通り魔
egochann
第1話
清美はいつもより5分家を出るのが遅かった。
自宅マンションの三階から階段を駆け下りた。
駅までのバスの停留所まで早足で3分だったから、思いっきり駆けた。
春もまだ浅い、肌寒い朝。
息を吐くと白い空気が出てくるような陽気。
バス停にはもう十人ほどが並んでいた。いつものメンバーとは違う。サラリーマンが多くなっている。いつも乗るバスは学生が目立つが、たった一本遅いだけでこんなに顔ぶれが違うとは少し意外だった。
バスは10分間隔で、住宅街を回り、最寄駅まで通勤通学客を乗せて走る。清美のいつも乗るバス停から駅まで約十三分。それから、電車を乗り継いで会社まで三十分。だが、今日は10分遅れているので、果たしていつもの出勤時間に間に合うかどうか分からない。「昨日、飲みすぎたのよ、気分が悪いわ」そう心のなかでつぶやきながら、並んでいる人たちの最後に付いた。
遠くのほうにバスが見えてきた。そのバスに乗る人の列が縮まる。清美も前の人との間隔を詰めた。そのとき、背後からゴツンとぶつかった人がいたのを感じた。痛いというより、もぞっとしたというか、何か洋服のなかに暖かいものを差し入れられたような感触がした。あれっ、と思いながら滑り込んできたバスに乗る列が動いているとき、清美の後ろに来た人が口を開いた。
「あなたの背中に血が付いていますよ」
清美は、後ろを向いてその人を見た。サラリーマンの男だった。驚いたというより、不審な目をしていた。振り向いてから視線を下げるとそこには白いシャツが赤く染まっているのが見えた。
「あっ、わたし・・・」清美は意識を失ってその場に崩れ落ちた。
世田谷南署の刑事小山田六郎は、不機嫌な朝を迎えていた。
昨晩、妻の亜佐美と派手なけんかをしてしまったからだ。けんかの原因はいつも同じ。亜佐美のだらしなさだ。料理は何とか出来るものの、掃除洗濯がまったくだめ。小山田がその日に着ていくワイシャツの洗濯が間に合わず、仕方なく新品を下ろさざるおえなかったことに小山田が切れたのである。
「お前なんかと結婚した俺が馬鹿だった」
「だったらさっさと別れなさいよ。でも出来ないでしょ。上司の印象が悪くなって警部に昇進できなくなるしね」
そんな言い争いは毎日のことだったのであまり気にしていないが、何故か今朝は違う気分が襲っていた。そういう日は大きな事件が起きるがある。所轄に配属されてやがて二十年。刑事としての勘が出始めた頃だ。
くさくさする気分で所轄の門を入る。所属する刑事課はもう若い連中が仕事を始めていた。そのときだった。スピーカーからの声が署内に響いた。
「南署管轄圏内で、通り魔事件が発生。機捜が現場に急行中。各所は現場に急行してください」
刑事課は煮えたぎる鍋のような状態になった。
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