第18話 扉
その扉はこともなく現れた。
通路を進んでいたら丁字路が突き当たる部分の壁へ、何の前触れもなくだ。
「おかしくない、ミツヨ?」
「……なにが?」
「同じところをグルグルと回っていた……のよね? でも、こんな扉なんてなかった。いつのまにか新しい地下道へ来ていたの?」
「違うよ。やっぱりボクらは同じ場所をグルグルと回ってた。この丁字路だって、数回は通り過ぎてる」
「じゃあ、その……不思議な力で扉が作られたってこと?」
「それも違う。たぶん、最初から扉はここにあったんだ。なのにボクらは、何度も見過ごしちゃったんだよ」
納得のいかないゼニヤッタは、反論するべく口を開きかけては閉じ、また何か言いかけては止め……最後には諦めて溜息を吐いた。
「……そういうルールなのよね。OK。考えるのは後にしましょう。それで……どうするの? 開けてみる?」
しかし、
「ボクの経験上、扉はヤバい場合がある。でも、ここまで
「危険って――ブービートラップみたいな場合もあるってこと!?」
「厄介な予感はしないけど、可能性は否定できないよ」
「……貴女は決定的な変更を後回しにして、まず選択肢を網羅しようとした。それは私も合理的と思ったわ」
ゼニヤッタの妙な言い回しを、
「もったいぶってるね。なにが言いたいの?」
「まず同じように他の扉が出現――というか、私達が発見できるか試すべきじゃない?」
「ああ、その可能性もあるのか。
しかし、それでは開けるか諦めるかの二択なままだ。
「『誰なら来れるか』というのは?」
「あの坊やとかボクみたいな
渋々にゼニヤッタは肯く。……情報の出し惜しみをしてたら、大魚を逃しかねない状況だ。
「偶然に辿り着けたとしても、普通なら――日本人なら注連縄や入り口がないことにビックリして逃げ帰る。もし禁を侵したとしても、あの甲州金に満足するだろうね。またボクみたいな
そこで
「ねえ、どうやって
「……私たちは――
「収集もでしょ?」
「……ええ、収集もしているわ。さらにいうのであれば消極的な実践――対抗手段の研究もね」
わざとらしく
「続けるわよ? そして文献を中心とした調査チームは、全てを開始するにあたり、まず歴史上の
納得の肯きをしかけた
「じゃあ
さらにダメ元とばかりに鎌をかけるも、さすがにゼニヤッタは無表情で通し――
「そうだ、ミツヨ! 貴女、エージェントにならない? それで情報にアクセスも可能となるし……貴女の能力は、きっと高く評価されるはずよ! 私も推薦するし!」
逆攻勢まで仕掛けだす。相手の方が上手といえた。
「え、遠慮しとくよ。飼い主を持つのも悪くはないけど、繋がれるのは……ちょっとね。やっぱり放し飼いにしてくれないと」
「待遇だけでも聞いてからの方が……望むのなら
大きく脱線しはじめた話を、
「とにかく! 部外者では、まず無理っぽいね。なんたって地下道を突破できない。幸運にも井戸を発見したボクみたいな
「なぜ製作者も? ミツヨみたいな異能があるから?」
「ボクたちと同じ道順でくれば良いんだよ。メモか何かに書き留めておいて、それに従って進むのさ」
しかし、説明されたゼニヤッタは不満そうだ。なにか夢を壊された人の顔をしている。
「うん、ここまで来たら罠はない。十中八九、なんの問題もない……と思う」
「……ちなみに十中
「その時は価値ある隠されていた御宝というより……ろくでもない理由で封印されていた『何か』と、ご対面だね。……運が良ければ」
「運が悪かったら?」
「多分、二人ともお陀仏だと思う」
「……本気で開けるつもり?」
「ここまできて、なぜ開けないんだい?」
しばしコイントスで揉めたものの、
各々が扉の左右へと――中からは死角となるように壁へ張り付く。
伸ばした左手で
「……やっぱり鍵かかってない。ただ押せば開きそう。準備は良い?」
言いながらも
ゼニヤッタも銃身を切り詰めた三十八口径のリボルバー――コルト・ディテクティブスペシャルを構えた。
そのまま
勢いよく扉を押し開ける!
しかし、戦争映画のアクションシーンのように、二人とも突撃はしない。必要ないどころか、逆に危険だからだ。
「何か変なもの見えたりしない?」
「……たとえば?」
「半透明の幽霊だとか……ピンク色の象だとか」
「……それ、ジョーク?」
「まさか。超まじめにだよ。そういうのなら封印に値するでしょ?」
答えながらも
地下道側に異変はなかった。開けたと同時に矢などが飛んできたりもしなかったし、ガスなどの異臭も無い。
扉の内側は部屋になっていて、パッと見で狭いと判る。ここで終点なのだろうか?
部屋の中央には何やらあるも、とりあえず人影などは見当たらない。
少なくとも鎧武者が座ってたりはしなかったようだ。まずは一安心だろう。
とにかく異音が全くしなかったのは心強い。
……もし扉を開けたと同時に音がしてたら、それは間違いなく危険信号だ。
が、それはゆっくりと行われた。
まるで部屋の中が熱すぎる風呂であるかのように、二人はジリジリと歩を進める。
その間も
……予想よりも数段は狭いだろうか?
三畳間あるかどうかの広さしかなかった。二人が入ったら満員にも近い。
中央には一人用の机程度な大きさの四角い石。その上に薄い木箱があるっきりだ。
「ミツヨ! 灯りを寄越して! 何かあるわ!」
「……ちょっと待って。はい、返すよ」
応じながらも
この瞬間、二人が別々ものへ注目していたのは、それこそキャリアによるものだろう。
ゼニヤッタは平凡に石の机へ気を取られ……逆に
扉というものは通過した瞬間、違う脅威を内包する。
例えば二人の現状であれば、勝手に閉まるだけで必殺の罠へと早変わりだ。
もう習慣の手順とばかりに
また押戸は必ず扉による死角が生まれ、そこへ仕込まれると対処が非常に困難だ。先に確認だけでもするべきだった。……危険人物などは潜んでいないと。
「……何かしら? 宝箱……にしては平べったすぎない?」
外国人であるゼニヤッタは首を捻るばかりだったが……やっと確認作業を終えて振り返った
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