第二夜 異世界に飛ばされた僕は探偵家業で食っていく~アレシボメッセージ④



 目が覚めた。戯れに天井の木目を数えてみる。薄暗いせいか、酔いのせいかはわからないが、ろくに数えることが出来なかった。



「夢か……」



 時計を見ると既に、夕暮れに差し迫っていた。まずいな、二人が旅館から出るところを写真に収めてやろうと思っていたんだが。僕はゆっくりと起き上がり、旅館のラウンジにフラフラと向かう。


 受付には、テレビのリモコンが座っていた。僕は、精いっぱいの笑顔をもって話しかける。



「なあ受付くん。昨晩は、隣の部屋のセロハンテープの喘ぎ声で全く寝れなかったよ。部屋を変えてくれないかい」



「ああ、彼らならもうチェックアウトしましたから、今晩はぐっすり眠れるでしょう」



 ああ、やはりやらかしてしまったようだ。完全に寝過ごしてしまった。だが、有能な探偵の僕にぬかりはない。写真がないならプランBを使うまでだ。……まあ待ってくれ、いまプランBを考えるから。



「ああ、そうだこんな時こそ相棒を頼ろう」



 僕は、部屋に戻り冷たい板張りの床で涼んでいるシュレディンガーに近寄る。目線をあわせるために、僕もシュレと同じように腹ばいになる。



「おい、相棒出番だぞ。知恵をだせ」



「にゃあ?」



「おりゃあー、こちょこちょこちょ」



 シュレは、僕のくすぐり攻撃に対抗するようにその肉球でパンチを繰り出してくる。



「うわーやられたー」



 僕は、精いっぱいの演技力を使って死んだふりをする。するとシュレは僕のことを心配するように近寄ってきて、僕の頭をポムポム叩きだした。


 カチャっと音がした。どうやら、僕の頭であるラジカセの開閉スイッチをシュレディンガーが押してしまったらしい。



「そうだ、そういえば昨日のセロハンテープの喘ぎ声を録音しておいたんだった。おいシュレ、お手柄だぞ」



 僕はシュレの頭を人撫でして、僕の頭に内蔵されたカセットを取り出した。こいつを渡せば、仕事も完了だ。おっと、ラベルに名前を書いておかなくちゃな、じゃないと他の誰かの喘ぎ声と混ざってしまったら大変だ。


 サインペンを片手にカセットを裏返す。



「……なんだこれ」



 カセットのラベルには、既にタイトルがふられていた。間違いなく僕の字だ。でも僕には、その記憶がない。いったいいつから、このカセットテープは僕の中にあったんだ。



 そのカセットテープにふられたタイトルは「アレシボメッセージ」。僕は既に、僕の愛を受け取っていたのだ。


 

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