魔法が解ける
綿麻きぬ
3秒前
僕は3分後に魔法を解かなければならない。僕が僕自身にかけた魔法を。
最初は君を守るために魔法をかけた。それはいつからか僕を守るための魔法になっていた。
君との出会いは突然だった。僕が困っているときに君が手を差し伸べてくれた。たったそれだけだ。
でも、それは世界が変わった瞬間だった。毎日同じところにいる僕は動きたくても動けない。
そんなとき、魔法を授けられた。一生で一度だけ自分の目的を達成させるために使える魔法。目的を達成した3分後に魔法を自分で解かなければならない。
もしこれを破ったら、どうなるかなんて僕には分らない。死ぬのかもしれない、存在が消えるのかもしれない、大事な人を失うのかもしれない、想像なんてつかない。
そんな魔法を何に使うかで迷っている毎日の中、君は僕に会いに来る。一日たりとも休まずに。
何もできない無力な僕に毎日、話かけてくれた。そんなとき、君がポロリと言った言葉を覚えているかい?
「あなたが人間だったらよかったのに。誰か私の傍にいて。ずっとずっと私を愛していてほしい」
君にとってはポロリと言った言葉なのかもしれない。だけど、それは魔法を使う決断をさせてくれた。
僕は自分に人間になる魔法をかけた。目的は「君が僕に愛されていると感じる」こと。
どうしてそんな目的にしたかと言うと、君が一つの病を患っているからだ。
そんな君を救ってあげたかった。僕が君に救われたように。
でも、この僕の話には矛盾がある。君の患っている病では僕の目的が達成したら君は消えてしまう。つまり、僕の目的が達成したら僕も君も消えてしまう。
これは僕の勝手だ。君と一緒に過ごせたら、君と一緒に消えられたら。
そんな願いで僕は自分に魔法をかけた。
こんなことを考えていたからだろうか。僕の顔は険しかったらしい。君は僕に話かける
「ねぇねぇ、どうしたの? 険しい顔をして」
僕は秘密を言いだそうと、でも言い出せなくて。
「う、うん、ちょっとね」
そんな僕を見てか、君はそっと僕の手を握る。君の温もりが心地よくてずっとこのまま時が止まってしまえばいいのに。そんなことを思ったってタイムリミットは近づいてくる。
「あのさ、君は......」
そこまで言って僕は声が出なかった。
「大丈夫、なにも言わなくて」
君の声はやけに落ち着いていて、すべてを知っているようなそんな声だった。
「でも」
僕は時間が迫ってくることに焦りを感じて、反論しようとした。
「大丈夫、何も考えなくていいから」
君は握っていた手をより強く握る。僕はその手を強く握り返す。
「私ね、あなたに感謝してるの。あなたに出会えたことに」
もう時間はない。魔法を解くか、解かないか。
「あのさ」
なんとか言葉を出そうとするも出てこない。
「ねぇ、このままでいてくれない?」
君は僕にそっと声をかけた。そういって、君は僕の唇に自分の唇を押しあてた。柔らかくて、温かくて。
時間は残り僅か。
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魔法が解ける 綿麻きぬ @wataasa_kinu
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