果てなく続く唄

遠方に竜種が見える。それは空を覆い尽くすような数。

歴戦をくぐり抜けた彼らでさえも、顔がひきつるのがわかる。

「黒魔女は、黒魔女はいないのか!」

「いるわよここに」

いけすかない聖騎士団長様。名乗ってあげてるんだから、名前で呼びなさいよ。

でも、まあ。あの竜種の大群を前にして、いつもの冷静さも消えたみたい。滑稽な姿。

「国王も団長様も。聞きなさい。あれ、私なら消すことはできるわ。でも、一時しのぎよ」

そう、一時しのぎ。あいつらの本命は姫様、正確には姫様が唯一使える歌魔術を消滅させること。それさえできればこの国は奴らの手に渡る。逆に言えば、姫様を守りきれれば今回の戦いはこちらの勝ち。

「今はあの子達が姫様を守っているわ。ここを凌げれば、次はあの子達が奴らの王を叩いてくれる。だから」

こんな会議室でいがみ合っている場合ではないわ。幸いにして、姫様がここにいないことは向こうにまだ知られていないようだし。

「ここは私がやるわ。全員、あの子達の援護に回りなさい」

さすがにあの大群じゃあ守りながら戦うのは難しいわ。

だから。

「この国、守りたいなら私の魔法から守りなさい」


空を駆ける。

冷たい風に混じって熱い物が頬をなでる。

時間にしてざっと一刻と言ったところか。

火炎玉ファイアボールを空中に多数出して待機。

私の存在は気付いているはず。襲ってこないのは、ちっぽけな存在だから、か。

「黒魔女をなめるなよ」

魔力膨張。

火炎玉乱射。

爆炎が上がる。

甲高い竜の悲鳴。

爆風が長衣をはためかせる。

まだ、数は膨大。

戦いは始まったばかりよ。


鋭い牙が向かってくる。

横にかわすと別個体の息吹ブレスが目の前。

「甘いね」

炎の息吹は水で相殺。ついでに氷の剣を生み出す。

背後にきた小型を二体、切断。

国に落ちることは心配しない。守れと言ったし。

「炎の番人 灼熱の火炎 全てを見通す者よ」

きりがない。

傷はつかなくとも、体力は尽きてくる。

「祖は全てを焼き尽くす」

意識を集中。

襲ってくる小型達を切り落とす。

詠唱。

さすがに全てをかわすのは無理だ。

でかいのはまだ遠い。

好都合だ。

「我が真名の元に顕現せよ」

異変に気付いたのか、竜種達が結界を張ろうとするのがわかる。

でも、もう遅い。


地獄の業火ヘルフレイム


産み出した焔は全てを焼き尽くす。

遠くに見えた竜種は巨大な炎の渦に飲み込まれていく。

かろうじて渦から逃れた竜種もいるけれど、片手の数ね。

魔力も半分持っていかれた。

かすり傷とはいえ、出血もある。

ここからが本番、かしら。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【自主企画用】果てなく続く唄 由岐 @yuki-tk

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ