第42話 紹介しなさい

佐倉と少し喧嘩のような状態になっている。

理由は、俺がいつまで経ってもMAX君を紹介しないからだ。

適当に誤魔化しているうちに、MAX君は筋肉ムキムキの大男という設定になっているのだが、筋肉じゃなくて海綿体だとは今さら言えない。


「そんなに仲がいいの」

「仲がいいっていうか、一心同体っていうか」

時々、意に反して自己主張するけど。

「そんな人を紹介しないって、じゃあ私は何なの?」

紹介していいですか?

いや、下手すりゃMAX君が折られる。

まだションボリ君の方がマシだろう。

「美由紀にはまだ早いよ」

俺は優しく諭すように言った。

正に紳士の振る舞いであった。

だが佐倉には、それが癇に障ったようだ。

「まだ早いって何よ! あなたの中で私の位置付けってそんなものなの!?」

「いや、ちょっと落ち着け」

「明梨ちゃんとは随分と親しくしてるみたいなのに!」

「アイツだって挨拶したことがあるくらいだ」

「だったら私にだって挨拶させてくれてもいいでしょう? ずっとあなたのことを調べてきたのに、影も見当たらないなんて我慢ならないわ」

影が見えてたら、それはもはや露出狂だ。

ここは、ちゃんと説明した方がいいな。

「いいか美由紀」

「何よ」

「例えば俺にとって凄く大事な親戚がいたとして、明梨は当然その親戚とは挨拶するけど、美由紀がその人にいきなり会わせろっていうのは、少しおかしな話だろ?」

ちゃんと説明と言うより、誤魔化しだけど。

「そりゃあそうだけど……」

よし、納得させることが出来た。

「でも、親戚とは違うんでしょう?」

「ん、あ、ああ」

「それに明梨ちゃん、今朝も挨拶したって言ってたわ」

明梨のヤツ……。

「まさか同居人がいるの?」

「同居人というかですね、同一人物といいますか」

「どういうことなの?」

佐倉の顔に、やや心配そうなものが混じる。

きっとコイツの中で、二重人格とか大層な設定が構築されているところなのだろう。

「ぶっちゃけ、息子のことなんだけど」

「息子!?」

驚くと同時に佐倉は鞄の中をまさぐり始める。

おいおい、何を探しているんだ。

「あれ? カッターどこに仕舞ったかしら?」

「勘違いするな! 息子というのは隠語みたいなものでだな」

「隠語? 何を意味しているの?」

「いわゆるその、男性器のことであります」

「……」

佐倉は固まる。

思考がフリーズしているようだ。

だが、ここで安心してはいけない。

佐倉が、「やだもう!」なんて頬を赤らめて終わり、という未来なんて、俺には描けなかったんだ。

「ちょっと」

来た。

「はい」

俺は敬語にならざるを得ない。

いや、さっきから既に敬語だけど。

「あなたの妹が、あなたの、その、だ、男性器に挨拶するって、どういうこと?」

「お、男には、朝、目覚める頃に男性器がMAX状態になるという生理現象がありまして」

「聞いたことがあるわ。苛立ち、だったかしら」

「いや、苛立ちは抑えていただいてですね」

「それとも腹立ち?」

「美由紀、頼むから聞いてくれ」

「この世からの、旅立ち?」

「あいつは面白がって、美由紀を挑発してるだけなんだ。それに乗せられないでくれ!」

「……家族だから、そういった現象を目にすることはあるでしょう」

「そ、そうなんだよ。それをあいつは自慢してるだけで──」

「今後一切、眠っている間の妹の侵入は阻止しなさい」

「え、でも、俺の部屋、襖……」

「つっかえ棒をすればいいでしょう?」

「了解であります!」

……それで何とか許してもらえた。

その後、佐倉は真っ赤な顔をしていたけれど。


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