11
「ついたよ」
そう言って輪廻は自分の家のドアを開けようとした。
「あ、えっと、でも、大丈夫? こんな夜中に、突然」
ここまで来て今更とも思ったのだけど、一応、林檎は輪廻に聞いてみた。
「大丈夫」
輪廻は言う。
「でも、輪廻のお父さんとかお母さんに怒られたりしない?」
「大丈夫。だって私、この家に一人で住んでいるんだから」
輪廻はドアを開けて家の中に入ると玄関のところで林檎を手招きした。
「……お邪魔します」
林檎は輪廻の家の中に入っていく。
それから二人は真っ直ぐな通路を抜けて、リビングまで移動した。
「輪廻の家、おっきいね」
目を丸くして、きょろきょろと周囲の風景を見ながら、林檎は驚いている。
輪廻の住んでいるマンションの部屋は本当に豪華な部屋だった。基本的には真っ白な色をしていて、清潔で綺麗だし、リビングも広いし、違う用途の部屋も、ほかにもいくつもあるようだった。
「ここに一人で暮らしているの?」
「そうだよ」
飾り気がなにもない学校のカバンを床の上において、ソファーに腰を下ろした輪廻は言う。
「ここ座って」
輪廻に手招きされて、林檎は輪廻の反対側にあるもう一つのソファーのうえに腰を下ろした。
「うーんと、まずはお風呂と、それから着替えだね」
林檎を見ながら、輪廻は言う。
「お風呂? 着替え?」
林檎は自分の服装を確認して、それからジャージの手のところの匂いをくんくんと嗅いでから輪廻の顔をじっと見つめた。
「着替え、ある?」
輪廻の言葉に林檎は首を横に降った。
「じゃあ、私が用意するから、その間に林檎はお風呂に入っていて」
にっこりと笑って輪廻は言う。
「わかった」
林檎は輪廻の言う通りに、ありがたく、まずはお風呂に入ることにした。林檎は輪廻に案内されてお風呂場まで移動する。
するとそこは真っ白な壁に包まれた、とても大きくて、すごくいい匂いのするお風呂場だった。
りんごのお風呂
林檎はにこにこしたご機嫌な顔で、お風呂に入った。
癖っ毛の髪をよく洗って、体をごしごしと洗って、(すごくおしゃれな英語の文字が書かれている、変な形をした、すごくいい匂いのするシャンプーとリンスとボディソープだった)、それから、あったかいお風呂に肩までしっかりと浸かって、すごく冷えていた心と体を、その芯から温めた。
「ふぅー、……気持ちいい」
目をつぶって、林檎は言った。
それは、本当に気持ちの良い経験だった。あまりに気持ち良くて、あまりに幸せだったから、思わず林檎は少しだけお風呂場の中で泣きそうになってしまった。
こんな気持ちになったのは本当に久しぶりのことだった。
「だめだよ」
林檎は言った。
林檎はわざとにっこりと笑い、流れだそうとした涙を自分の中に押しとどめた。
それからしばらくお湯に浸かってから、「よし」と言って、林檎は元気良くたまご型のバスタブから外に出た。
このままここにいたら、私はきっと、『幸せすぎて、もう一人ぼっちで、歩いていけなくなる』。林檎はそう思って、この幸せな、まるで物語のような、真っ白なお風呂場をあとにした。
お風呂場を出るときに、林檎はお風呂場の中にある大きな鏡の前で、もう一度、にっこりとわざと笑って自分に見せた。
それはなかなかの可愛らしい女の子の笑顔だった。
「合格」
林檎は言う。
林檎はふんわりとした柔らかいバスタオルで体を拭いて、そのバスタオルをしっかりと自分の体に巻きつけてから、頭にもう一枚のタオルを巻いて、(着替えを用意するって言ったのに、輪廻は着替えをお風呂場に持ってきてはくれなかった。部屋にあるのかな?)それから輪廻のいるリビングに戻った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます