第11話 運命の青い糸 十一

 「さすがだよ圭太。やっぱお前の映像すごいわ。」

俺と圭太の映像チェックの後、俺は素直な感想を圭太に伝えた。

「やっぱり、克也くんもそう思いますか!?ま、それほどでも~!」

調子に乗っておどける圭太に俺は、

「で、これを圭太はどういう風に編集したいの?」

と訊いた。

「まあ一応俺の希望としては、恋愛シーンのアクセントとして使いたい、ってのはあるけど…。」

「悪いけど俺は恋愛映画にはそんなに興味ねえよ。」

「だよな…俺もそう言うと思ったよ。

 だったら、ロック系の音楽に乗せる、かっこいいイメージ映像なんかはどうだ?」

「おっ、いいねえ!」

 圭太の2度目の提案に、俺はすぐに賛成した。

「じゃあ早速、案練りますか!

 で、いつものことだけど、俺絵は苦手だから絵コンテよろしく~!」

「了解!」

そう言うなりすぐに、俺たちは次回の映像の案を出し始めた。ちなみに俺は、美術は(絵だろうが彫刻だろうが版画だろうが)小さい時から得意で、そのことがこのサークルでの活動に活かされている、と自分でも思う。

 「…この場面は、やっぱ海の映像にホワイトバランスかけた方がよくね?」

「だよな圭太。」

ちなみにホワイトバランスとは、さまざまな色あいの光源のもとで、望んだ色調の写真を得るための補正(辞書の説明)のことで、この場合は、映像全体を白基調に明るくする、ということである。

 「…で、この空の映像は、もうちょっと青を強調した方が良くねえか?」

「圭太、これも悪いけど、俺青色はそんなに好きじゃないんだよね…。

 どうせなら別の夕焼けの映像の赤、もうちょっと強調しねえか?」

俺の提案に圭太は、

「なあ克也、俺前から思ってたんだけど、何でお前、青が嫌いなんだ?」

「別に、嫌いではねえけど、な…何となく?」

本当は、俺は人の「運命の青い糸」を散々見続けてきた結果、その「青色」も嫌いになってしまったのだが、そんなこと言っても仕方がない(このことについては他人には言いたくはない)ので適当にごまかして答えると、

「もしかしてお前、青より赤の方が好きってことは…実は運命の赤い糸、信じてたりして…!」

と、圭太は(たまたまだろうが)当たらずとも遠からずのことを言ってきた。それで俺は少々焦り、

「いやいや、それはないから!

 それに、赤が特に好きってわけじゃなくて、あくまで『この場合は』の赤だからな。」

と答えると、

 「何、図星か!?

 って、克也に限ってそれはねえか。

 ま、了解!俺も何となく好きとか、嫌いとか多いもんな。」

と、とりあえず納得した様子で圭太はそう言った。(その時俺は、一瞬俺の秘密がバレたかのような気持ちになったが、まあそれはないだろうということで、自分の気持ちを一件落着させた。)

 「あと、肝心のBGMだけど、誰に作ってもらう?」

「そうだなあ…やっぱりここは、河野(こうの)先輩に頼るしかねえかな!」

「やっぱそうだよな!」

ちなみに河野先輩は、俺らより1個上の大学3年生である。それで、先輩は映像編集だけでなく曲作りや楽器演奏も得意で、俺たちのサークル活動とは別に、バンド活動でギターも弾いている。(あと、見たことはないがうわさによるとピアノも弾けるらしい。)まあ、俺たちから見ると、河野先輩は頼れる憧れの先輩だ。

 「でも克也、先輩3年だろ?就活とか忙しいかもしれねえな…。」

「まあ確かに、最近もよくサークルに顔出してくれてはいるけど、作曲となると時間もかかるだろうし、無理かな…。

 とりあえず訊いてみるだけでも、とも思うけど、先輩のことだから、

『OK!やるよ!』

って言ってくれて、無理させちゃうかもしれねえな…。」

「だったら悪りぃな。じゃあ今回は、別の人に作曲、お願いするか。」

「そうだな!」

…こんな時、「俺が音楽も、得意だったらいいのに。」と、俺は心の中で思う。一応俺はこのサークルでの活動でいろんなBGMを聴いてきて、「いい音楽」とそうでないものを聴き分ける能力は育ってきたと自分でも思うが、作曲となると話は別で、そんな才能は俺にはない。いや、この際だからはっきり言おう。俺はそもそも音楽は大の苦手で、カラオケでも音は外すし、音楽に関してはいい思い出がない。(何とか聴く耳が育っただけでも、奇跡に近い…と俺は思う。)

「じゃあこの際だから、俺たちの映像の作曲者、公募しねえか?」

圭太の提案に俺は、

「おっ、いいねえそれ!」

と、2つ返事でOKした。

「じゃあネットの学内の掲示板に、今から書き込みするけどいいか?」

「もちろん!」

俺たちがそう言い合って盛り上がっていると圭太が、

「でも、これでかわいい女の子が俺たちのサークルに入ってきて、それで、運命的な出会いを果たして、って…。

 俺、そういうの憧れるなあ~!」

と言ったので、

「俺はそういうの興味ねえな。

 とりあえず、いい作曲者が見つかれば、男でも女でもどっちでもいいよ。」

と、俺は返した。

「何だよ、人が盛り上がってる時に~!

 ってか克也、前からだけど、お前映像とかそれ以外のこととかは熱いのに、恋愛になるとどこか冷めてるよな!?」

「そ、そうか!?」

圭太にそう言われた俺は内心でまたも焦ったが、まあ俺の秘密は絶対に予測なんてできないだろう、と思い気を取り直した。

 「OK!とりあえずアップしたよ!」

仕事の早い圭太はつべこべ言っている間にも手を動かしており、俺たちは正式に、作曲者を募集することになった。

 「じゃあ、今日の所は帰るか~!」

「そうだな、圭太!」

 俺たちが部屋の外に出ると、外は雨が降っていた。

「でももうすぐすると、この雨も雪になって、初雪になるんじゃねえか?」

「…まだ早い気もするけどな…。」

「そうか?

 でももうすぐ12月で、雪が降るホワイトクリスマスまでに、運命的な出会い、果たせたらいいなあ…!」

「まあ彼女はできるかもしれねえけど、多分すぐ別れるよ。」

「おいおいそんなこと分かんねえじゃねえか!

 でも『恋愛エスパー』の言うこと、外さねえし…、怖いなあ…。」

「ま、とりあえず映像製作、頑張ろうぜ!」

「そうだな!」

俺たちは傘を持ってきていなかったので、その日は学内のコンビニでビニール傘を購入し、家路に着いた。

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