第40話 石田の事情 1

「最近、どうも石田の元気が無いようなんだが」

「そのようね」

佐倉も気付いていたみたいだ。

「俺なんかが遊びに誘っても良くないかなぁ」

「良くないことは無いけど、良くないわ」

「何が言いたい?」

「私達が付き合いだしてからでしょう? 彼の元気がなくなったのって」

そう言われればそんな気がする。

掃除中もあまり話し掛けてこなくなったし……。

「アイツ、佐倉のこと好きだったのか」

だとしたら、俺とはもう話したくないのかも知れない。

「彼が私を好きってことは無いわ。どちらかと言えば、苦手意識があるんじゃない?」

確かに以前、苦手だとは言ってたけど、好きだから苦手ってこともあるしなぁ。

「彼、ゲイだから」

「え?」

「彼はゲイだから私を恋愛対象として見てないってこと」

「どうしてお前がそんなこと知ってんだ?」

「だって私、彼と中学が同じだったもの」

「いや、中学が同じでも、普通はそんな事情知らんだろ」

俺は、過去に佐倉と石田の間に、何か深い関係でもあったのかと少し不安になる。

「私、前に彼の優しさも顔も成績も中途半端って言ったわよね?」

「ああ」

「優しさはともかく、誠実さは中途半端では無いと認めてるの」

優しさと誠実さの違いが曖昧な気もするが、それが何だと言うのだろう?

「中学の時、彼にしつこく交際を迫る女子がいたの」

「まあ、アイツならモテただろうな」

「で、彼は断っていたんだけど、あまりに熱心に訴え続けてくるものだから──」

「正直にゲイであると打ち明けた?」

「そう。それで、熱心に交際を迫ったクソみたいな女は周りに言いふらした」

「本当にクソだな」

俺は気分が悪くなった。

「じゃあ、アイツが前、電車通学じゃないって言ってたのも……」

「周りから色々言われて、登校拒否になって、見兼ねた親がこっちに引っ越したのよ。だから彼の家はこの高校の近く。同じ中学の生徒は私しかいないから私が苦手なのよ」

ブサイクは隠せない。

ある意味、ブサイクと宣伝しながら歩いているようなものだ。

だがゲイは隠せる。

隠さなきゃならない環境に問題があるとは言え、取り敢えず表向きだけは平穏を維持できる。

でも、隠して生きるということ自体が悩みでもあるのだろう。

いや、俺には判らないけど。

「で、話は戻るけど、私たちが付き合いだして彼の元気が無くなったってことは、判るわよね?」

「……まさか、俺を?」

「私も、ゲイの人は美男が好きっていう偏見があったし、私は嗜まないけどBLもその傾向が強いじゃない? それをこんな──このような?」

いや、そこを言い換えても後に続く言葉は一緒だからな?

「というか、意外と冷静ね」

「うーん、まあ何と言うか、もしそれがホントなら、結構嬉しいかな」

「え?」

「だって、誰であろうが自分のこと好きになってくれたら嬉しいじゃん。俺なんかは自分に自信が無いけど、そんな俺のどこかに魅力を感じてくれたってことだろ?」

「性的な目で見られたとしても?」

「それは男女であっても、生理的に受け付けない人に、そんな風に見られてることもあるわけで……。そりゃ、その嗜好を受け入れて行為に及ぶことは出来ないけど」

「……妄想が捗るわ」

コイツ、実はBL好きなんでは……。

まあ何にしろ、俺に出来ることは無いかなぁ。

早くいい彼氏でも見つけてもらいたいものだけど……。

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