UNO
みなさまごきげんよう。 エドナーシュ6歳です。 今日はお母様がアシュレイド家へお茶会に行くと言うので同行させてもらったわ。 アシュレイド公爵家の庭園は王国内でも有数の美しさと、まだ珍しい温室がある事で知られているのよ。 前世では職業柄美容関係には気を使ってて、趣味と実益でハーブを使った化粧品や料理を嗜んでいたから、珍しいハーブがあるかも!と思ったら居てもたっていられなくて無理を言って連れて行ってもらったの。
移動中、馬車の中から見えた初めて見るその計算された造園のすごさ、美しさに本当にただただ感動して、傍から見たらぽかんと口を開けて変な顔してたと思うわ… (お母様もくすくす笑ってたしね)
「アシュレイド公爵夫人、お母様、僕はお庭を見てみたいのですがいいでしょうか?」
「あら、エドナーシュ様は庭にご興味がおありなのねぇ。ええ、もちろんよろしいですわ。」
「エド、あんまり奥には行かないでちょうだいね。あなたなら大丈夫だと思うけど…」
「大丈夫ですよ、お母様。ありがとうございます、アシュレイド公爵夫人。」
お茶会の席について早々にっこり笑ってその場を離れ、目的の温室に向かったの。広い庭園を横目に見ながら奥まった場所にある温室にたどり着き、中に入ってみたら中から何か声が聞こえた気がした。(何かしら…誰かの泣き声?)
その声のする方に近づいていくと、波打つ美しい金色の髪が蹲って、声を殺して泣いていたの。
「どうしたの?何かあったの?」
「!」
ワタシが近づいた事に気が付かなかったその子は、肩を揺らしてびっくりしたように振り向いた。
人形のように整った顔のアメジストの瞳が大きく見開かれて、その目と鼻頭が赤くなっていたわ。
―――― なんて綺麗な子なの。まるで妖精のよう。
「‥‥なんでも、ありませんわ…」
その子は気丈に立ち上がると、スカートをつまんで一礼してその場を立ち去ろうとしたから、引き留めた。
「…待って。君クッキー食べる?」 (そこ!この頃から餌付けしてるとか言わない!)
少し考えてからその子が頷いてくれたから、怖がらせないように微笑んで、ポケットから紙に包んだ物を手渡した。「どうぞ。」 そう言って近くにあったテーブルセットに座らせ、ワタシもその子の目の前に座った。
「ぼくはエドナーシュ・フォン・オルベール。 君は…?」
本当は聞かなくても分かる、アシュレイド家のワタシと同じくらいの年齢で、該当する容姿の子は一人しかいない。
「…エリザベス …エリザベス・フォン・アシュレイドですわ。エドナーシュさま」
――――― そう、これが『星君』の『悪役令嬢エリザベス』とワタシの出会いだった。
「…それで、エリザベス嬢は何があったの?」
「‥‥」
「言いたくなければ無理に言わなくてもいいよ。」
そう言って安心させるように微笑んでから、黙って彼女の近くに座っていた。
ゲーム上ではエリザベスがなぜ、高慢で意地悪な性格になったのかはあまり触れられていない。
でもワタシは彼女が泣いていたその原因こそが背景にあると直感したの。
暫らく黙った後、彼女はぽつりぽつりと語りだした。
――― どうして、おとうさまは、わたくしとお話してくださらないのかしら。
――― どうして、おかあさまは、いつも怖いお顔をしているのかしら。
――― どうして、おかあさまは、わたくしをほめてくださらないのかしら。
――― おとうさまとおかあさまは、わたくしがおきらいなのかしら…
『
後から聞いた話だけど、アシュレイド公爵家は夫婦仲が悪いらしい。もちろん貴族は恋愛結婚の方が珍しく、政略的な結婚の方が一般的だ。(オルベール家は幸い家族仲が良く、お父様もお母様も未だにらぶらぶだけど)だけどこれは…
アシュレイド公爵は金髪碧眼の長身痩躯で、凛とした社交界でも有名な美丈夫だ。 そんな彼には身分違いの平民の恋人がいた。 誰からも祝福されることのない恋人同士は、両親によって引き裂かれてしまったの。その後王家のたっての希望で、現王の腹違いの妹であるマデリーン様が嫁いでこられた。 マデリーン様は若く美しい公爵を狂おしいほどに愛していたのだけど、引き裂かれた愛おしい恋人を、どうしても忘れる事ができなかったアシュレイド公爵は、マデリーン様を愛することができずにいたの。
家族を省みず、仕事と称して邸宅に寄り付かず、たまに帰っても家族と顔を合わせる事もない父親と、愛しているのに愛されない苛立ちを娘に向ける母親… そんな環境があの『悪役令嬢』を作ってしまったのね。
…だけど、まだ今なら間に合う。ワタシがきっとこの子を不幸な運命から救ってあげるわ! だってこんなに綺麗で可愛いのだもの!
そう誓って、事あるごとにかまい倒してたらえらく懐かれてしまったわ。 まあいいけど、これで悪役令嬢にはならずにすんだかしらね?
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