CINQUE
「呆れて物も言えないわ… 一体どういうつもりなのかしら。」
ワタシはリズからの手紙を読み、それをくしゃりと握りつぶすと盛大な溜息と共に言葉を吐き捨てた。
―――――― お母様が亡くなって1年経ち、喪が明けたと同時にお父様が後妻と異母妹を連れてきました。 ―――――――
前アシュレイド公爵夫人のマデリーン様はリズの実の母親。 アシュレイド公爵を本当に想っていたわ。 だけど公爵はそうじゃなかった。 マデリーン様との結婚の為に引き裂かれた平民の女性をずっと想っていて、 リズが生まれたのを機に、貴族としての務めを果たしたと言わんばかりに別れた恋人とよりを戻し、リズが生まれた翌年には恋人との間に娘を設け、公爵の愛情はすべて恋人とその娘に注がれた。 その事が発覚してからマデリーン様は心と身体をだんだんと蝕まれ、とうとうリズが13歳になった去年儚い人になってしまった。 マデリーン様の喪が明けた1年後の今、アシュレイド公爵は恋人だった平民の女性を後妻にしたという。 まるでマデリーン様が亡くなるのを待っていたかのように。
「リズは… あの子は大丈夫かしら…」
まるで恋愛小説の様な、夢見る女の子ならあこがれるようなシンデレラストーリーだけど、アシュレイド公爵は貴族だ。 それも高位の。 醜聞なんてもんじゃない、本人達は成就した恋愛に舞い上がってるだろうけど…
「
とりあえず、明日にでもリズを訪ねてみましょう。
*******************
翌日ワタシはアシュレイド公爵家に来ていた。
「いつ来てもここの庭は見事ねぇ」
ほう…っ と感嘆のため息を吐き、その見事な庭園を見ながら、ワタシは庭園の奥にある温室を目指した。
かちゃりと温室のドアを開け、その独特の湿度と匂いを感じながら奥へ進む。 色とりどりの美しい花や珍しい植物が整然と並んでいるのはいつ見ても素敵だわ。
「ここだと思ったわ。」
そう声をかけると長く美しい金糸のような髪が揺れて、アメジストの瞳がワタシを捉える。 その美しい顔に浮かぶのは悲しみや動揺やいろんな感情の入り混じった何とも言えない表情だった。 リズも自分の感情をどうしていいのかきっと分からないのね。
「エド… ありがとう。 来てくださったのね。」
「当り前じゃない。 大事な幼馴染の為なら出来る事はなんでもやるわよ!」
両手を腰に添えて鼻息も荒く、ふんすとやればリズは少し笑顔を見せた。
「それで、今―――――」
「あっ! お姉さまぁー!ここにいたのね! 探したのですよー!」
リズに現状を聞こうとしたその時、突然ソレはやってきた。 ふわふわとした栗色の髪に公爵と同じ青い瞳の、少しぽっちゃり(DEBUじゃないのよ、ぽっちゃりよもしくはふくよかね。)とした少女。 これが恐らくリズの異母妹でしょうね。 きっと母親から、もちろんアシュレイド公爵からも十分な愛情を受けて育てられたからかしら、世の中に憂う事なんか何もないような輝くような(ふくふくしい)笑顔でこちらへやってきて―――
―――― ワタシの顔を見てフリーズした。
しばらく固まっていたその子は突然”はっ”とすると、顔だけじゃなく全身真っ赤になってしまったわ。もうほんと『ボンッ!』って音が聞こえそうよ。
「おおおおおお、おねえさ、まっ! こここここの人は…?!」
ワタシは彼女の3歩手前まで近づいて、軽く会釈しつつ「初めましてレディ。 僕はエドナーシュ・フォン・オルベールと申します。」と挨拶した。
物語の主人公ならこう言う時『鈍感力』を発揮して、どうしたんだろう、熱でもあるのかな? って明後日の方向に考えるだろうけど、甘いわよ!ワタシは夜の男道を歩いてきたオネエ。人の感情の機敏を悟れなくてNO1なんて務まらないわっ!
「あ、あの、あのっ! 私アリサです! あのっエドナーシュ様は、ど、どう、どうしてここに」
「そう、よろしくね? アリサ嬢。 僕はエリザベス嬢の友人なんだ。 今日は温室の花が綺麗に咲いたって案内してもらってたんだよ。」
と何を言ってるのか分からない叫びをあげてどこかに走り去ってしまった。
その時ワタシは心の中で溜息を吐きながらこう思ったわ。
―――――― はぁ~… なんかめんどくさいことになった…。――――――
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