第3話
「そういえば、僧侶って上級蘇生魔法グレートリソシテーションも使えるのよね?」
「ええ、使えますよ」
魔法使いの不意な問いかけに、僧侶がにっこりとほほ笑んだ。
対する、俺と戦士は驚きの表情を隠せない。
「僧侶、君は上級蘇生魔法まで習得していたのか!?」
「え、リソシテーションって上位魔法があるのか?」
残念なことに、驚いている内容までは一致しなかった。
「どう変わるんだ。上級なんて言うぐらいだから、蘇ったうえにパワーアップするとか?」
「そうに違いない。死を乗り越えてパワーアップするのは世の常だもんな。よし、早速死んでみるから魔法をかけてくれ!」
魔法使いが、阿呆の阿呆っぷりに口をあんぐりと開けて呆れている。
気持ちはわかるが、お前の顔もなかなかの阿呆っぷりだぞ。とは口に出しては言わない。
最近の俺は、わずかながらのデリカシーを習得しているのだ。
「特にパワーアップをしたりはしませんよ」
僧侶が、母が子に為すよう、優しく諭す。
「リソシテーションは、上級蘇生魔法と違い必ずしも成功するわけではないんですよ」
そう、リソシテーションは世間一般に完成された魔法とは考えられていない。
それは、その習得の難しさもさることながら、何より発動時の蘇生成功率の低さにある。
逆に言えば、死を克服するということはそれだけ困難を極めるということにも繋がっている。
上級蘇生魔法グレートリソシテーションは、その弱点を補って開発された魔法だ。
つまるところネックの一つであった、蘇生成功率の低さを更に膨大な魔力を消費することによって飛躍的に高めたのだ。
残念なことに、その習得の難しさは更に跳ね上がっているのであるが。
「……そういえば、僧侶が蘇生に失敗してるの見たことないわね」
魔法使いの言う通りであった。
皆が、今この時まで彼女が上級蘇生魔法を扱えることを知らなかったことから鑑みても。
彼女は、これまで下級の魔法で蘇生を行ってきたことは疑いようがない。
しかし、俺も含め誰一人として、その失敗を目にしたことがないのだ。
「まあ術師の腕がいいんです」
僧侶が照れくさそうに笑う。
「それに、実のところ上級蘇生魔法ってあんまり好きではないんです」
「ん、なんでよ?」
「上級蘇生魔法って、習得するのに労力が掛かるんですけど。覚えてしまえば、ほぼ確実に蘇生に成功するわけじゃないですか」
「まあ、そうだな」
「そこには術師の技術が、介在していないんですよね。なんて言うか、そこに達成感なくて……」
「ふーん、なるほどね」
僧侶の気持ちは痛いほどよくわかる。
俺もかつて、魔法に関して勉強をしたことがある。
そんな時、術の発動と同時に相手の息の根を確実に止める即死魔法なるものが存在することを知った。
なんだかズルみたいだな。それが俺の感想だった。
だが、魔王を追い詰めつつある現在の俺たちにとって、僧侶の考えは許容できるものでは無かった。
俺たちは、自分の身を省みず戦い続けてきた。
それは何より、人々の、世界の平和を望んでのことだ。
例え、僧侶の考えに抗うことであろうと勇者としての使命がそれを許さなかった。
「僧侶の気持ちはわかる。だが、習得しているのであれば話は別だ。」
「今後は、上級蘇生魔法を使うようにしてくれ」
僧侶の表情に、陰りが見える。
「し、しかし勇者様。上級蘇生魔法は必要な魔力が多いですし……」
必死の抗弁ではあるが、歯切れが悪い。
彼女自身も、俺が言っていることのほうが正しいとわかっているのだ。
「俺たちは、やっと魔王の首に手が届く所までたどり着いたんだ。いくら僧侶が腕に自信をもっていようが、蘇生魔法の成功率は100%ではない」
「魔王との戦いは、何が起こるかわからない。変動要素は、可能な限り少なくしておきたいんだ。頼むよ……」
説き伏せるつもりだった、だがその言葉尻は懇願に近いものとなってしまっていた。
彼女の悲しそうな顔など見たくはない。だが、そんな余裕が言ってられないほど魔王が強大な力を持つことは明らかなのだ。
「わかりました……!」
そんな、俺の気持ちを察してか。彼女は異存ないことを笑顔でもって精いっぱい示してくれた。
彼女はわかってくれている。心が通じ合っているという事実が、俺に安堵を与えてくれる。
この戦いが終わったら、俺は彼女に思いのたけを全部吐き出すつもりだ。
彼女は、それを受け止めてくれるだろうか。
危険な匂いのする、決意を胸に秘め。
俺は、長く苦しい旅を共にしてきた仲間たちにあらん限りの声で号令をかける。
「 よし!それじゃあ魔王城へ出発だ! 」
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