本当は皆、勉強会なんて必要ない。

 少なくとも過去2年間、そんなイベント無しのままここまでやって来て、んでもってちゃんとそれぞれの学習で好成績を毎度叩き出してきたんだから。


『山本っ』

「お、《ヒロイン》」

『今回の定期試験は期待していいわよ。前回の勉強会で、富緒も壬生狼も貴方の学習癖や学習方法の適性を把握したみたいだから。前回よりもっと頭に残るはず』


 いやぁ、美少女のまばゆい笑顔は嬉しくてしょうがない……のだが。


(なんか、すっげぇもうしわけない)


 俺の中で《ヒロイン》のイメージは2タイプ存在する。

 修羅の《ヒロイン》。

 超絶美人で、頭もよくて、明るく、性格が良い。誰からも絶賛人気で、特に男であれば、皆が好きになっちゃう本格派の《ヒロイン》。


 《主人公》がらみとか、彼女から見てルーリィに不義理していると見て取れたときに見せる顔は、対面二秒で俺に脱兎のごとく逃げさせるレベルに恐ろしいのだが……


『そりゃあ、貴方には異能の力を発揮することは出来ないから、そのあたりは落第かもしれないけれど。戦術講義、戦略シミュレーション面については高得点狙っていきましょう』


(こういうときの彼女には敵わないねどうも)


 憎めないんだよね。普段は、本当に俺にも気を使ってくれるいい奴だから。


 勉強会がお約束になったのは、一回目のとき、授業に慣れていない俺を手助けしようと、皆が気を使ってくれたゆえ。

 2回目。

 つまりまた、皆で俺を助けようとしてくれている。


「一徹、今日は……」

「うん、わぁってるよルーリィ」


 だから、本格的に申し訳ない。

 勉強会は、寝耳に水の話。


「ごめんな皆。ちょっと今日は予定があるんだ。ルーリィとその……買い物にね」


 今日の今日で突然言われたことだったから、残念ながら俺はすでに入っていた予定を優先するつもりだった。

 ま、いきなり言ってきた方が失礼だ……ともいえるかもしれないが、俺を想って皆が提案を見せてくれたんだ、強くは言うまい。


「……どーした《ヒロイン》」


 意を決して皆に話して見せた。

 それぞれ残念そうな顔をしていたけど、「いきなりの話だったし」とか、「なら今日は山本抜きで。明日明後日こそ皆で集まればいい」なんて、すぐに笑って許してくれた。


 が、《ヒロイン》だけは別だった。

 体をわなわなと震わせ、呆然とした顔。口なんてパクパクさせて俺の顔を覗きこんでいた。


『か、買い物? る、ルーリィと?』

「え? あ……うん」

『そんなの私聞いていないわよっ!』

「トーゼンでしょうよ。俺だっていま初めて口にしたんだから」


 しかも、いきなし大声張り上げて来やがるし……


 あれ? 皆にモテモテ《ヒロイン》の顔が、少しずつ修羅なる《ヒロイン》。略して《修羅イン》に変貌してきたような。


 ……なんか様子がおかしいぞ?


 《修羅イン》の奴、俺とルーリィを交互に見やったと思ったら、


『あ、アンタたち、それってもう、デー……』


 次いで、《主人公》の奴に視線を送っていた。



 新たな命が生まれいずる。素晴らしい家族に、素晴らしいニューカマーが現れる。


 先日改めて「家族だ」と言って貰えたこともとても嬉しくて、せっかくならその一人として、そしていつか「お兄ちゃん♡」と可愛く言って貰えるよう、盛大に出迎えをしたいと……


(そう、思っていたんだが……)


「お前たちが、なんでここに?」

『不満そうね。もしかして、ルーリィとのデートに私たちがお邪魔したことがそんなに気に食わないのかしら』

「いや、そういうわけじゃあないんだがぁ」


(お前たち、勉強会はどーした)


『三泉温泉ホテルの女将さんの出産が近いとトリスクトから聞いてな。山本と、赤ちゃん用グッズを出産祝いとして探すと、灯里が聞いたみたいで』

『だったら文化祭の時も色々お世話になったし。私たちからも何か送れないかなって。べ、別に、鉄と二人で探すのでも良かったけどっ。「どうせなら一緒に」と思ってついてきてあげただけじゃないっ!』


 三縞駅から電車に揺られて一時間。

 志津岡しずおか駅前の街並を、ルーリィと二人して歩く俺は、後ろに続く《主人公》と《ヒロイン》に思うところがあった。


 つーか、《ヒロイン》に対して。


(うわぁ。それ絶対に嘘でしょうよぉ)


『にしても山本、デートって言葉は否定しないのね』

「グガッ!」

『それで? 手は繋がないの? 二人とも空いた手が寂しそうよ? 自然と繋ぐときは気にならないけど、改まると、気恥ずかしいのかしら』

「だぁっ! 茶化すな!」

『フフッ。前進前進♪』


 いや、なぁに良きかな良きかな♪ みたいに言ってくるのよ。

 前進って言葉は、むしろ貴女に送りたいわ《ヒロイン》。


 どうせ貴女のことです。同棲までしておきながら、3年間手を出してこない《主人公》の意気地のなさに憤慨。

 だけど自分で物事を先にすすめる勇気もないから、きっかけづくりを求めてついてきたんでしょうよ。


 ベビー用品を探しに来た俺とは違う。さっき「デート」って言葉を使ったのがいい証拠だ。

 ダブルデートの形を作って、少しでも非日常を《主人公》に演出し、意識をしてもらいたいのかもしれない。


「どうしたんだ一徹。呆けたりなんかして」

「ん、あ、いや……」

「気を散じてはいけないよ。相手はあのお二人の第一ご令嬢。きっと目に入れてもいたくない程可愛いに違いない。それに恥ずかしくない贈り物を準備しなくては」

「ご、ご令嬢? まぁそうだよね」


 いかんいかん。

 予想外のメンツの参加に、気ぃ取られているわけには行かなかった。

 確かにそれを聞いたら、失敗は出来ない。もっと真剣に。


(見ろ。ルーリィなんて、まるで目の中に闘志の炎が宿ってるみたいに……)


「見てろ? ここで最高の品を選び抜き、誰の品が一番良いか見せつける。そのとき、一徹の隣にいるのは誰が一番ふさわしいか、全員知ることになる」


(というか、何言っているか聞こえんけど、ちょっと本気すぎな感じしんせんか?)


「一徹」

「はい?」

「本気で掛かろう。それこそ今日のデー……いや、買い物で選んだ贈り物が完璧なら、君も手間が省けるだろう? 他の娘たちと改めて買い物に出なくて構わない」

「あー……それは、マジで」


 が、俺もそれに同意だった。


 赤ちゃん用品を買いに行く。

 ルーリィだけじゃない。シャリエール。ナルナイ・アルシオーネコンビ。リィン・エメロードコンビ。

 なぜか4度に分け、小隊メンバーと買い物に出る流れになってしまったから。


 「皆で行った方が効率的でよくない?」と、下宿内、皆との食事中に提案してみたのだが、そういうことではないらしい。



『一応、赤ちゃんグッズちゃんと目的のうちだったけれど……』

『こうしていざ、ズラリ並んだ商品棚を前にすると……』

「何を選んだものか悩んじゃうねどうも」


 ハイハーイ。役立たず三人衆が、赤ちゃんグッズ大手スーパー店内を通りますよっと。


『こうして見ると、赤ちゃん用で必要なものって、思った以上にあるんだな』

『で、何か月から何か月までが必要。それ以降は不要になるものもあるのね』 

「なぁ、俺たちに必要なのって、一にも二にも、適当に育成本見繕って、その辺のカフェで研究するのが一番なんじゃね?」


 はぁい! 役立たず三人衆。赤ちゃんグッズ大手スーパー。縦横無尽ですよ?


「フフ。灯里は、折を見て勉強しておくといい。いつか近いうちにと・・・・・・・・・、そう考えているんじゃないかな?」

『なっ! わ、私は別にっ! そ、それよりルーリィはどうなわけ!?』

「さて……聞きたいかい?」


 と、そんなこんなでオロオロしているなか、珍しく、からかいを見せたルーリィ。

 反応する《ヒロイン》の耳元に、楽しそうに歪めた口元を近づけて……


『えぇぇぇ! ルーリィの方から襲いた……!』


 何を耳打ちされたか定かじゃないが、衝撃な発言を食らったのか、驚き、のけぞり、顔を真っ赤にさせた《ヒロイン》。


「教官シャリエールにナルナイと。不安要素は多い。それに私も人間。いよいよ限界が近くなったとして、なおかつ、一徹の初めてが誰かに奪われるくらいなら……ね?」

『に、肉食女子どころか、捕食者プレデター女子。私も見習わなきゃ……』

 

 ルーリィはウインク交じりの人をくった笑顔を見せ、人差し指を口元に当てていた。


 ひそひそ話は、そこで終わりか。

 

「正直決めかねるね。必需品という面でみればオムツだ。あればあるほどよくって、どれだけあっても新米両親が困ることはない。ただ……」


 赤ちゃんスーパー役立たず衆を置いて、胸を張ってハキハキするルーリィ。何か、知識はあるようだった。


「それが最高の贈り物かどうかと自問すると微妙で……って、何か勘違いをしているね一徹」

「へ?」

「私が、すでに子供を産んだような女に見えるかい?」

「あ、ゴメン。ちょっと現実的だったっつーか。本当を知っているというか……」


 みんなが知らない話を知っていたからなのか。はたまた……いやいや、変なことを考えていたつもりはないぞ?

 しかし、くつくつと笑われてしまったから、苦笑いしかなかった。


知人がね・・・・。生まれたばかりの赤子を世話していたところを私も見てたから」

「へぇ?」

「とはいえ、私がその知人に出会ったときには赤子は生後二か月。生まれたては知らないが、それでもオムツには悩まされていたよ。そう考えると凄いね?」

「……何が?」


 トリスクトさんは少し関心がちに、手近なオムツ何セット入りかのビニール包装を片手で持ち上げた。


「伸縮性のある紙やビニル材で、すでにオムツの形が出来上がっている。軽くてかさばらないし。画期的、そう思うよ?」

「そうかな。いまいちわからないな。オムツの宣伝はテレビCMでよくみるもんだけど」

その人は・・・・、いつも清潔な布を赤子に巻いていたから」

「それはまた、面倒そうだな」

「……そういう世界なのさ・・・・・・・・・

「は?」

「いや、こちらの話だよ・・・・・・・


 なんかちょっとおかしかった。

 一瞬悲し気な目をして、首を振って払しょくしたかのよう。気を取り直したようにクスリと笑って……


 にしてもオムツ一つで、まさか思い出話が出てくるとは思わなかった。


「そういえば刀坂。君には確か、妹御がいたんだったな。先日の文化祭、物産展で挨拶をさせてもらったが」

「ふぇっ!? 何それ。俺、知らないんだけど」

『ルーリィは別として、山本は当たり前でしょう。超のつくほどの女たらしなんだから』

「しどいっ!」

「確か4つ違いだと聞いたが。それなら妹御が出生時、どのようにいたわられたか覚えてはいないだろうか?」


 不意にトリスクトさんは思い出す。

 妹がいる兄として、女の子が生まれてくるときの参考にしたいのかもしんない。


『残念だが役立てそうにないな。俺には確かに妹がいるけれど、俺が14。アイツが10歳になるまでは、会うのも年一回のことだったんだ』

『あ、そこはあまり触れないでおいてあげて。鉄の家にもいろいろ……』

「良いんだ。野暮なことを聞いた」


 そうか、《主人公》は役立たずか。


 あ、いまの話聞いて、「役立たずと言ってしまえる山本一徹の人でなし!」とは思わないでいただきたい。

 「触れるな」と言われたなら、何もなかったかのように、当初の通り役立たずを貫いているだけなんだ。


「うーん、お! こういうのはどうだ? オムツ定期便だって」

『うん。契約期間中に赤ちゃんに必要だと思われる数のオムツを一定期間で宅配してくれるのね。買いに行く面倒も必要なくなるし、良いんじゃないかしら』

『俺もいいと思うが。それは贈り物としてあまりに面白みがないんじゃないか? 華というか、記憶というか……』

「そうだね。日常的に必要となる物だから。継続的というのは助かるだろうが、プレゼントとしてのありがたみはいつしか期間を経るごとに平均化され、残らないかもしれない」


 いい案だと思ったんだが、確かにそう言われるとそうなのかもしれない。


『そうだ、思い切ってベビー用品から離れてみないか?』

「……例えばなんだよ」

テーブルマナーセットカトラリーとか』

「うぅ。サブッ!」

『いきなり何よ山本』

「テーブルマナーセットって聞いたら嫌な思い出しかないんだよ。《美女メイド》さんとか、《美女メイド》さんとかっ、《美女メイド》さんとかぁ……」

『うっ……否定はしない』

『続けていいか?』


 あんまり思い出したくないから、本当は聞きにくいが、せっかく妙案思いついたみたいな顔していたから、聞いてみるしかなかった。


『妹は、毎年誕生日を迎えるたびに、家の者からプレゼントと共に、カトラリーを一本ずつ送られているんだ』

「一本ずつ? それってどういう……」

『フォークにスプーン。デザートデセールスプーン。ミート用ナイフに魚用ポワソンナイフ。20歳になった時、食器全てが揃い、世界に一つだけの自分専用テーブルセットが完成する。思い出も相まって、成人のいいプレゼントになるわね』


(おぉ! それ、面白いかも)


『さすがに俺たちは無理でも、山本は、家族として新しく妹になる女の子を見守ってあげるんだろう? だったら20年かかっても・・・・・・・・・・・・そういう……』

「……それは無理だよ・・・・・・・


 食指が動いた。詳細キボンヌ的に、身も前のめりに乗り気になる一歩手前だった。

 が、ルーリィがそれをよしとしなかった。なんつーか、声に緊張がある。


「る、ルーリィ?」

「あ、いや……」

「駄目じゃなくて無理って……」


 ルーリィのことだから、きっと納得できる理由があるはず。

 聞いてみる。だが、どうにもしどろもどろになっていた。


『……いま話題の、全国的に一番有名な魔装士官訓練生が美少女生徒と。石楠グループのご令嬢が男友達と赤ちゃんグッズショップに来ている。『ご懐妊。訓練生間の不純異性交遊は横行か』なんて、いいゴシップ見出しになりそうなものだけど?』

『『「「ッツ!」」』』


 が、その言葉が聞こえたら、もはや穏やかではいられなかった。

 声の主に向かって俺たち全員、バッと顔を向けた。


 当然だ。いまの話からすると、ここに4人でいる写真なんざ撮られたとして……


『なぁんて、パパラッチの格好のネタにされかねません♡ 十分なご注意と警戒を推奨いたしますわ♡』


 って……この人。オイ。


『でも、それよりなにより。赤ちゃんグッズショップに来る前にぃ、コンドームを付けましょうっ♡』

『あ、貴女っ!』

『あ、灯里とはまだ・・そんな関係じゃっ……!』

「神出鬼没だな」

「び、《美女メイド》さん……」


 まずは一安心といったところ。

 それは新たな登場人物による、あくまで冗談からくるセリフだった。だから一瞬想定してしまった、最悪のケースは訪れないことを確信してホッとした。


『にしても、少しお言葉がきついですわ山本様♡ 悪いイメージで浮かんだのが私だなんて♡』


(だから、ハートをつけるなハートを)


 冗談は続く。

 《美女メイド》さんは、明らかにワザと、悲しげな顔で俺を見るから困らせる。


(ただでさえアンタ、本心を見せてくれないじゃ……)


『せっかく助けて差し上げましたのに♡』

『『「「あっ!」」』』


(……いや。今回ばかりは、本当に助けられちまったねコイツぁ)


 しかしそのセリフと、俺たちに彼女が見せつけるとある物・・・・には、苦い顔が禁じ得なかった。


『三縞市からついてきていたのが二人♡ 志津岡駅で気づき、ついてきたのは一人♡』

『嘘……』

『助かった。そういう事なんだろうな』


 にこやかな《美女メイド》さんが、指に挟んで掲げて見せたのはメモリーカード。

 それは俺たちの後をつけ、撮影した写真が収められたものに違いない。


 計三人……ということ。

 《美女メイド》さんが口にしたのは、俺たちを盗撮していたどこぞのジャーナリストの数。


『あくまで噂です。文化祭中の事件に関する取材は、《対転脅》が認めた範囲以外の物について、相当な圧力がかけられているとのこと♡ 取材者の脅迫♡ もしくは誘拐♡ 取材した情報は完全抹消され、のちに開放に至るとか♡』  

「へ、へー。そーなんですかー」


(あぁ、気付かないでくれ。俺の棒読みに)


「《対転脅》の圧力と監視の目を潜り抜けるため、ジャーナリストは遠目からの盗撮に踏み切りました♡ ゆえに一層注意は必要♡ そうなると、彼らが描く記事は、盗撮と観察による予測ベースに頼らざるを得ません♡」

「注意が必要……とは?」

「直接取材インタビューしたわけじゃない。真実とはかけ離れた記事が生まれる可能性はございます♡」


 そこは、かなり胸に響いた。

 誰かが俺の知らないところで、自分でもわかっていない俺自身や、俺の周囲のことを暴いてしまおうとしている。


「俺のせいか。ルーリィに、下宿アイツらに、三組連中にも迷惑を掛けちまっている」


 そう考えると、なぜだか恐ろしかった。


「一徹、こういう時は私以外を心配するんだ」

「ルーリ……」

「君からなら私は、いくらでも傷つけられてかまわない・・・・・・・・・・・・・・・・。違うな。私を傷つけていいのは君だけだ」

「く、くぅ~~っ!」


 一瞬、落ち込みかけた……が、すぐ、心は熱くなる。


 (本当、彼女は……)


 そっと、ルーリィが俺の手を取って、キュッと握ってくれる。


(なんてこんな心強い。文化祭の事件以降、もっと感じられるようになったっつーか)


 一瞬で不安が胸の中を染めたのに、隣に立ち、俺の瞳を真剣な目でじっと見つめる彼女の言葉が一辻の風となって、黒いモヤを吹き飛ばしてしまったかのようだった。


 それを思うと急に気恥ずかしさが押し寄せる。

 頭をぼさぼさと掻きむしってから、言葉を絞り出した。


「あーそれじゃ、どうしよっか。今日は……帰るか? 俺たち四人以外は《王子》のところで勉強会だろ? まだ解散してないだろうから、合流するか?」

『そ、そんな!』


 いわゆるダブルデート認識だったからか。

 いやぁ《ヒロイン》さん。本当に申し訳ない。


『そうですわね……では♡』


 が、終わることはなかったのだよ。

 あからさまに演技じみた「今思いついた」と思わんばかりに手を合わせる《美女メイド》さん。


 まぁ、この人が口を開くと、いつも面倒なことにしかならないから、嫌な予感がチョットするのだが。

 変わった人だけど、やるときにはやる人。

 だからきっと、このお出かけが中止になるようなことにはならなさそうだ。

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