無欲な僕に恋とか説かれましても神様。

@cosmona

第1話


○ ○ ○



そこで、いつでも欲がない立場に立てば道の微妙で奥深いありさまが見てとれ、いつでも欲がある立場に立てば万物が活動する結果のさまざまな現象が見えるだけ。


『老子』より引用



○ ○ ○



それはある日のことだった。


社会と繋がるために、維持していたと思われる、色々な『私利私欲』というものが、僕の中で「プツンッ」と音を立てて、切れて無くなってしまったのだった。


理由は、様々あるのかもしれないが、正直よくわからない。


ただ僕の中で、切れて消えてしまったのはわかった。


僕はその日、財布に入っていた3万円を募金箱に入れて、何故かほんのちょっぴりの多幸感に包まれながら、並木道を歩いて行ったのだった。



○ ○ ○



人生とは、ある意味、『修行場』と言えるのだろうか。…いや、それは、宗教観によって違うのかもしれないけれど、やっぱり精神的な成長は大事なもので、そういう意味では、大切だと思う最近である。



我欲はなるべく少ない方が良いものだし、困っている人には施しをすべきだ。



自分で稼いだ財産は全て自分の物だ! と、エゴを剥き出しにして、思うべきではないし、神様に運用を任されたと考えて世の為人の為に使えるよう、最善を尽くすべきだろう。



こういうことは、自分に何度も言い聞かせていないと、すぐ忘れて、道を踏み外してしまうので、難しいものである。



当たり前なことを、昨日よりちょっぴり上手く当たり前に、出来るようになることが、人生の生き方なのかな。と、思うのである。



簡単なようでいて、難しいけれど、誰にでも出来る事であるのが不思議なもので、…しかし、人が幸せを感じるのって、結局、自分からではなく他人からなんだ。という視点は、中々得られるように出来ていないのが、また、不思議であるけれど。



そんな、シンプルな生き方をしている僕は、あまり『欲』がない。いや、『無欲』に近いかもしれない。



部屋にはほとんど何もないし、実生活では、学校に行って帰ってくるくらいのシンプルな暮らしだ。



週末はバイトをして、バイトが終わったら自宅に帰り、携帯で寄付を済ませてから風呂に入り、寝る。



もし、僕が物語の主人公だったら、読者はちょっぴりつまらない人間の人生だな。と思うかもしれないけれど、僕自身は僕の人生を楽しんでいる。



僕はどちらかといえば、逆に我欲に塗れた人の人生ほどつまらない人生は、ないと思うからだ。



けど、それは僕の価値観で、星の数ほどある人生だ。人の数だけ物語が詰まっている。



人間に祝福を。…歩み方が違えど、どんな人生も歩み終われば素晴らしいものなのは、間違いないのだから。



○ ○ ○



僕は他人から見ると、なぜか修行僧のような生き方をしているように思われてしまう。



昔、人に、「毎回稼いだお金の一部は寄付して、残りは倹約に努める。欲は抑えて、自慰はしない。…欲しいものとかは必要でなければ我慢する…ってそれの何が楽しいのか? そんな人生の何が幸せなのか?」と聞かれたことがあった。



え? 何で? と、僕はその発言に疑問を抱いたのを覚えている。



利他の道理で見たら普通だが、私利の道理で見たら、そんな人生は苦痛以外の何でもないのだろう。



何となく、その人から理解出来ない人を見るような感じで見られてしまったのは悲しいが、……こういう考えの壁から陰謀論とかは始まるのかもしれないな。と、その時の僕は思ったりしたわけだ。



…さて。



そんな無欲な僕の名前は、無我ナイガ タオという。17歳の学生だ。



高校も2年生になると、様々な人が増えて、なんとも混沌としてくる。



お金欲しさに学校から隠れて、キャバ嬢のような仕事をしている人もいれば、博打にハマってギャンブル三昧な人、毎日バイトしている者、良い大学に行きたいと、ずっと参考書と睨めっこしている者。ゲームをずっとしている者。誰かをイジメて楽しんでる者。彼女を太ももの上に乗せて擬似騎乗位をしながらずっといちゃいちゃしているカップルなど、様々な生徒たちが、いる。



多分、教育機関に沢山の支援をした昔の人たちから見たら、こんな学校になるなんて思わなかっただろうけど、実際は、人の数だけ『私利私欲』が塗れ、自由という名の混沌が混沌を呼んでいるような場所が、学校という所だ。



学校は疲れる所だ。仕事先より疲れると感じるのは、我欲が渦巻いていて、人に道徳心のカケラもないからだろう。つまり、動物たちを檻へ入れるような役割をしているのが、今の学校のシステムと言うわけである。



だからこそ、学べることも多いわけだが、混沌に嫌気がさして、学校へ来なくなる者の気持ちもわからなくもない。



不思議と利他の精神が強い人ほど昨今の学校に馴染めなくなるという性質がある気がするのは、気の所為ではないかもしれない。



思想あってこそ教育というのはあるべきな気がするし、人としての道徳があって、初めて教育は実現すると思うのだが、大学も含め、自由と言う名の無思想無道徳を謳う昨今の教育機関は、はたして本当に教育と言って良いものなのだろうか? 最近の、人の道を失くしている知識というものに違和感しか感じられないのは、もしかしたら僕だけではないのかもしれないと…思いたい。



なんとなく、パチンコ雑誌に赤線を引いてる前の席の男の子を見ながら思った、僕であった。



朝のホームルームが始まり、教師の無機質な声を聞きながら、頬杖をついていると、いつのまにかいた隣の席の女子が僕の脇腹をつんつんしながら呼んできた。



僕はなんとなく、彼女の顔を眺め、口端を上げながら微笑むと、隣の女子は無表情のまま「おはよ」とだけ言って、また教師の方を向いてしまう。



彼女の名前は尊徳 フセ さんと言う。



とても長い綺麗な髪と、整った顔立ちが特徴的であるが、口数は少なく、なぜかいつもマスクをしている。



1年生の頃から僕と同じクラスだ。



彼女は最初どこかの財閥の令嬢ではないか? とクラスで噂が立ったことがあったが、校外学習とかで持ってきた持ち物や私服がほとんど安物だったのと、携帯も持っていない。財布にも小銭にしかない。このような事から、「ウチの学校に財閥の令嬢なんか来るわけないか。」と、そんな噂も自然消滅したことがあった。



僕的には、何か彼女に普通な人とは違うような雰囲気を感じたし、案外所得の多い人ほど、あまり物に関心がないような気がしたので、その噂もあながち間違っていないように思ったけれど、なにぶんフセさんはあまり、口数が多くないし自分のことを話したがらないので、真実は闇の中である。



ホームルームが終わり、授業の準備をしていると、前にいる男子が、「昨日、パチンコで当たった景品でオセロ貰ってきたんだよ〜。タオやろうぜぇ〜。」と言って、僕の机にオセロ盤を置いて、口を斜めにさせた。



「オセロか〜。ってか10分で勝負つくのか?」



と、僕は言いながら勝負を始めた。



オセロをしている最中、彼は終始パチンコの話をしながら、……そもそも学生ってパチンコして良いんだっけ? と考えながら、けど、ソーシャルゲームなどもパチンコみたいなものか。と、あまり細かいことは気にしないことにした。



当たり前だが、10分で勝負がつくことはなく、授業が始まり、そのままオセロのことは、僕と彼の記憶からは、抜け落ちていったのだった。



○ ○ ○



放課後になり帰る準備をしていると、朝の時と同じように、フセさんが僕の脇腹をつんつんしてきた。



この子は僕をビクッとさせるのを楽しんでいるような節がある。



僕が彼女の方を向き、どうしたの? と聞くと。



「私、さっき先生に図書委員の受付を頼まれちゃったのだけれど、タオ君、手伝ってくれないかしら? 」



彼女は抑揚の無い言葉で言うと、睨むように僕を見つめた。



「別に構わないけど…。」



受付なら1人でも平気な気がするが。



「1人だと暇なのよ。…そのオセロをして暇を潰したいと思ったの。」



ははは…オセロ目当てでしたか。



確かに図書委員の受付は暇そうである。最近は紙の本を読もうとする人もめっきり減ったし、社会の忙しさから本すら読もうとしない人が増えた。



学生といってもやはり社会の一員である事に変わりなく、バイトや免許取得や塾や部活やゲームと大忙しなのだ。



「わかった。それじゃあ、準備したら行くよ。」



「ふふ。良い心がけね。それじゃぁ私は先に行っているわね。」



マスクのせいでか、全く表情がわからない彼女は立ち上がると、足音も立てずに、すっと教室からいなくなった。





誰も来ない放課後の図書室の中、オセロのパチパチと裏返す音だけが、紙の世界に響いていた。



「……フセさん。…つ…強いね。」



真っ白になってるオセロ盤を睨みながら、僕は頭を捻っていた。



「違うわ。客観的に見てタオ君が弱すぎるだけよ。普通、角を取られないようにするのがオセロの基本よ?」



「わかってはいたけど…。…いや、四隅取られてから言ってもなにも説得力がないな…。…降参です。」



フセさんはサディスティックに目元を細めながら、僕の脇腹をつんつんした。



僕は身体をくねらせながら、その攻撃を耐えていると……。



カラカラと音がして、扉が開きカップルがいちゃいちゃしながら入ってきて、僕等を一瞥して会釈をした後、本棚の奥の方へと消えて行ったのだった。



「カップルで勉強か〜。青春だね〜。」



僕は青春とは無縁な自分と比べながら、2人で勉強すれば勉強も楽しくなるのかな? とか、考えながら、オセロの駒を戻していると。



「……何か勘違いしているようだけれども、タオ君? あのカップルは、Hしに来たのよ。Hがわからなければ、性行為をしにきたのよ。間違いないわ。この前、あのカップルが来た後、本棚の隅にある小さなゴミ箱に精液が入ったコンドームが入っていてね…。」



と、無機質な声でサラッととんでもないことを言いだすフセさんであった。



「!!!???」



「どうしたの? そんな初めてエロ本を拾った童貞みたいな顔して? 大丈夫?…けれど、別にするのは構わないのだけれどね。他に人もいないし、だけれど、ゴミ箱にコンドームを捨てるのはマナー違反よね。気持ち悪かったからそのゴミ箱ごと捨てちゃったのよ、私。」



なにか、気の所為かサラッとディスられた気がしたが、そこは流しておこう。フセさんは少しツンツンしている所が要所要所であるのだ。



僕がなんとなく黙っていると、フセさんも黙り、…確かに、微かに喘ぎ声のような音が響いてきたのだった。



……気まずい!



たまたまテレビをつけたら、濡れ場のシーンが流れていて、親と2人で見てしまったような雰囲気が、僕とフセさんとの間に流れてしまった。



「……。タオ君はこういうのは苦手なのね。 あんまり性とかに関心がなさそうだったから、平気なのかと思っていたわ。…それでタオ君に実は来てもらったのって、ゴミの処理も頼みたかったからなのだけれど、良いかしら?セックスしている最中に、割り込んで帰すのもなんか嫌じゃない? だからと言って何度もゴミ箱ごと捨ててたら、先生に悪いしね。」



「…え? ああ、まぁいいよ。」



「タオ君は良い人ね。…良い心がけだと思うわ。」



トーンが一定で機械のような喋り方をするフセさんは、本当に何を考えているのかよくわからない。



小さな喘ぎ声が木霊する図書室の中2人で静かにしていると、



「…そういえば、タオ君。私、学校で募金の回収もしているのだけれど、去年1回だけ3万円近く入っていたことがあってね。奇特な学生さんもいるのね。タオ君も見習いなさいな。」



それ、多分僕です。とは、言いづらい雰囲気だったので、黙って頷くことにした。



女の子の「イク!」という声が響いた後、軽い息づかいが図書室に響き、しばらく後、顔を赤くさせたカップルが手を繋ぎながらやってきて、フセさんに軽く会釈をした。



フセさんも軽く頷くと、女の子の方が僕の方を見て、



「もしかして、受付さんの彼氏さんですか?」



とか、小さな声で聞いてきたので、



フセさんは、僕の方を無表情なままじっと見つめた後、女の子の方を振り向き。



「多分。そうなると信じてるわ。…後で私、彼に告白するつもりなのよ。」



え?!



「ええ〜〜!? ががが頑張って下さいね! 応援してますから!」



「え、マジっすか。なんかすみませんでした。受付さん頑張って下さいっス」



男の子の方も賢者モードのような顔をしながらも、フセさんに頭を下げた。というか、制服の色から考えて、彼らは2人とも年上だと思うわけだが、なぜフセさんに敬語を使うのだろうか?



「気にしなくていいわ。…けれど、今度から使用済みコンドームは持って帰りなさい。マナーは大事よ。」



女の子が顔を真っ赤に染めて、男の子のお腹を小突き、男の子の方はひたすら、フセさんに平謝りをしていた。そして、フセさんはなぜ、年上にタメ口?



というか、そんなことは、どうでもよい。



今、『告白』と言わなかったか??



○ ○ ○



図書室で、静寂が続き、空調の音だけが響く中、フセさんは無表情な顔で虚空を眺めていた。



僕が、『告白』の単語に反応してしまい、チラチラ、フセさんを見ていると。



「…そう。私、家系の方針で、20歳を越えるまで、性行為をもつことは禁止されているのよ。タオ君は? 」



「僕はないけど、まぁ責任を持てるまでは駄目だよってことなのかな? 良い心がけだと思うよ。」



よくわからないが、世の中には色々な家族の形があるのだろうし、そういう縛りは意外と大事だと思う。自由ってものは意外とロクなことにならないものが多いのだ。



「これは、ウチの家系は、性欲が強い家系でね。性で失敗したご先祖様が多かったから、こういう規則が出来ちゃったのよ。ふふふ。面白いわね。ふふふ。」



全く笑っているように聞こえない無機質な笑い声が響く。何が面白いのか不明だが、とりあえず僕も笑うことにした。



なぜかそこで、フセさんに睨まれたので、笑うことをやめることにした。



「私も実は、性欲が強いのよね。遺伝って怖いわね。」



別に性欲が強そうには見えないが、とりあえず頷く僕。一体この人は何が言いたいのだろうか?



「…それじゃぁ、そろそろ私はタオ君に告白させてもらうわ。」



彼女は椅子ごとこちらに向けると、無表情のまま小首を傾げ。



僕は息を呑み込む。



「成人式過ぎたら結婚しましょう。」



は!?



「あ? ええ⁉︎ 色々すっ飛ばし過ぎじゃない!!!?」



「大丈夫よ。もうタオ君の身辺調査は済んでいるから問題ないわ。」



「そういう問題なの?」



「…ああでもそうね。 タオ君が20歳までセックスを我慢出来なくなって別の女に走ってしまったら、悲しいけれど、取り消すわ。」



「何か僕の考えていた告白と違う感じなんだけれども…。…まぁいいや。わかったよ。しかし、多分僕、大学行くよ? それでもいい?」



「決断が早くて好感がもてるわね。大丈夫よ。大学に行こうが就職しようが、『道』を歩いていればそれで構わないわ。ふふふ。」



彼女は眼を細めると、ゆっくりと立ち上がり、……そういえばさっき身辺調査がどうたらって言ってたが、何のことだろうか?……。



………ぬちゃっ。



フセさんが立ち上がると同時に、甘い匂いと共に、変な水の音が聞こえたので、フセさんが座っていた椅子を眺め……。



何か透明の液体が糸を引きながら椅子から垂れているのが見えた。



「水???」



僕は眼を細めそれを見ていると、立ち上がったフセさんは、ワイシャツに手を突っ込み、背中の何かをパチンッ!!!と外したのだった。



その瞬間……。



ボンッ!!!という擬音と共に、何かが飛びしてきたかのような…。



「あ? え? 何してるの?フセさん? 」



「ふぅ。苦しかったわ。わざと小さいのしていたのよ。けれど、もうタオ君と結婚の約束を取り付けたからこれは必要ないわね。」



彼女がこちらを振り向くとビックリするほど大きな奇乳がワイシャツに張り付いていて……。



僕は顔を真っ赤に染めながら目を逸らし、…しかし…うーん。



ワイシャツ越しにポツンッと立ち上がっているのが、明らかにわかる乳首から目を離せられないのは、僕が童貞だからだろうか?



彼女はごそごそしながらブラジャーを取ると、僕に渡してきた。



僕は固まりながらそれを受け取ってしまうわけで…。



フセさんは、今度は、スカートの中に手を突っ込むと、僕を見つめながら、ショーツを脱ぎ脱ぎしはじめ、明らかに粘液の糸を引いているショーツを両脚から取ると、それも僕の手の上に置き。



「約束の手形に持っていなさい。…洗っちゃダメよ?」



「…は…はい。」



フセさんはバックからストッキングを取り出すと、それを履き、…ゆっくりマスクを外すと……夕陽色に染めたその整った顔を赤く染め上げ、僕に初めて心のこもった笑顔を見せたのだった……。



https://www.pixiv.net/member_illust.php?id=39922301&type=all



にっこり。

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