幸せのDOLCINI
紗衣羅
PROLOGO
「はぁ~…アンタってホント馬鹿ねぇ…ほら、これあげるから泣き止みなさいよ。」
そう言いつつ、目の前で泣きじゃくる幼馴染に手作りのクッキーを手渡す。
「うっ…ひっく…っ だって…」
あら、泣きながらでもクッキーは食べれるのね、器用だわ。
皆さまごきげんよう。ワタシはエドナーシュ・フォン・オルベール。 リスタリア王国の、五大公爵家のひとつで、由緒あるオルベール公爵家の嫡男。お父様はこの国の宰相よ。
あれはワタシが物心ついたばかりの頃、3歳だったかしら。 公爵家の広い屋敷の中を探索している時、お母様の部屋に大きな姿見があるのを見つけたの。 その鏡の中には、窓から入る陽光を浴びてキラキラと光る柔らかな銀の髪と、形の良いヘーゼルカラーの瞳、陶器のように白く滑らかな肌、スッと通った鼻筋…将来かなりのイケメンになる事を約束された、まるで天使の様な美しい少年が映っていた。 あるわ…見覚えがとってもあるわ…と思わず2度見した自分の顔と、エドナーシュと言う名前、国や両親の名前でカカッと思い出した。
この世界は、エドナーシュとして生まれる前、所謂前世というやつでプレイしていた乙女ゲーム『星降る夜に君が願うのは』の世界で、ワタシの役どころはヒロインと恋愛模様を繰り広げる、攻略対象5人のうちの一人だった。
『星君』は平民として育ったヒロインが、実は伯爵家の長男とメイドの間にできた子で9歳の時の母親の死をきっかけに、伯爵家に引き取られて貴族の通う王立学園に入学し、そこで攻略対象者の王太子である第一王子ジェラルド、王太子の側近候補で宰相の息子エドナーシュ、近衛騎士団の団長の息子のアイオス、生徒会長のリオンと出会って、いろいろな困難に立ち向かいながら愛を育む恋愛アドベンチャーゲームよ。ああ、そうそう残り1人は隠しキャラで新任教師のクルーガ。
ワタシの前世は歌舞伎町2丁目のゲイバーNo1だったんだけど、あの日はちょっと嫌な事があって飲みすぎちゃったのよね。それで泥酔したままお風呂に入ったら、そのまま溺れて死んじゃったみたい。ざまぁないわね、あっはっはっはー おかげで今世は池とか噴水とか苦手。お風呂もこの世界にシャワーがあって良かったって心から思ったわ。ちなみにトイレも水洗よ~。文明レベルは前世の18世紀くらいの設定だったのに、さすが乙女ゲーの世界。(家庭用冷蔵庫もあるのよ~ありえないわよねぇ。)
ゲームのエド様は私の最推しで、優しくて面倒見がよく、ユーザーサイトではぶっちぎりの人気を誇り、メイン攻略キャラの王子サマよりも2次創作やグッズが作られるほどの人気キャラ。その最愛のエド様が今のワタシ。 ‥‥まったく、ドウシテコウナッタ。
あら、ごめんなさい。自分語りがすぎて忘れる所だったわ。 目の前でぐすぐす言いながらワタシの手作りのお菓子(趣味なのよ)を食べる幼馴染は、『星君』のヒロインに意地悪をして、最後にお約束の断罪イベントで婚約者の王太子から婚約破棄をされ、国外追放か修道院行きを言い渡される所謂「悪役令嬢」のエリザベス・フォン・アシュレイド公爵令嬢。オルベール家と同じ五大公爵家のひとつ、アシュレイド家の子女よ。
リズはゲームの通り、高位貴族の子女という立場と絹の様な金の髪、少しつり目気味のアメジストの瞳、しみひとつない透き通るような白い肌の類稀なる美しい容姿で高飛車になり、事あるごとに取り巻きと共にヒロインを苛め抜く―――――――
―――――なんて事はワタシからしたら全く無く、優しくて頑張り屋でいい子なのよね。ただ、公爵令嬢という肩書と、きつめに見える綺麗な顔とで誤解されがちだけど。
「だって、アンジェリカ様に貴族としての振る舞いをご説明していたら…突然ジェラルド殿下が怒りだしてしまって…わたくしどうすれば良かったと言うの?!」
アンジェリカと言うのはヒロインの名前なんだけど、ゲーム通りと言うか、身も蓋も無い言い方すると王子がヒロインに惚れちゃってるみたいなのよね。 元々王子とリズの婚約は生まれた時にはもう決められてて、リズ的には貴族だからとそれを受け入れ、王太子妃として恥ずかしくないように勉強も王妃教育も人一倍も頑張ってて、けしてそれに対して泣き言は言わないの… だけど王子がねぇ…
「気持ちはわかるけど… もう少しうまく立ち回りなさい。貴族には腹芸も必要よ。特に殿下がアレだし。」
ああもう、そんな潤んだ目で見つめないでちょうだい…なんかもう、いたたまれないわ。
「…エドも”殿下がアレ”だなんて、側近候補なのに大丈夫なんですの?」
はんっ!こちとら前世から世の中の酸いも甘いも噛分けてるのよ!人生の修羅場の場数が違うわよ、場数が! おまけにこのエド様の体は乙女ゲーの攻略対象だからなのか、勉強でも、武術でも、学んだ事は何でもすぐに吸収するチートボディ。あんな脳内お花畑の王子なんか手玉に取るのは簡単よっ。
「ワタシは大丈夫よ」って、リズの手をとってその目を見つめると、仄かに頬が赤くなる。もうっ!かわいいわねっ。
「何かあったら力になるから、ワタシに頼るのよ。一人で突っ走っちゃだめよ?」
「わかったわ… ありがとうエド。ああもう…わたくしったらエドに甘えてばかりでごめんなさい...」
「ふふっ… いいのよ。ワタシが甘えてほしいの。」
そしてクッキーをもう一つ渡す。「これで元気だしてね。かわいいリズ」
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