9
輪廻はずっと一人だった。
家でも、学校でも、ずっとずっと一人だった。
家族もいたし、たくさん友達もいたけれど、……それでも輪廻は孤独だった。
ずっとずっと、孤独だった。
自分はすごくいろんな人たちから愛されていたと思うし、自分の生まれた環境がすごく恵まれているということもわかっている。いろんなことに感謝もしている。
でも、それでも輪廻は孤独だった。
輪廻はうまく、笑えなかった。
だから、林檎に出会って、林檎と一緒にいるときに、自分が『孤独ではない』と感じたことがすごく不思議だった。
輪廻は林檎と友達になりたいと思った。
林檎と一緒にいれば、人生がすごく楽しくなるかもしれないと思った。
そんなことを思ったことは初めてだった。
夜の東京の街の中をこうして林檎と手をつないで、すごく綺麗な星を見ながら歩いているときに、そんなことを輪廻は考えていた。
そう考えてから、ふふっと輪廻は一人で微笑んだ。
その輪廻の微笑みを隣にいる林檎は不思議そうな顔をしながら、「どうかしたの?」と言って、それからじっと輪廻の顔を見つめた。
「なんでもない」
林檎の顔を見ながらにっこりと笑って、輪廻は言った。
「素敵な夜だね」
それから少し間をいてから、輪廻は空を見上げながら、にっこりと笑ってそう言った。
「本当だね」
と同じように空を見ながら林檎は言った。
二人の見上げる夜空には星と月があって、それから高いビルとビルの間の闇の中を、赤い光を点滅させる一機の飛行機が飛んでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます