女の子の隣でギャルゲーやってもいいですか?
神喜
file01
scene#001 「シナリオライター高校生」
――密閉された暗黒の中に、やたらと明るいディスプレイ、そしてキーボードを打つ音だけが響き渡る。
「そして、彼女は言った。もしあなたが次の世界で私のことを忘れてしまっても、私はあなたに絶対に会いに行くから」
脳内で勝手に世界を崩壊させる。それこもれも、この後の展開に繋げるためだ。
「やっと会えた。そういって笑う彼女はあの世界の彼女と何も変わっていなかった。おしまい」
ふぅー、と体の陰気を出すようにキーボードに倒れこんだ。
ようやく終わった。いや、終わらせた。シナリオは完璧、あとは担当者に送るだけだ。最後の力を振り絞り、仕事用のメールフォルダを開く。
そして、やぎそふと担当者の名前をクリック。本当は件名を入れなければいけないがそんな気力もなく、シナリオのデータファイルだけど添付した。おそらくこれだけでわかってくれるだろう。
震える指先で、マウスをクリック。無事に送信が完了したと同時に、すべての意識が断たれたのだった――
目覚まし時計が鳴る。しかし、本来いるべき場所にいないので、左手だけを彷徨わせる。当然ボタンが押せるわけでもなく、手がからぶった拍子に机から崩れ落ちた。
「い、いてぇ……」
リスクは上々、目覚めも上々。今日も、俺、
黒なのに、ブレザーというその異様な制服は相変わらず、趣味が中二病臭いと思うが、この制服を目当てにうちの高校に入学したいという人間がいるから驚きだ。
ちなみに朝から無駄な自分語りをしている藤沢飛翔は違う。彼が私立華崎学園を選んだ理由は単純に学校に近いからだ。といってもここは実家ではなく、一人で借りているアパートなのだが。
飛翔は朝起きて、顔を洗うわけでもなく、朝食をとるのでもなく、最初に制服に着替えたのは単純に時間がないからだ。
もう、登校時間まで残り十分もない事も知っている。できれば、学校なんて行きたくないのが本望だが、きっと今頃家の前で待っている幼馴染は許してはくれないだろう。
「あー眠い……」
眠い目をこすりながら、玄関を開ける。そして、予想通り彼女は頬を膨らませながらこちらを睨んでいた。
柔和な顔つきに、整った安産型スタイル。うん、今日もママンは平常運転だ。
「つばさちゃん、遅い」
「仕方ないだろ、徹夜で作業だったんだから」
「ふーん、というかつばさちゃん、歯も磨いてないし、顔も洗ってないし、朝も食べてないでしょ」
その質問に頷く、と彼女は呆れたように大きくため息を吐いた。
「そんな状態じゃ学校に行かせられません、変な噂がたったらどうするんですか」
まるで子供を叱るお母さんのように、言い聞かせる。まぁ、実際学園ではお母さんなんて呼ばれてるし、そう見えても別にいいか。
「ともかく今すぐにでも、身だしなみだけはちゃんとしなさい」
「別に言いいよって、うわぁ!」
無理矢理家の鍵を奪い取られ、洗面所まで引きずられる。相変わらずかっこよくもない顔面と対峙させられ、いきなり水に顔をぶっかけられ、その間にドライヤーで髪を直される。
うーん息ができないし頭皮は熱い、これが現代の朝から朝から拷問というやつか。
「よし、完璧」
ようやく拷問が終わり顔を上げる。本人からしたら何が変わったのかはよくわからないが後ろで微笑んでいる彼女は満足らしい。
「さ、行くよ」
彼女に引っ張られ、目の前と鼻の先にある学園へ。
こうして、藤沢飛翔の学園生活は始まるのだった。
「じゃあ、私はこっちだから」
三年生と二年生では、階が違うため三年生の教室のある二階で分かれる。
今更だがこのお姉さん系女子は、誰かっていうと藤沢飛翔の幼馴染である、
そんな彼女に面倒を見てもらっている俺だが、当然周りの目は痛いわけで……。 まぁ、自分に母性愛だとかそっちの趣味はないので、多分問題なし。
「はい、これお弁当ね」
小さな可愛らしいお弁当を渡される。桃の弁当は旨い、受け取った瞬間井の中からよだれがでた。
「ちなみに、朝ごはんじゃないからね。前みたいに授業中に早弁したりしないでよ」
「大丈夫だ、心配ない」
もちろん今回は流石にやらない。今の教室の席は、教卓から見えやすいためすぐにばれてしまうことを考慮に入れたためだ。
別にばれなきゃいいとか思ってないんだからね!
「今日はお夕飯作りに行ってあげるから、買い物付き合ってね」
「じゃ、放課後校門で」
そこで桃と別れ、二年の教室のある三階へ。途中、踊り場で桃ファンの男子に睨まれたがこれもいつも通りなので気にしないで行こう。
三階にあがり、自分のクラスである二年Ⅾ組へ向かう。二年のクラスでは一番遠いクラスなので少しかったるい。
教室に入り、最短ルートで自分の席へ。今の席はちなみに、二列目二番目だ。
「おう、おはよう藤沢!」
と、真っ先に話しかけに来たのが飛翔のクラスで唯一喋れるやつ
「元気だな、相変わらず」
「おうよおうよ、そう見えるかい。そりゃあ、この娘のおかげだな」
佐東は恥ずかしげもなく、ツインテールで巨乳の女の子のフィギュアをうちうポケットから取り出す。
「この娘はな、最近やってるゲーム「セイシュンカーニバル」に出てくるヒロイン、
自慢げに語る佐東。クラス内で叫ぶのは流石に気持ち悪いので少しは自重してほしい。しかし、だがまぁ佐竹みくとは中々こいつもいいセンスをしてる。
「ちなみに、佐竹みくのこと藤沢は知ってるか?」
「いいや、知らないけど」
「そっかぁ、ぜひこのゲームやってみてくれよ。みくちゃんはメインヒロインじゃないんだけどさ、主人公をいつも陰から見守る姿がめちゃくちゃ健気でかわいいんだよ」
知ってる、だってそのシナリオを描いたのは俺自身なんだし。
「ビバ二次元、ビバみくちゃん!」
まぁユーザーが可愛いと思ってくれたなら書き手側としても、嬉しい限りだ。流石に叫ぶのはやめてほしいが。
と、そんな時教室の空気を一新するように美少女が入室する。周りには多くの取り巻きがおり、入ってくるのは嫌でもわかるほどだ。
「朝からすげーなー、リア王」
「そだな」
飛翔は特に興味もなく返事をした。
確か彼女の名前は――「
あぁいう人間を見てると、心底自分に関係のない人種だと思う限りだ。
「でさぁ、みくちゃんなんだけど」
伊東もそこまで興味はないようで、すぐに佐竹みくの話に切り替わった。
こういうやつだから付き合っていけるんだろう、何となくそんな気がした。
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