酔いどれ勇者は、今日も千鳥足で魔王を追っています!

ふっくん◆CItYBDS.l2

プロローグ

 まずは自慢話から始めさせてくれ。




 この物語は、俺が如何に格好良く魔王を打ち倒したかという話につきるのだが、とりあえずそれは置いておく。




 今現在、胡坐をかく俺の太ももの上に、遊び人♀の頭が据わっている。


信じられないかもしれないが、とんでもない美少女だ。しかも金髪だ。幼く可愛らしい顔つきをしているが違法な年齢ではない。どうだ、うらやましいだろう?




 正直に言おう、女の頭を膝に乗せるだなんて生まれて初めての体験だ。いま俺の鋼の精神は、恐慌状態へと陥っている。膝の上に乗った彼女の頭の重みが、熱が、その存在全てがそうさせている。泣き叫び、助けを乞いたいがそういうわけにもいかない。




 なに「初めて」は誰もが経験することだ、俺も世間からは勇者と称される存在なのだから。その名に恥じぬ勇気をもって事にあたろうではないか。




 先ずは触感から確かめてみよう。ふむ、どことなく柔らかいような気がする。気を付けないと、ほんの僅かな力を籠めただけでも砕けてしまいそうだ。頭には、生物が生きていくうえで重要な機関が詰まっていると聞く、砕いてしまっては一大事だ。




 では、砕いてしまわないように細心の注意を払い、今度は遊び人の頭をなでてみることとしよう。




 綺麗な髪が、絡まることなく指の間をスルリと落ちる。




 驚いた。女の髪の毛ってのは、こんなに柔らかく艶めいているものなのか。まるで上質な絹織物のようじゃないか。俺は、試しに自分の髪を触ってみる。ごわごわしていて、タワシみたいな硬さを持っていた。段違いじゃないか……。




 俺の頭でなら、銀の皿を鏡みたいにピカピカに磨き上げることができるかもしれん。とは言ったものの、そんなことは到底できるはずもない。そんなことできるのは、巨大なゴレムぐらいだろうさ。俺の体を持ち手にして、ごしごしと皿に押し付けるのだ。もしくは屈強な男たちが数人がかりで俺の体を持ち上げるのもいい。いや、俺はごめんだが。




 では現在、俺の膝の上に据わっている彼女の頭なら、どうだろうか?


 その髪に、劣ることのなかった美しい胴体と切り離された。首から上だけで、俺の膝に据わっている彼女の頭なら。邪魔な胴体が切り離されている分、少なくとも俺の頭よりはずっと使いやすいはずだ。






 まったく、俺は何を馬鹿なことを考えているんだろう。




 我ながら正気では無かったようだ。これは、一種の錯乱状態に陥ってしまっているのだろう。




 だが広い心で許してほしい。なにせ胴から切り離された頭を膝に乗せて愛でているなんて、俺がいくら経験豊富な勇者であったとしても初体験なのは明らかだろう。






 さて、余談はこれくらいにして。そろそろ、物語の本筋に移ろうか。




 魔王を倒すべく世界を旅した、すなわち勇者である俺が。何故、このような状況に置かれているのか諸君に説明して差し上げようではないか。




 とは言うものの、何から説明したものか。剣と魔法で戦うことには慣れていても、語り部となるのは慣れていなくてね。




 それに、いつからか酒に酔うことができなくなったはずなのに。俺の頭の中は、まるで泥酔している時のように頭痛が響き渡り、思考が定まらないんだ。






 そうだな……タイトルは『酒と魔王と男と女』とでもしておこうか。






「彼女と初めて会ったのは、出会いと別れの季節。春だった」






 勇者が重い口を開くと同時に




 ぬるく、粘った液体が彼女の頭から滴り落ちた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る