第13話 運命の青い糸 十三
「なるほど。俺たちは同い年、ってことですね。
それで…井手さんは、ピアノをされていたんですか?」
「あ、下の名前で呼んでもらって構わないですよ。」
「あ、じゃあ、由利加さんは、ピアノを…、」
圭太の若干他人行儀な言い方に、井手さん、いや由利加さんはそうコメントを返す。
そこに現れたのは、俺の想像とは違う女の子だった。
というのも俺は勝手に由利加さんを、「黒髪で、髪の長い女子大生」だと想像していたが、(ピアノのイメージから、それを連想していた。)現れた由利加さんは黒髪ではあるもののかなりのショートカットで、その髪にもウェーブがかかっており、(これも、俺の最初の想像ではストレートヘアだと思っていたので、違うことになる。)「ボーイッシュ」という言葉がよく似合う女の子だった。
それで、(圭太が思うところの)「肝心の」顔は、パッチリした目ではないものの大きな瞳を持っており、一般的に言うところの「かわいい」部類には入る顔である、と俺は思った。…というよりも、「美少年」という言葉の方が似合うかもしれない、そんな中性的な顔で、由利加さん独特の魅力を醸し出している、そんな風にも俺は感じた。
「そうですね。私小さい頃からピアノをやってました。それで、少し自慢になってしまうかもしれないのですが、一応ピアノのコンテストで、賞をもらったこともあります。あと、作曲も小さい頃からやっていて、それで賞をとったこともあるんです。」
「へえ~!すごいですね!」
由利加さんの語りに、俺たちは素直に賞賛の相槌を打つ。
「それで、今回掲示板を見て、単純に『面白そうだな。』と、思いました。
これから一緒に活動、よろしくお願いしてもいいですか?」
またその語り口はソフトで落ち着いており、それが俺たちに好印象を与えた。
「もちろん!大歓迎です!
じゃあ、アドレスの交換を…。」
ということで、俺たちは正式に、一緒に活動することになった。
…ここで、1つ言っておかないといけないことがある。これは、俺が由利加さんと初めて会ってから、ずっと気になっていたことだ。
それは、俺と由利加さんとの小指の間に、「黄色い糸」が、見えたということである。
俺は今まで、あらゆるカップルの「運命の青い糸」を見てきた。それは、俺が付き合った人だけではなく、他のカップルも含めてだ。そして、そんな青い糸の上には決まって日付が書いてあり、その期日になると、カップルたちは別れてきた。
しかし、俺と由利加さんとの間には、そんな「青い糸」ではなく、「黄色い糸」が、見えていたのだ。
そしてそこにはいつもの日付がない。
『これは一体…!?俺の目の錯覚か?』
俺はそう思い、何度も(一応瞬きもして)由利加さんの小指と俺の小指とを見返したが、一向にその糸は消える様子はない。
『…ってことは、俺と由利加さんの間に、『黄色い糸』は確実に存在している…。
でも、これはどういう意味だ!?』
俺は、そのことを不思議に思った。
当然であるが、また繰り返しになるかもしれないが、俺は「運命の赤い糸」の話を知っている。それは、運命の相手をつなぐ糸…、そして今回もし由利加さんとの間にそんな赤い糸が見えていたら、恋愛に対してドライなさすがの俺も、
『ついに、運命の人が現れたのか…!』
と思い、喜んだことだろう。
しかし、俺は今まで「運命の黄色い糸」の話なんて、聞いたことがない。と言うかそんなもの、存在すらも知らなかった。
『でも、ここには確実に『黄色い糸』は存在している…。
ということは、この糸には何らかの意味がある…。』
「青い糸」の件もあり、俺はその存在を疑わなかった。しかし俺は、その意味を予想することすらできなかった。
「では私、この後用があるので、帰りますね。」
「分かりました。ではこれから、よろしくお願いします!」
俺たちはそう言ってその日は別れたが、その「黄色い糸」は、消えることはなかった。
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