第25話 袂別
「死ねー!」
「ちょっ!? まっ!? なんなの、
喚きながらも
が、挫けず少年は一撃必殺と呼ぶに相応しい技を、惜しげもなく披露し続ける。
まあ、その右手の
なんとも因縁めいた出会いだが、しかし、偶然ではなかった。
ガラッハは
「いつの間にか恨まれてる!? どうして、ボクが!? 納得いかない!?」
……おそらく最初から最後まで、全てが少年の心を逆撫でしている。公平に考えて、どこまでも自業自得だ。
「煩い! 自分の心に聞いてみろ! そして死ね!」
だが、その定型ともいえる罵りに、なぜか
「えっ……まさか……見られて!? でも、少ししか――いや、けっこう
「あーっ! もうっ! また分からないことを! どこまでも人を馬鹿に!」
ガラッハは地団駄を踏まんばかりに悔しがるが、それでも最後には堪える。
「とにかく! お前の仲間は――よ、
なぜ
しかし、それはそれとして彼の中では、二人を保護したことになってるらしかった。
「えっ? 二人ともGI達と一緒なの!? どうして!?」
だが、
さすがに面を食らうけれど、また不機嫌そうにガラッハの口を尖らせ始めのを見て――
「よし、
と走り出した。
……面倒臭くなったのだろう。おそらくガラッハの憤慨は妥当だ。
そんなニアミスが起きている間にも、ナチスの男達は窮地へ追い込まれていた。
辛うじて拮抗させていたところへ、米兵達だけ攻勢を強めている。……もう残弾数に不安はないと言わんばかりだ!
嵩にかかったような猛攻は、まだ命中はしていなくとも……ナチス側の反撃を抑制していた。
だが、反撃しなければ、さらに有利な態勢をとられての攻撃は続く。
それだけはと牽制を試みれば……いずは被弾してしまう。
相手を撃つということは、自分も撃たれるかもしれないということで……結局は、引き金を引く指と回数の多い方が勝つ。
ウンターホーズは劣勢を目の前に、黙って唇を噛みしめる。
おそらく米兵達は、弾薬の補給を成功させた。
なぜなら直前に、後方からの合流を許してしまっている。……あれは奇襲に横槍を入れてきた別動隊だろう。
いや、そもそも敵は分隊でなく、人員を補強した増強分隊だった。
それを見誤ったのが、全ての原因か?
間違った前提――特に敵脅威の過小評価は、敗北を呼び込みかねない。
……違う。
もはや敗れつつある。
彼の心の中で、どこまで言語化されたか余人には知れない。しかし、その結論へ達したことだけは、疑いようもなかった。
苦悩する彼を現実へ引き戻すかのように、押し殺した呻き声が上がる。
ついに被弾者が出てしまったのだ!
「……平気です! 掠っただけでさぁ!」
心配させまいとナチス兵は強がるが、けっして浅い傷には見えない。
戦場に理解する者は
もうタイムリミットは迫っていて、彼らの敗北は必至だったのだが――
「レンデンシュルツ少尉! 潮時です。撤収しましょう」
ギリギリのところでウンターホーズは、決断を下せていた。……歴戦の賜物だろう。
「そ、そうなのか!? い、いや……軍曹が
「もう選択肢は多く残ってやいません。自分が残って陽動します」
大したことではないかのようにウンターホーズは口にした。
しかし、それは自ら捨て石になるという意思表示であり、覚悟を決めたという証拠だ。
「ウンターホーズ軍曹! そのような役は……それは自分らが!」
「馬鹿なことをいうな! 貴様には、家族が残っているだろうが! それに比べて自分は、結婚などという下らん習慣と無縁だったからな。悲しむ奴など居りはせん。それに貴様らでは、俺の相棒を扱えんだろう」
そういって大男は、不敵に笑って愛用の重機関銃を撫でる。
「だ、駄目だぞ! このような作戦、認める訳にはいかない! 我々には軍曹が……僕には軍曹の助けがいるんだ!」
レンデンシュルツの泣き顔から背けるようにウンターホーズは言い捨てる。
「おい、お前ら! 俺のことを……命が惜しくて自分の指揮官も守り通せなかった卑怯者とするつもりか! さあ、少尉の撤退をお助けしろ!
レンデンシュルツ少尉……学のない俺には、この任務の重要性は理解できませんでしたが……俺達には――『スメルトリウス』には貴方が必要なんです。正しく導いてくれる指揮官が!」
ナチス兵士から羽交い絞めにされたレンデンシュルツは、溢れる涙を拭うことすらできなかった。
いや、そのレンデンシュルツを抑えるナチス兵士ですら涙ぐんでいる。
「
「
そうして撤退戦は開始された。
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