彼女たちの方が、俺を手放してくれないんだが……
第14話 揺れる。おっぱいに揺れてますっ(解散話じゃねぇのかよ)!
(これが、論破ってやつなんだろうかぁ)
ボォ~っと、ベンチに座って空を見上げてみた。
神社ってのはいい。静かだし、寺と違って日が落ちてなお、あんまり幽霊的な怖さを気にしなくていい。
「くぅ~! なっさけねぇ!」
言いたいこと全部言えたのか、悪辣な笑みをスッキリした雰囲気で見せた蛇塚なんちゃらは、ファミレスから去った。
そののち、気まずそうな顔の小隊長メイトたちとも別れ、近くの大きな神社に足を運んだ。
時間帯的に、人のいなさそうな場所でゆっくり考えたかった。
ぜーんぶドンピシャ。
蛇塚なんちゃらに言われたこと、ひとっつも言い返せないほど正しくて、グゥの音も出ねぇ。
「ま、ぶっちゃけ言われた通りではあるんだよなぁ」
チラッと、携帯端末を見てみる。
話題の三人、プラスアルファから連絡が入っていた。
アルシオーネからは、「下宿の庭で対人訓練すんぞ。鍛えてやるから出てこいや!」ってのは……うん、間違いなく俺が殺されてしまうね。
「三縞市を案内してくれないでしょうか?」というのがナルナイから。
入学してすぐ合宿に行って、三縞校に通うようになってもあれよあれよとさらに一月が経って、勝手がわからないらしい。
トリスクトさん。「トモカ殿に教わって、夕飯に君の好きなものを作ってみた。味の評価が欲しい」なぁんて、かったーい文面。
ハハッ! 性格的に計量とか熱を加える時間、食材のカットのサイズとか。時間はかかりそうだがキチッとしてそうだ。
そして……
「シャリエールには、もう伝わっているのか……」
シャリエールからの連絡文には、一目見てうめくしかない。
「東京校の蛇塚教頭から打診を受けました。一徹様の真意をお聞かせください」ってなもんだ。
「どうすっかなぁ~。本来答えなんざ、考えるまでもないはずなんだが」
下宿で暮らし、小隊も同じ。
正直、アイツらといると面倒なことばかりだ。日々疲れてならない……のだけれど。
こういった形で突然、「離れてくれないか?」と言われ、凄い不安に駆られた自分がいた。
『うむ、うむ……気に召されるな姉御殿。すべては此方の不手際が端を発生させた問題じゃし』
「ん?」
考えるために静かぁな場所を選んだから、音はよく通るわけで。
「あれ? あの人は……」
『弟御のこと、謝られるのはもう結構。最終的に何とかなったのじゃ。なによりすでに、補填は調整者から受けておる。主は、弟御がお傍に戻られた事実を、ただただ喜ばれよ』
とりわけ、女性の高い声ならなおさらだった。
(もしかしたらこの神社、先客がいたのかね)
『にしても、プククッ! 神格序列によるものか。はたまた姉弟故か。顔をボッコボコに腫らしおってからに。
艶やかな黒く長い髪の女性の後ろ姿。
首掛けタイプの……というか。
背中の部分がぱっくり開いて地肌が見えた広く見え、ドキッとした。
本殿を前に、腰に手を当てピンと背中を張り、まるで前に、さも誰かがいて、談笑しているかように、随分大きな独り言を上げていた。
『と? すまぬの。どうやら迷える子羊のお出ましじゃ。姉御殿の格別なご配慮に感謝を。おかげで予想より出血抑えてこの世界に滞在させて頂ける』
誰も、いないんだけどなぁ。一体何の話を。
って、まてまて!? まさか霊感ある不思議さんで、神様と話しているってわけじゃないだろうな。
『何、長く居座るつもりもないでな。妾も、己が世界の因果の流れをいつまでも止めるわけにもいくまい』
後姿が優美な女性は、本殿に向かって一礼する。
髪をかき上げて、踵をかえした。
(あ……)
爽やかな風に、髪は流れる。反射させた月明かりの光はまるで光沢ある黒の波を作るかのようで、神秘的だった。
「え?」
そして、そんな女性は、本殿から離れると……
「来たようじゃな」
ベンチに座っている俺の前に立った。
褐色の肌を持つ女性を、俺は下宿で三人知っている。
目の前の女も同様だった……が、明らかに、シャリエールやナルナイたちとは雰囲気が違った。
腰に手を当てて胸を張る堂々とした佇まいながら、見下ろしてくる様。
力強さに、優雅さ、そして日が落ちてなお、らんらんと光る金色の瞳の神秘的さに、息を飲まされた。
静かでいて雄大。優しく包み込むようにすべてを照らす、月光のような神々しさ。
「うっ!」
そ・れ・が……前かがみになって、まじまじと俺を見つめてきた。いや、それは構わない。
問題なのは、その体勢となると、重力によって、たわわな実りがタユンタユンと揺れる。
首にかけられた紐でかろうじて固定されたキラー
「んん? これが気になってしまうのか
「ちょっ……あ……」
(は、鼻血がっ! )
視線に気付かれてしまった。驚いたのは、そこからだった。
凝視に気付いた女性は、明らかに楽し気に、自らのソレをわしづかみにし、揉みこんだり揺らしたり、俺に見せつけるようにしてくるんだっ!
FUUU! FUUUUUU(上げ調子)!
「あの、あの!」
プレミアもんだよぉ畜生!
なのに、俺の反応、楽しんでるじゃない!
俺も確かにおっぱ……いやいや、そうじゃなくて、見ようとしたら、目ぇ合っちゃうじゃん。恥ずかしいじゃん!
「ツッ!」
「これがあやつの……
意味の分からない言葉。
だが、彼女は人差し指と中指でクイッと俺の顎をすくい上げ、頭を持ち上げたから、息ができなくなりそうだった。
「やはり童ではもの足りぬ」
おい、すげぇことになってんぞ!?
あともう少しでおさらばになりそうな、俺の周囲の女子たちも別嬪ぞろいだが、この人はそれすら凌いだ。
そんな人が、興味深げに俺の瞳を見つめ続ける。
心の奥底を見透かそうとしてるかのように、顔すら近づけた。
ちょっとでも動こうものなら、チューまでも行けちゃ……
「……いっその事、
「あ?」
「なぁんて冗談じゃ♪」
フワッとした感触。
何か、同時に言っていた気がするが、そんなこと、お姉さんが顔を近づけた直後、俺の額に柔らかいものが押し当ったことが、考えさせることを許さねえ。
(え? え? マジでいま、額にキ……)
「記憶を再構築したところで、因果律を一度壊したとなれば、もはや童ではないの。それに因果律も、最終的にカラビエリのものになる。引き渡しは良い状態でしかるべき。面倒じゃがな」
「あ、あのっ!」
やっばい。どっきどきが止まらない。
意味不明な発言は、本当に意味が分からないからなのか。
それとも、こういう神秘的な雰囲気な人が言ったから、そう感じるだけなのか。
わからないながら、顔を離してまたスックリと胸張って立ち、見下ろしてくださるお姉たまに呼びかけた。
が、またもや押し黙った。
ただ視線が合うだけで、何も言わせない圧倒的な魅力が、この人にはあった。
「悩んでおるのじゃろう?」
「え? どうしてそれを……」
「悩め悩め。苦悩は試練じゃ。因果律を
「い、いったい何を」
「抗ってみせぃ。めったなことでもなければ潰されることはないじゃろう。あの、馬鹿弟にはもったいないほどよく出来た、姉御殿の加護を受けた童ならの」
本格的に理解できねぇ。
ここまで来ちまうと、この空気感にもまいっちまう。
「時に、ゲームは好きかの?」
「……嫌いじゃないですけど。レジェンド・オブ・ファイナル・ドラゴン・テイルとか」
「あれは名作じゃったのぅ。妾もここに降り立った時、あやつの保護を受けていた段、ハマったものじゃわい」
いったい、何をこのお姉さまは俺に求めてるのか。
「言ってみれば、クリア特典というものを童は持っておる。だから案ずるな。せっかくの機会じゃ。その苦難すら楽しんでみせ?」
と、そこまでだった。
伝えきったお姉さまは、一つ、ニコリと笑うと、俺の頭をそっとなでつけ、踵を返す。
「あ、ちょっと! お姉さん!」
「トモカに詫びを。宜しく伝えておくれ」
「待ってくれ!」
最初から最後まで、話の主導権を握られ、一つとして腑に落ちないまま離れていく。
トモカ姉さんの言及も同様。なんであの人がトモカさんを!?
闇に溶け行く背中。こちらを向かず、ただ、あげた腕を振り、背中越しに別れを告げてきた。
ていうか、本当に待ってくれ。
俺は、俺はまだ……
「貴女の名前も知らないんだ!」
◇
「ハァッ!」
体が真っ逆さまに落ちていく、あの急激に体が軽くなったような感覚に、声を上げて、固まった。
闇にボゥッと浮き上がる灯篭の灯。静寂を邪魔しない虫の音。
声を上げて絶句。そして数秒。
フワッと過行く心地よい風に体をなでられたことで、緊張が解けたのか、やっと自分の体の感覚を取り戻した。
「……夢?」
場所は、クラスメートたちと別れてから立ち寄った神社のベンチ。
先ほどのお姉さんを目にしたときに自分がいた場所とは変わらなかったが、どことなく、自分がお姉さんと出会ったときと、いまいる場所は、違うように思えた。
(まるで、空間が違ったというか)
「ん……」
状況の把握に努めようとしたところ。
耳元で小さく声を認めて……
「ど、どぎまぎぃぃぃぃぃぃ!!」
どぎまぎしちまった。
いつの間にやら隣に……というよりも、俺の肩に寄り掛かって眠っていた者がいた。
ねぇ、だからわかる?
目を覚ましたら絶賛美少女が隣にいる感覚。
嬉しいとかじゃないぞ。驚きしかねぇ!
先日のナルナイのときと同じ、盛大に悲鳴は上がった。
「……起きたんだね。一徹」
「と、トリスクトさん。どうして……」
「夕食の時間になっても帰ってこなかったから。ネコネに聞いてみたら、ファミレス前で解散してから、三縞大社に向かっていったと聞いて」
「探しに来てくれたのか?」
「私はおろか、トモカ殿にも連絡がなかったから。到着して見つけた君は、気持ちよさげに寝ていた。起こすのも偲びなくてね。いつの間にか私も眠ってしまった」
「ごめん。心配をかけた」
「いいよ。私も、君と久しぶりに二人きりで静かに過ごせたし」
(う……)
見惚れてしまうぜコイツぁ。
告げる彼女は、隣からそっと俺の手を握り、薄く笑って見つめてきた。
神木があって、聖木が生い茂る有名な神社。
すでに遅い時間帯か。灯篭の光があってもあたりは暗がりが強いはずなのに、なんというか、トリスクトさんは静かな光を放っているようにも見えた。
「それに嬉しいんだ。君とここに来ることができて」
「ここって……三縞大社に?」
社殿として格が高く。観光スポットとしてもパワースポットとしても有名。
トモカさんの旦那さんが経営している、温泉旅館で働かせてもらっている俺たちだから。
そういう場所を一つでも多く知っているのは、きっと今後に生きるのかもしれない。
「知ってるかい?」
「ん?」
「源頼朝は、源氏再興を願い、この社殿に百日日参をしたそうだ」
「ハッハァ、改めて至らなさを突き付けられるぅ。日本人の俺より、留学生のトリスクトさんの方が詳しいのねぇ」
「ほら、あそこ。見えるかい?」
「岩が二つ。寄り添って……
「その日参に、妻の北条政子も付き合っていたらしい。そしてそれら岩に……」
「二人がそれぞれ腰を掛けた……か?」
うん、脳内メモだわ。戦勝祈願のご利益ね。
今後の観光案内ネタとして、控えておこう。
「婚姻関係が、愛情か
「ん、ごめ。何か言った?」
最後だけ一部聞こえずらいところがあって聞き返す。
しかし、隣に座る彼女は答えることなく立ち上がった。
「帰ろう? 私たちの家に。皆も待ってるし、夕食もまだなんだ」
「えぇっ!? そいつぁ悪いことしちゃったな。先食べててよかったのに」
「無粋なところは昔からだね。ナルナイやアルシオーネは別として、今日は私が君の好きなものを作ったんだ。一緒に食べて、感想を聞きたいじゃないか」
「あ、そうだ! せっかく連絡を貰っていたのに」
「いいから。さぁ」
手は握ったまま立ち上がったから、彼女に引っ張られるように俺も立ち上がった。
が、それまでじゃなかったから、緊張しっぱなしになってしまった。
……トリスクトさん、下宿に到着するまで、ずっと俺と手をつなぐんだぜ?
手汗……半端ないってぇ。
つか恋人繋ぎとか、するなら先に言うてくれや。
とはいえ、言われたところで、心の準備普通できひんやん。
って、「昔から無粋」って。なんでそんな、わかったように……
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