10月 記憶を追い求めて。結束する三組。温かな彼女たちへの不信

第39話 最近、何事にも身が入りませんっ!

『……と言うわけで、今月末、本学院で文化祭が開かれます。何か出し物を催したいと考えていますが、何か希望はありますでしょうか?』


 あぁ……教壇に立ち、黒板にひとしきり用件を書いて振り返る《委員長》。

 なんと可憐なことか。


『例年その前に体育祭がありますが、年を越してすぐ、全校競技会が開催される関係で、今回はありません』

『実質、卒業最終年の僕たちにとって、これが三組全員最後の合同作業となる。何か、皆の記憶に残る、素敵な企画を募集したいと思うんだが』


 さっすがは《委員長》と同じ小隊の人間というかぁ。

 「副」がついても委員長の一人である男というかぁ。

 良いぞ《政治家》も、ナイス連携。

 

 イベント好きなのか。教室中がワァッと盛り上がった。皆、我も我もと、思い思いの提案を口にした。


 ノリがいいよねぇ。

 普通は意見出すのが恥ずかしかったり、面倒くさかったりして、文化祭の催しについて投げかけられても、無関心ってのが高校生らしい高校生じゃない?


 (ま、魔装士官学院の時点で普通じゃないんだろうな。にしても……)


「あっぢぃぃぃぃぃ」


 ハイ。俺一人だけ、彼らの波とズレがあります。

 しょ~がないでしょうが。異常気象も過ぎるってもんだ。もう10月だぞ10月。


 食欲の秋とか、スポーツの秋とか。いろいろあるんだろうが、まずは涼しく過ごしやすいってのが本来の秋だろう?


(あぁ、異常気象もここまで極まれりか)


 クラス活動に積極的な皆は、親鳥からの餌を欲しがるひな鳥が如く挙って手を挙げていた。ハッ。ダルゥ。


 もういいよアレで。メイド喫茶で。

 文化祭の定番だろ? 男子が提案し、女子がドン引きし、なのにズルズルといつの間にか引っ張られて、最終的に女子が全員メイドさん格好しちゃうあの流れ。


 え? そんなのあくまでラノベだけの話だって?

 別に、良いじゃん良いじゃん。

 うちのクラスの女子、《ヒロイン》に《委員長》に《猫》に、みんなレベル高いから、きっとメイド服がよく似合う。


 きっと男がたくさん群がって来るだろうよ。


(残念ながら、三人とも《主人公》に攻略されているんだがな。なのに攻略したことに気付いていないとか。クソ、朴念仁。無自覚ヤロウ)


 ていうか、他の男子どももよくやるよ。

 「自分たちは魔装士官を目指しているから色恋沙汰には興味ない」って? 《主人公》の甘々~を前にして?

 賢者かよお前たち。


 え? 何となくヤサグレテないかって?


 聞いちゃってよ奥さん。

 文化祭どころじゃないのよ俺。悩み事が多すぎて。


 先月の俺専用脳内◇◇との邂逅……もとい、抽選会の後のこと。

 色々あったのよ。色々。


(突然、《蛇塚なんちゃら》が不機嫌な顔して電話寄越してくるとか思わなかったな)


 後日、教官室から俺宛の電話が、《蛇塚なんちゃら》から来ていると呼び出された俺は、また小隊員の勧誘かなぁと思って出たのだが……


(『やり返したつもりですか!? うちのトップツーをかどわかすとはっ!? 少佐位に意趣返しとはいい度胸です。卒業後の進路を楽しみにしておきなさい』ってさ……)


 電話に出た瞬間から怒られた。

 

(知らねぇし。《灰の勇者》と《灰の聖女》が三縞校の山本小隊に移りたいとか。何の話だよ)


 それが全キレされた理由。


 俺が自己紹介した後のこと、厨房に行っている間、リィンが彼らに対して何か話したらしい。

 それが理由で、なぜだか二人とも、俺の小隊に加わりたいとか宣ったらしいんだが。


 正直ね、そんなことはもう、どうだってよかった。

 それも含めて俺は、リィンから再び、ないがしろにされたわけだから。


(まさか、それが理由であの抽選結果になったんじゃねぇだろうな)


 それでね、抽選会の結果が後日出たの。

 協議会の小隊模擬戦トーナメント大会表。


 明らかにね? おかしいの。


 さすがは全校競技会。各学院でトーナメント大会開いて選抜チームを送るんじゃなくて、競技会期間中に、全校全小隊を一気にトーナメントしますよって。


 それはいいんだ。


 なんで僕のチームだけ、無駄に5試合多くあるんですか?

 クラスメートの他小隊に関しては、仮に8回勝ち続ければ優勝ができるところ、俺たちが優勝を目指すとなると13回必要になる。


(5回勝って、初めて他の奴らのはじめの一歩と同じとか。絶対抽選結果に手ぇ加えられてる)


 ちなみに、第一学院東京校の《灰の勇者・聖女》小隊は、準決勝からスタートの、チートシード。


 第二学院京都校の《俺専用脳内◇◇・ゴミ》小隊は、準々決勝から。


 我らが《主人公・ヒロイン》小隊は、四回戦からスタートというシード。


 ねぇどなたか、この格差、助けてくださらない?


(競技会での成績は、卒業後のキャリアを選び、配属先を上が決める評価に直結するだろうに)


「一徹、君はどう思う?」


(頭が痛い。マイナスのスタートなら、余分五戦で一敗も許されねぇ。俺でコケてトリスクトさんやナルナイのキャリアがフイになったら……)


「一徹?」


(っていうかまて、《蛇塚なんちゃら》に面白く思われていないことで、シャリエールに迷惑をかけていないだろうな)


「一徹っ!」


「ウヒッ!」


 突然、頬をヒンヤリしたものが触れたから、驚いて思わず立ち上がっちまった。


「す、すまない。驚かせてしまったかな」


「いや……」


『はい、では、山本さん』


「え?」


 どうやら、トリスクトさんは俺の頬に手を伸ばしたらしい……が、それよりも。

 

『文化祭の出し物について。山本さんの意見を聞かせてもらえませんか?』


 慌てて立ち上がったことで、あたかも絶対に推したい案があると《委員長》に勘違いされたらしい。


 指名されたことが予想外。頭は真っ白。

 だが、答えろ俺! 何か、何かないか!


「ちょ、チョコバナナ屋……とか?」

『チョコバナナ……ですか?』

「ホラ、チョコとフレークとバナナだけで、元手かからなさそうだし」


 俺の提案に、聞いた《委員長》は口を閉じた。


 オッケ俺! 思わぬ指名の中でもよく答えた。

 適当に思い浮かべたメイド喫茶案は出なかったが、考えてみれば悪くない案じゃないか?


 黒くて太くて長い、甘いもの。

 コーティングチョコを先に食べようと、先っちょから舐めるもよし。

 バナナと合わせて食べたいなら、思いっきり頬張ってくわえこむもよし。


 いや、本当に悪くないんじゃないか?


 ぺロペロ、ジュップジュッポ。


「うへへ……」


 どのように味わってやろうか、結構に悩む代物。

 結構モノが大きければ、食すのも、ギコちなかったりするかもしれない。


 クラスメート女子たちに、店先で食べている姿を男子たちにアピールしてもらってぇ……


『却下ね』

『ん……却下』

『却下です』

「しどいっ!」


 なんてことだ。一蹴かよっ!


 《ヒロイン》にはギロッと睨まれ、吐き捨てられた。

 《猫》は、目を閉じて呟いた(まさかお前、変な想像してないだろうなっ!)。

 《委員長》に至っては、顔を赤く染めて、若干不機嫌そうに却下してきやがった。


 なんでぇ。我ながら、即席だがいい案だと思ったのに。


 ホレ、女子が反対するのは分かるとして、賢者共も女子たちに乗っかって、シラーッとした目を向けないっ!

  

(実績だってあるんだぞ!? ウチのアメフト部、《日本明立大インテリジェントゴリラーズ》の模擬店でチョコバナナ売った時にはなぁ、仲のいい女の子に金を払ってアピって貰ってぇ……)


「……あ」


 逆風の強い状況に、思わずそんなことを思って、息を飲んだ。


「一徹。どうしたんだい? 最近の君は何処か……」


「おかしい?」


「い、いや……」


 トリスクトさんの心配が耳に入って、申し訳なくなった。


「はは、大丈夫だよ。大丈夫」


「君は、最近『大丈夫』ばかりじゃないか……」


 なぁに、驚いた表情でこっちを見るのかねぇ。

 やめてくれないかなぁ。トリスクトさんがその表情を浮かべると、悩み事がもう一つ増える感じしちゃうから。


(にしても、どうして高校生の俺に、大学時代の思い出みたいなのが閃いちゃうんだろうねぇ)


 これが、最近色々ある悩み事の一つ。

 山本一徹18歳。九月の抽選会に行ってから、時たまなぜか、18歳以降の……大学時代の記憶が彷彿します。


 でもさ、きっとトリスクトさんに相談しても、意味がないと思う。

 だって彼女も、リィンや他の隊員と同じ。


 俺を記憶真実から遠ざけようとするだろうから。

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