全キャラ好感フルカンスト! 記憶なくして若戻り!
キャトルミューティレート
4月 学院編入 クーデレクラスメートと甘々女教官
第1話 クーデレクラスメートと甘々女教官が痛すぎるっ!
「両者ともそこまでです!」
静寂が占める練武館を切り裂く、教官のハッキリとした声。
「……少しは動きを取り戻してきているようだが、それでもまだまだだね」
「くぅっ!」
尻もちをついた俺の鼻先三寸。
槍先をピタリと静止させた同級生の美少女に、何も言い返すことができなかった。
「いや、逆行した肉体年齢時の記憶しかもってない中、戦闘知識ゼロでこれほど動ける。細胞中に染み込んで……逆に思い知らされるよ。君がどんな道を歩んできたか」
「は?」
だが、明確に白黒はつき、勝者である彼女のほうが苦し気な顔を見せるから、眉がひそまっちゃうんだよねぇ。
「
「と、トリスクトさん?」
「トリスクトさん……か」
打ち負かした彼女。強さに反比例するように、誇るのは気高く、凛とした
白い素肌。サイドアップに束ねられた蒼い長髪。
同色の、サファイアのような瞳からじっと見つめられたなら、息を飲むしかない(身がもだえるぅっ!)。
『凄い……ね。ルーリィ』
『あぁ、三年次から学院に編入するのは珍しいが、そうなるだけのことはある』
『君たち、
たったいまの対人訓練について、クラスメートたちは好き放題評価してくれやがる。んなことぁどうだってよかった。
虹色のガラス玉(?)がぶら下がった左耳のイアリングを揺らし、トリスクトさんが尻もちをついた俺に、左薬指に銀色の指輪をはめた手を差し出してくれた。
ここまではいい。
なぜか、がっかり顔でため息をついていた。男として、美人の落胆程辛いものはないのだよっ!
「大丈夫ですか? 旦……一徹様。あ、血が出ています」
それが気になって仕方なくて、だから彼女を見やって(恥ずかしいから視線は合わさないけどね!)。
しかし、その間に入った人影によって視界はふさがれ、彼女の姿は隠れてしまった。
「フ、フランベルジュ教官?」
「フフン。シャリエールって呼んでください♪」
「ウヒッ!」
『『『『「ま゛!」』』』』
思わず、声を上げてしまう。
トリスクトさんやクラスメートたちが驚くのも無理はない。
右外腕に走った、訓練でついた生傷。
訓練を取り仕切るフランベルジュ教官が、おもむろに口をつけたからだった。
チュピ、チャピという音が、なんとも生々しい。
「い、
チュクチュクという音は、吸い立てる音。
くすぐったいのは、患部も地肌もお構いなしに、舌が
あの、舐めながらの上目遣い、やめてもらっていいですか?
教官に対し、訓練生としてあるまじき妄想が膨らんでしまいそうになってしょうがない。
「破傷風予防です♪」
フランベルジュ教官は、俺の傷口から唇を離すとゴクリと喉を鳴らし、ニコリと屈託なく笑って見せた。
最近の流行りか。同じく左耳に、トリスクトさんのものと似たイヤリングつけているのを、教官からの蠱惑的な瞳を見返すとき、見つけてしまった。
(破傷風予防って、そりゃ化膿しないよう菌を吸い出すのはわかるが。ゴクリってなんだよ。まさか飲み込んだんじゃ(汗))
「ここでは十分な治療ができませんね。一徹様、保健室にお連れします。もっと念入りに、本格的に、しっぽりと……」
「あの、フランベルジュ教官」
「だから一徹様、シャリエールと……」
「いや、それも含めて約束したでしょう?
そんなことを考えているのをよそに、フランベルジュ教官は次々と行動を起こしそうになった。
本来こういうことは生徒から言うべきじゃないだろうが、たしなめざるを得なかった。
「山本……君?」
「それです」
「山本君……あぁ、その立場による呼称は、まるで支配下に置いてるようで。って、何を考えているの私っ! 私は、支配されたいの!」
うん。
『あ、あのぅ。フランベルジュ教官。他にもケガ人が……』
「唾をつけておけば治ります」
『そ、そんなぁ』
(あ、しどい)
『諦めなさい。フランベルジュ教官の山本贔屓は、今に始まったことじゃないでしょ?』
『フン。時々、贔屓以上の何かを感じる気もするがな』
『そこは、突っ込んでは負けといいますか……』
(おいクラスメートども。好き勝手言わない。それも聞こえよがしに)
褐色の肌。後ろに束ねられた艶やかな黒い髪。この人以外には見たことのないバイオレットパープルの瞳。
そりゃ、エキゾチック美女であるフランベルジュ教官にここまで気を使ってもらって悪い気はしない。とはいえ少し度を越している。
なんというか、俺とその他への接し方に、大きな開きがあるというかぁ……
学院の性格が性格だから、この訓練にはクラス全員がこの練武館に集っていて、決して俺とトリスクトさんだけじゃないんだが。
(んな中で、こう差をつけられると……ヒィッ、集まる皆の視線が痛ひっ!)
「シャリエールっ!」
と、対人訓練の終了を知らせる宣言以上の声が張りあがり、思わず、身はすくんだ。
「貴女は一徹になんということを!」
「何のことでしょう。ルーリィ・トリスクト様?」
「腕の傷に、くちっ……口づけをっ!」
「別に構わないでしょう? 教官が、可愛い訓練生を心配して何が悪いのです?」
「やりすぎだと言っている!」
「私はそうは思いませんが。というより、減点されたいんですかルーリィ・トリスクト様。教官を呼び捨てとは」
「お……のれ……」
状況は、嫌な方に動く。
(ふ、二人とも。やめてぇ)
トリスクトさんとフランベルジュ教官の言い合いが始まってしまった。
『あぁ、また始まっちゃったわね。ホラ、しっかり止めてきなさい』
『お、俺が? どうしてなんだ』
『どうしてって、貴方がこのクラスのリーダーだからでしょ?』
『いつの間にかそんな役目になってるし。気が引けるんだが』
『でも、山本。助けてほしそうにこっちを見つめてきてるけど』
『なんというかこの件について、おいそれと外野は口出しできないというか……』
気が滅入る。こうなってしまうと、訓練が滞ってしまうんだ。
(お願い皆! 僕を見ないで! 僕は悪くないはず! いつも勝手に喧嘩が始まっちゃうの! っていうか俺が困ってるのわかってるなら、助け舟出してぇ!)
『触らぬ神に祟りなしだね』
(おいぃぃぃ!?)
男女かかわらずクラス全員、俺に視線を集めていた。
ある者は憐れむような眼。ある者は不機嫌そうに。またある者は、疲れたような顔で。
すぐさま視線が集まってしまうのは、二人の衝突が、今日までに幾たびも繰り返されてきたからだ。
なぜか、俺がらみで。
『僕の下衆の勘繰りかもだけど。山本って実は、二人となにかあったりするのかな』
『だとしたら最低だと思うけどちょっと考えにくいわね。容姿が釣り合ってなさすぎ。性格は、悪くないと思うのだけれど』
『あぁ。編入してきて二、三週間。俺も悪い奴ではないと思う』
「ハハ、アハハ、アハハハハ……シクシク」
ねぇ待って他の奴らも。どう考えても冷静に観察、考察する状況じゃないでしょ。
怪我の患部に教官が、それもゴイスーな美人が口付けるはずないよね。
おかしいよね。普通、突っ込むよねそこ!
もう、笑うしかねぇわ。泣きたくなってしょうがねぇ。
状況を見守るクラスメートじゃ打開するのは無理そうだ。だったら、何度も勃発している二人の争いの原因を俺が突き止めるべきか?
できたら苦労しないんすよ。
俺だって、二人がここまで働きかけてくる理由、思い当たらないもの。
仕方ないじゃんよ。俺には記憶がないの。お分かり!?
いつだったか。目覚めたら、俺の中の記憶よくわからないことになってたの。
いわゆる記憶喪失ってやつなんだが、一風変わっていて……
でもね、その残ってる記憶とか経験は、全部自分とは関係がないものだって、お世話になってる親戚の姉ちゃんに言われていた。
困っちゃうよねぇ。ただでさえ記憶がない。残っている記憶は俺の物じゃないってことだし、その記憶にすら、
なのに、三回生として編入した第三魔装士官学院で、同じ日に編入したトリスクトさんも、この学校で教官しているフランベルジュ教官も、俺のことを知っていた。
何かしらで繋がりはあったようで。だから気にかけてくれるんだが。
うん、俺はただの士官学院三年の訓練生だぜ?
できれば如才なく、つつがなく、クラス皆と仲良く宜しく学校生活を過ごしたいじゃねぇか。
そういうわけで、目覚めてからの新たな
キラキラネームも真っ青。ゴリゴリな漢字使われた個性MAX家名ばかりのこのクラスに、ありきたりネーム山本の俺が編入したときはビックリしたよ。
とんでもねぇ。
目下の問題はルーリィ・セラス・トリスクト(正式名)と、シャリエール・オー・フランベルジュだよ! 横文字ネームかよ!
新学期が始まるのにあわせ編入してからの三週間。
俺の中で、ゴリゴリ漢字ネームたちがモブにすら思えてくるほど、横文字ネーム二人の存在感はあまりに強すぎた。
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