VENTUNO

「…ふっ…くしゅっ!」

「あ?なんだエド風邪か?だめじゃん、いくら夏だからって全裸で寝ちゃ。暑くてもちゃんと寝間着着て寝ろよ」

「誰が全裸で寝てるって?誤解招くような事言うんじゃないわよ。ああっ!シャーロット嬢違うわよ!ちゃんと着てるから!なんだか寒気がしただけよ!」


アイオスったら失礼しちゃうわ!ぜんせはともかく今はそんな事しないわよ!

変なこと言うからシャーロット嬢が目を見開いてるじゃない!しかもほんのり頬が赤いし…!

まったく、誰かワタシの事噂でもしてるのかしらね。…嫌な噂じゃなきゃいいけど。


それにしてもリズったら、管巻いたかと思ったら寝てしまったわ…

3人がけのベンチに寝かせて、ジョージに持って来させたブランケットをかけてあげた。


さきほどのリズのいつにない痴態に心配したみたいで、ワタシがリズを見ていたらシャーロット嬢が口を開いた。


「エリザベス様、いつになく絡んでいらっしゃったわね… 一体どうされたのかしら?」

「あー、なんかアリシャとか言ってたな。誰のことかわかんねーけど、普段温厚でぽやっとしたエリザベス嬢があんな風に言うなら、相当強烈な嫌味でも言われたんじゃね?」


ふーん。アイオスって意外に人をみてるのね。アンタこそ普段ぽやっとどころかぼやっとしてるのに。


「アリシャっていうのは、多分リズの異母妹のアリサ嬢の事だと思うわ。ん〜、多分だけど、ろくでもない嫉妬でもしたんじゃないかしら。あの子両親から甘やかされてるみたいだしね」

「まあっ…妹様はアシュレイド公爵に甘やかされているのですか…?でもエリザベス様って、ご両親とあまり接点…お会いすることが無かったのでしょう?それなのに幼少の頃からお勉強も淑女教育もがんばられていたのですわよね… エドナーシュ様にその事を教えていただくまではわたくしその事を存じ上げなくて、いつも穏やかに微笑んでいらっしゃる印象しかなかったですわ。どちらもご自分のお子ですのに、何故一方に愛情が偏るのかしら....本来ならあの『ずるい』って言葉はエリザベス様こそが言う言葉でしょうに」

「そうね……」


本当にリズがこんなに素直ないい子になってくれて良かったわ…

オカンよろしくあれこれと小さい頃からかまった甲斐があったわね。


「そういえば、エリザベス様の婚約者はジェラルド王太子殿下でしたわね。わたくしはあまり殿下の人となりを存じ上げないのですけど、エドナーシュ様とお兄様は殿下の側近候補でいらっしゃるでしょ? お二人から見て殿下はいかがです?ちゃんとエリザベス様に向き合ってくださってます?」

「そうねぇ....このままだとこの国の未来を本気で心配するくらい殿下は残念ね」

「え、国の未来ですの…?それはまた…」

「殿下かぁ〜、殿下ならピンク頭の令嬢おっかけてて、エリザベス嬢に近寄りもしねーよな」


アイオス、そうだけどそうじゃないわ。殿下は近寄らないだけじゃなくて…


「一応近寄ってはくるわね。苦言という体での言いがかりだけど」

「あー…な」

「? どういう事ですの?」


ワタシはこれまでの殿下と“ヒロインちゃん”ことアンジェリカ嬢の事をシャーロット嬢にかいつまんで説明したわ。

すると話が進むにつれて彼女の顔が驚愕から苦悩に、そして呆れ最後には泣き出してしまった。


「そんな… あ、あんまりですわ…! 実の親と将来伴侶となる方がそのような仕打ちをなさるなんて…!それになんですか、その無礼な伯爵令嬢は!わたくし許せません…ええ、許しませんとも!」

「まーシャルにはあんま接点ないけどな。来年入学したらそんな様子も見れるんじゃねえ?」


それはどうかしら… 確か『星君』のストーリーは1年ないのよね。

前世のクリスマスにあたる冬の『星降祭』でジェラルドルートなら婚約破棄の断罪イベントがあって、そこでヒロインと婚約すると最後にウエディングスチルがでてハッピーエンドになるのよねぇ。

だからリズと殿下の関係が変化するのはそう遠くないはず。

なんだけど…でも、そう…どうもヒロインちゃんの様子がおかしいのよ。

もしかしたらワタシが色々変えてしまったからとも言えるけど…… でもこれだけは言える。


「…大丈夫、何があってもワタシがリズを必ず助けるわ」



そうよ、絶対にリズを不幸になんかさせやしないんだから。



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