20 

「……もう行っちゃうの?」輪廻は言った。

「はい。いつまでもお世話になれませんから。あ、それから、おのお礼は必ずします。絶対にします。私は人様から受けた恩は絶対に忘れません。必ずこの恩に報いてみせます。ですから期待しててくださいね」

 林檎はにっこりと笑ってそう言った。

「うん。わかった」

 輪廻は言った。

 本当は輪廻はずっと林檎のこの空っぽな家の中にいて欲しいと思っていた。でも、そんなことを林檎にお願いできるはずはなかった。

 輪廻と林檎は昨日の夜、偶然出会っただけの、まだ出会ってから一日も時間が経過していないような(輪廻には、とてもそうは思えないのだけど)すごく遠い関係にある、二人だった。

「あのさ、林檎」

「なんですか?」林檎は言った。

「……その恩っていうか、お礼っていうの、今してもらってもいい?」

「? ……はい。もちろん。私にできることなら」

 と不思議そうな顔をして林檎は言った。

「じゃあ、今日一日、私と『デート』してよ。『デート』」と輪廻は言った。

「え? デートですか?」と林檎は言った。

「うん。デート。だめ?」輪廻は言った。

「いやだめじゃないですけど、……女の子同士で、デートですか?」

「そうだよ。いけない?」

 輪廻は言った。

 すると林檎はうーん、と少し考えてから、「別にいいんですけど……、でもな……」と言ったので、輪廻は「『制服デート』できるよ。その制服を着たままで、二人で制服デートをしよう」と言った。

 その、『制服デート』、という言葉が林檎のハートを撃ち抜いたようだった。

 それからすぐに「わかりました。デートしましょう」と明るい声で林檎は言った。

 そして、本日の日曜日。

 輪廻と林檎は二人で東京の街の中を制服デートすることになった。

 幸いにも、空は真っ青に晴れている。

 天気が晴れであることが、こんなに嬉しいと思ったことは、輪廻は本当に久しぶりのことだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る