第10爆弾 ボンバーストレンジ(後半)

 ボムとアーティは灰色山の中腹に来ていた。

 山の標高は2000メートル級で、少し空気が薄くなってきている。


 ボムは若干苦しそうだが、普段から博士に色々な場所に行かされていて、顔には出ない。

 一方アーティも大丈夫そうだ。


 今は、一本の木が生えた場所に2人並んで座って休憩している。

 ボムは水筒に入った水を飲み、アーティに渡した。

 アーティは水筒の水を飲むと、ほっ、と息を吐いた。


「多分もうちょっとでいると思うよ!タイニードラゴ。アーティは全然疲れてないよね。ごめんね休憩して」

「大丈夫!ボムのペースでいいよ!ゆっくり行こっ」


 少し休憩すると2人は再び歩き出した。


「ねえねえ、ボムはこういう場所いっぱい行ってきたんだよね。この灰色山だっけ、ここは大変?」

「うーん…前に氷山とか行ったけど…同じくらいかな。可もなく不可もなくだね。トレーニングになるよ!」


 そう言ってボムは一歩ずつ足を踏みしめた。


「すごいね!ボムは。最強の14歳だね!」

「それは言いすぎだよ…それじゃあわたしが、筋肉マッチョみたいじゃん」

「それもそうだね――」

「――シッ!」


 突然ボムが口に人差し指を当てて、アーティに黙るようにジェスチャーした。


 少し離れた所から、鹿のケーンケーンという鳴き声のような音が聞こえてきた。

 タイニードラゴが会話している声だった。


 ボムが岩場の陰からこっそり覗くと、タイニードラゴの群れがいた。

 数は6体、大人のタイニードラゴが3体と子供のタイニードラゴが3体である。


「行くよアーティ!」


 ボムはリュックから爆弾を取り出しアーティに声をかけた。

 しかしアーティは前を向いたまま動かない。


「アーティ?」


 ボムがもう一度声をかけると、アーティは目をつぶり腕を伸ばしたまま、手を輪っかにした。爆撃拳の構えだ。


 手を心臓辺りに近づけるとアーティが光った。

 一瞬ではなく持続している。


 アーティは目を開け、「爆撃拳―壱の型…」と言いながらタイニードラゴの群れに突っ込んで行った。


「ちょっ…アーティ!?」


 タイニードラゴは、アーティが走って来たことに気付くとと騒ぎ出した。

 アーティは大人のタイニードラゴ1体に狙いを定めると、強力な突きを繰り出した。


「連続パーンチ!」


 強力な突きはタイニードラゴの腹に何発も命中した。

 そしてタイニードラゴが動かなくなると、腹に腕を突っ込み、緑色の丸い玉のようなものを採り出した。それが核である。


 核を地面に置き、次にアーティは子供のタイニードラゴ2体に狙いを定めた。

 風のように走り、続け様に子供のタイニードラゴの腹に腕を突っ込み、核を採り出した。

 子供のタイニードラゴ2体は、ケーケー鳴き叫んだあと動かなくなった。


「おかしい…まさかアーティ、暴走してる!?」


 ボムはアーティの異変に気づいたが、時すでに遅かった。

 大人のタイニードラゴ2体が、怒り狂いアーティに襲いかかった。


 アーティは「アハ…アハハハッ…」と笑いながら上に飛び上がった。

 そのまま前転するように縦回転すると、タイニードラゴの頭に強力なかかと落としを炸裂(さくれつ)させた。


 タイニードラゴは「…グラァッ」と言い、うつ伏せに倒れた。


 もう1体のタイニードラゴがしっぽでアーティをなぎ払おうとしたが、それをかわし顔面に強力な回し蹴りを食らわせた。こっちは横向きに倒れ動かなくなった。


 最後に残った子供のタイニードラゴが逃げようとしていた。そこに向かって走り、アーティが突きを出そうとしたそのとき、爆発が起こった。


 そして何者かがアーティの腰辺りを掴んだ。ボムだった。

 ボムが投てき爆弾を投げてアーティをつかみ止めていた。


「もうこれ以上はいいよ。これだけあれば十分だよ!」


 そのすきに子供のタイニードラゴは逃げていった。


「ボ…ボム……た、助け……て…っ!」


 アーティは、プシューッと煙を出したあと目を閉じて機能停止した。両手には2つの核を持っていた。

 ボムはアーティを横にさせると、リュックからナイフを取り出した。


 そして、うつ伏せと横向きになった大人のタイニードラゴの所まで歩いて行き、腹を開いて核を採り出した。採り出した核と地面に置いてある核を拾い、アーティが横になっている所まで戻った。アーティの両手から2個の核も回収した。


 手にした核の合計は5個だった。その核を全てリュックにしまった。


 早く研究所まで帰ろう、ボムはそう思った。

 リュックを背負うとボムは両手で顔をピシャッと叩き気合いを入れた。


 ボムはアーティを肩を組むように担(かつ)ぐと、ゆっくり歩いて灰色山を下り研究所まで帰って行った。

 研究所までは5日かかった。ボムは疲れ切っていた。それでもアーティを担いで、研究所の扉を開けた。


 「た、ただいま…博士、いる?」


 ボムの声が聞こえたのか博士は飛んできた。


「ボム!ア、アーティ?どうしたんじゃ一体!?」

「アーティ、いきなり暴走して…壊れちゃったのかな?」

「原因は後で見るが…とりあえず、おかえりボム。担いで帰ってきて疲れたじゃろ。しばらく休め。後はわしに任せろ!」


 そう言って博士はボムと交代すると、アーティを担ぎ研究部屋に入って行った。

 ボムは背負っていたリュックを床に置き、ゆっくり階段を上がり、自分の部屋で眠りについた。

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