6月 来たな! 小隊(パーティ)追放イベントっ!?

第12話 新米小隊長の前途は多難ですっ!

『そこまでです! 勝者、《壬生狼・禍津》小隊!』

『ぐぬぅっ!』


 第三学院の野外演習場。

 響く、女性教官の力ある宣告に、先ほどからその模様を遠くから見ていた男は皮肉っぽく顔をゆがめた。


『いやはや、無様なことこの上ない』


 宣告は必要ないかもしれない。それ以上に、先ほどまで対峙していた二小隊の、それぞれが浮かべる表情の差が勝敗と、力の差を示していた。


 男は、しかしながら勝者の方に注目をしていなかった。

 目を向けるのは敗北小隊に対して。


『超一級の人材も、指揮を執るが愚物では、輝くものも輝くまい。勿体ないことを』


 滝のように汗をかいて、両膝に手を置くことでかろうじて体を支えて立つ、とある男子生徒と、それを囲む少女たちに注目していた。


『にしても良い掘り出し物です。ナルナイ・ストレーナスとアルシオーネ・グレンバルドはマークしてましたが……』


 いや正確には、男が注目していたのは、


『ルーリィ・セラス・トリスクトですか』


 三人の美少女だけだった。



『お、おかざり……かな?』

『ん、お飾りだね』

『フン、口にするまでもない』

『えぇとその、気をしっかり保ちたまえ。山本』

「ブシュゥゥゥゥゥゥッ!」


 とある日の放課後。場所は三縞市内のファミリーレストラン。


 ある程度は予測していたことっしょ?

 んだども、実際に言われてみりゃ、やっぱヘコむわ。テーブルに突っ伏しちゃう。


《主人公》には遠慮がちに言われ、《猫》には遠慮なくバッサリ斬り捨てられた。《王子》からは、何をいまさら感出され、《政治家》に至ってははもはやフォローに徹しようと頑張ってくれていた。

 《政治家》よ、その優しさが痛いってことが、どーして気づかない。


 三組全小隊。三年生になり、最上級生となったこともある。隊長格で定期的に会合を持ちたいという提案が《主人公》からあって、今日は第一回目だった。


 告白します。滅茶苦茶気が楽です。


 大事なことなので二度言います。


 滅・茶・苦・茶、気が楽ですっ!


 隊長だけの集まり。

 トリスクトさんもシャリエールもいない。部下、後輩のナルナイやアルシオーネも言わずもがな。

 美少女たちが何かと接触を図ろうってのは嬉しくないわけじゃないが、勢いはしばしば俺を飲み込まれ振り回す。

 簡単に言うと疲れちまうんだよ


『にしても、下手に君が副隊長でなかったのは良かったかもしれないぞ。でなければすぐ下に、あの一年二人が』


 チャッと、眼鏡を正した《政治家》に、皆は黙ってうなずいた。


『そういえば俺も、新入生合宿で、一、二位を争った実力者だと聞いたな』


 そこ、《政治家》に《主人公》。上官になっちゃった俺よりも、なんでもおまいらの方がアイツらに詳しいんだよ。


「ほぉ? 優秀かよ」

『ん、優秀優秀ちょー優秀。新入生合宿は、全魔装士官学院九校での合同合宿。つまり、新入訓練生としては、日本一位と二位ってこと。山本には、勿体ないね』

『フン、貴様が副隊長など務めて見ろ。すぐ下にその一年二人が付く。おそらく並みなる正規魔装士官本職でも手が足りん逸材だ。貴様が扱うのは不可能だろう』

「くふぅっ!」

『いや、言われて驚くことじゃないと思うんだが僕は』

『ん、何も考えていない証明』

「だまらっしゃい(爺か俺)!」


 いいよいいよ。わかってない俺が悪いよ。

 でもさ、だからってそこまで露骨に、「だ、大丈夫なのか山本小隊。俺たちの方が心配になってきた」みたいな顔をするのやめてくれ。胸に来ちゃうからぁ!


「ん、ルーリィが副隊長なのは良かったもね。山本と違って、直上がルーリィなら」

「フン、振り回されることはないだろうな」


 にしても、流石はこの学院ですでに二年を過ごした皆さんだ。

 差し引き無しの客観的な評価は、聞いてて勉強になる。

 俺とはえっらい違いだ。


『山本が小隊長。トリスクトは、あの二人とお前との間のクッションとして副長の立場に立つ。何度か剣を交えたけど、彼女は相当な手練れ。きっと直下にあの二人がいても、きっと実力的逆転現象は怒らない。小隊内の秩序も保たれるだろう』


 あぁ、《主人公》ご明察。

 間にトリスクトさんをはさまず、ナルナイらのすぐ上に俺が立ったとしちゃ、そっこー下克上が起こりそ。


「は、はは、あっははは……」

『笑っている場合じゃない。トリスクト君が彼女たちとの面倒事を緩衝する。それは君が負うべき部下に対する責任や問題の多くを彼女が負担するということだ。本来あるべき小隊の形から逸脱している。隊長として、少しは危機感を覚えたまえ』

「……さーせん」


 ですよねー。

 《政治家》の言いたいことはわかりました。小隊統治ができてないってことですな。

 んなこた前々から、そんなことになるんじゃないかって思ってたよ!


『フン、第一回定期会合は、山本小隊への提言となりそうだな』


 やっぱりあれですね。新規小隊って、面倒くさい。

 そんな感想、死んでも目の前の三人に言えんけど。


『ん、そうだね。グレンバルドとストレーナス。ルーリィがいてなお、小隊に穴はあるし』

『正直穴が埋まったら埋まったで、山本小隊、手が付けられなくなりそうだけどな』


 話は変わる。

 《猫》が言及し、《主人公》が追随した内容に、言葉をうしなっちゃった。


『連携できていないように見受けられた。山本小隊の弱点だ』

『仲間割れはかろうじて起きてないみたいだが、トリスクト君と一年生で、スタンドプレーが目立つ』

『フン、いつまでも状況を野放しにしておかないことだ。三組全小隊に限っては、すでに対小隊同士の戦闘で貴様らの攻略法は掴んでいる』

「……あぁ、そこに関しては、そんな気がしてきた」


 トリスクトさんが俺の下にいて、ナルナイたちとの間にいる。

 小隊の統制体系が崩れることはない。が、小隊として十分に機能しているとも言い難い。


『競技会まで穴を残すことは俺が許さん』


 小隊が編成されてからおよそひと月。

 他のクラスは別として、うちの連中に限って言えば、はじめ数回、勝ちを奪えど、そこからビタリと、勝てなくなった。


『ん、二年と一年の総動員。グレンバルドとオルシークを崩す』

『僕たち隊長、副隊長三年生が、トリスクト君の行動を阻害する』

『だけどけっしてトリスクトを倒し切ろうと焦らないようにだな』

『フン、愚の骨頂に他ならん。なんだあの化け物は。下手すれば、一小隊三年から一年合わせ六,七人で掛かっても届かないんじゃないか?』


(ほんっとにコイツら、ウチのことよく見てるな。欠点も売りも)


『二人を無力化したのち、小隊三、二年のエース級で君に攻勢。残りの隊員で、トリスクト君からの援護を阻む』

『ん、模擬戦闘始早々、山本に攻め込むのだけは絶対に駄目だね』


 何となく、薄々感じてたことは、全部こいつらわかってやがった。


 俺が早々に攻め込まれると、スタンドプレーが目立つトリスクトさんも、一年生二人も、この一瞬だけは目的が共通化する。


 俺に迫る、脅威の排除。


 この時ばかりは、バチリと三人の動きはハマった。


 だから対山本小隊に関しては、少しずつ弱いところから、確実に戦力を削ぐ作戦をとる必要があるのだ。


 ちなみにだが、俺は模擬戦闘訓練時、何をやっているかというと、刻一刻と変わる状況に狼狽え、翻弄されているばかり。

 

 模擬訓練の勝敗を分ける大きな点は、小隊長の打倒。


 最初こそは密集体系で勝てていた。

 前をトリスクトさん。俺の両サイドを新入生が挟んで、三角形の形を維持しながら前進。

 そうして相手小隊にプレッシャーをかけ、協力アタッカーで押し切る。

 

 いまは相手側の遠距離攻撃で、中央の俺が防御、躱しているうちに陣形が崩れたところを狙われていた。

 え? 俺は戦わないのかって?


 戦ってないわけじゃない。でも、残念ながら俺は、他のような奴が持っているいわゆる特殊能力なんて……


 正直なところ、俺は隊長でありながら、脚を引っ張っていた。

 ていうか、時々思う。この小隊に、俺はいらないんじゃないかってな。


 戦力面だけを考えれば、トリスクトさんが小隊長で、一年生二人が続く形が、一番いいと思ってる。

 まぁそうなると、小隊戦の勝敗ルールから見て、彼女が押し負けるイメージがわかないからきないから、不公平か。


『……怒らないで聞いてくれるか山本?』

「お? どーした《主人こ》……もとい、刀坂」

『自分一人だけ、別の小隊に加わる……という考え方』

「おっと?」


 意外や意外。《主人公》がそれを言ってきた。

 何気アツい奴だから。「三人に追いつくべく努力をしないとな」なんて言いそうなものだが。


『俺たちがまだ一年生だったら話は変わったかもしれないが、卒業最終年も、すでに二ケ月が過ぎた。言いにくいことだけど、山本がいまから彼女たちに追いつくイメージがわかない』

「あ、なるほど。だよねっ!?」


 ナイスご指摘。

 ビシィっ! と両ひとさし指を向けてやった。


『フン。俺たちも、この提案は貴様にとり嬉しくないものと予想はしているが』

『ん、競技会も控えてる。戦力とするなら、統制効かない穴のある小隊より、不安を極力排除、個々の実力を自由に開放できる形の方が、ルーリィや一年生にとって吉』

『勘違いしないでくれたまえ。山本が小隊長として頼りになるならない、劣っている劣っていないで話してはいない。ただ、彼女たちは次元が違う』


 少し慌てた表情を浮かべた《政治家》。

 他の奴らの発言を総括するにあたって、気を使ってくれたのが分かった。


 (ここまで心配してくれちゃうかよ。ほんと良いクラスに配属されたもんだわ) 


 耳の痛い話ながら、クラスメートとして心配してくれる形だから、頭に留めやすかった。


 確かに俺は、他の隊員たちと圧倒的に力の差はあった。

 そしてそんな彼女たちは、それぞれ学院に入った目的もあるはず。ふがいない俺のせいで、活躍に制限がかかるってしまうのはしのびなかった。


 もし目の前の三人が、そこまで考えて会合の機会を設けてくれたのだとしたら。少しは真剣に考えなくてはならないな。


(今から別の小隊に俺が加わるか。そのための、根回しの場として、この会合があったとしたら……)


 いまの俺の力量、技能。他の四小隊で、生きるだろうか?


『……やれやれ、三島校は甘い』


 考えこもうとして、顎に手をやってぇ。

 黙ったのがよくなかった。


『配慮をしているんでしょうが。国民の生命を守る魔装士官の使命から考えれば、合理的かつシンプルに、客観的な評価から物事を判断すべき。例えばこの場合……』


 沈黙を切り裂く言葉を、こういった状況ではよく拾っちゃった。


『アルシオーネ・グレンバルドとナルナイ・ストレーナスの両名。および、ルーリィ・セラス・トリスクトは宝の持ち腐れだ……と、私ならこう言います』


 ちょっと陰湿さを感じる耳障りな声。

 嫌味な発言が実によく似合う雰囲気。


『おっと、交友を温めている中失礼。蛇塚重吾へびづかじゅうご。魔装士官東京基地第二情報局所属。階級は少佐で、今は兼任で、第一魔装士官学院の教頭を務めている者です』


 少しウェーブのかかった白髪。頬がこけた、気持ちの悪い笑顔を見せている眼鏡をかけた男が突然話に割り込んできた。


『名乗りが遅れました。士官第三学院三島校の者です。少佐殿ですか。この場にいて俺たちに声を掛けた。何か、御用でしょうか』


 反応したのが《主人公》。困惑した表情を見せてんなぁ。


 当然か。ここは静岡三島だぜ? 東京から新幹線で45分。鈍行なら1時間半かかる。

 結構なお偉いさんが、わざわざ三島くんだり来たとして、こんな街中のファミレス、しかもきっと取るに足らないであろう他校の、いまだ正規士官になっていない学生ごときに声を掛ける。


 意・味・不。


『君ではない。私は、そこの山本君に用がある』

「俺ですか?」

『ええ。一つ、協力をお願いしたいのです』


 お……い、どうしてそうなるのよ。


 言ったよね。俺なんて一訓練生。

 本職の、上の立場にとっては取るに足らない存在なの。

 食事をとりに来たなら別として、わざわざ俺に会うために、ここまで来たのかっての。


『単刀直入に言います。君を隊長とした小隊を、解散してほしい。そして彼女たち三人の、東京校への転入の説得を』

『……は?』

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